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第869話 第二次境内戦争 ─大地─

 

「───」


 イブは、一言も喋らずに『妖精物語(フェアリーテイル)』の『忍』であるシノビからの攻撃を待ち構える。

 一言も喋らず、目を瞑っているのは集中しているのだろうか。それとも、精神統一しているのだろうか。


 これを見ているシノビは、イブの心身を把握することも掌握することもできないので、何かしら適当な理由を付けなければならないだろう。

「───理由など、どうでもいい。妹の仇を、俺は早く殺さねば」


 シノビは、そう口にしてイブの死角から手裏剣を投げる。

 相手が集中しているというのならば、それはきっと俺の攻撃に対してだ───シノビは、そう考える。


 だから、シノビは絶対に攻撃を当てるために、死角から背中を狙って投げるのだ。

 頭を狙うのは、避けられる危険性があったので避けた。


「───ッ!」

 イブの背中に突き刺さる手裏剣。イブは、閉じていた目を見開く。

 背中に手裏剣が刺されば、誰だってその驚きから目を見開いてしまうだろう。


「───潜んでいるのか...本当にウザったい」

 イブは、小さくそう口にする。イブは、クルリと180°体を回転させて、その方向にある壁や天井をグルリと見回す。


 ───が、もう既にシノビはそちらの方向にはいない。


 イブが振り返ると同時に、イブが先程まで向いていた方向に移動していたのだ。

 シノビの潜伏は一級品だ。シノビに、忍び込めないところはないだろう。


 ───そう、シノビの本業は潜入である。

 シノビは、真っ向から戦闘して勝利できるほどの実力は持っていない。

 無論、忍者である以上妨害や暗殺に必要なものは持ち込んでいるものの、直接的な戦闘となるとそこまでの強さは持っていない。

 そのことは、手裏剣を生み出す能力があるかとからも推測できるだろう。


 だが、だからと言ってシノビがこれまで戦闘を避けてきたわけではない。

 先述の通り、シノビは多種多様な暗殺道具を大量に持っていたし、任務の中には直接的な戦闘を強制されることもあっただろう。

 シノビは、相手の不利と自分の利をぶつけて勝利を掴む職業だ。

 だからこそ、直接戦闘になったとしても、潜伏の技術を駆使して相手に不利の状態を押し通し勝ったのである。


 直接戦闘さえも、潜入・潜伏の技術で勝つことができた。

 今回だって、それは同じだ。正々堂々戦わず、忍んで戦っている。

 イブにとっての戦場は、きっとイブよりも広いだろう。シノビの網羅している範囲は、この建物全域だ。

 蜜月神社の中であれば、一瞬でどこにも足を動かせるだろうし、殺そうと思えば暗殺だってできるはずだ。


「───妹の仇ッ!」

 そう口にして、黒い忍装束に身を包を包んだシノビは、イブに対して手裏剣を投げる。


「───見切った」

 イブは、そう口にして、体を横に動かしてその手裏剣を軽々と避ける。地面には、深く手裏剣が突き刺さり、これと同じ威力のものが背中に刺さっていたのだろうか───と思うと、少し怖くなってくる。

 だけど、そんな恐怖をも乗り越えて、イブは背中に突き刺さった手裏剣を抜いて、先程手裏剣の飛んできた方向へと手裏剣を投げ返す。


 ───が、素人の投げる手裏剣だ。


 手裏剣は、ボールともディスクとも違う、また別の投げ方のコツがいる。

 だからこそ、狙ったような方向には飛ばずに、見当違いの方向へ飛んでいったのだ。


「───」

 イブは、自らの手裏剣捌きのセンスの無さに閉口してしまう。

 まぁ、狙っているところに投げても、その時には既にシノビは天井に移動していたので意味はないのだけれど。


「───と」

 イブはそう口にする。そして、少し顔に疲れを見せた。

 シノビは、その気怠げな表情に怒りを覚える。それもそうだろう。妹の仇として全身全霊で戦っているのにもかかわらず、相手からは嫌そうな顔をされるのだから。


「シノビ。聞いているんだろう?降伏するなら今が最後だ」

「───」

 イブの、一方的な物言いにシノビは眉をひそめて顔をしかめる。それもそうだろう、これではまるでイブのほうが有利な物言いだ。

 シノビはまだ無傷で、イブには背中や腕に手裏剣が刺さっている。傷の量からも、立ち位置からもシノビの方が有利だと言うのに、イブのこの言い分は何なのだろうか。


「───頭に来たぜ、赦さねぇ」

 そう口にして、シノビは十数枚の手裏剣を生み出して、イブに対して投擲する。


「───これで最後だ。降伏するのはお前だったようだな」

 その言葉と同時、イブは手裏剣で串刺しになり───


「このまま潜伏していればよかったものを。これで潜伏も降伏も終わったな。幸福か?」

「───ッ!」

 天井を割るようにして、蜜月神社の中にまで入ってきていたのは、氷柱のようにして伸びていた大地であった。それが、イブを守る壁として機能したのであった。


「───だが、なんで空から大地がッ!」

「お前を倒すためだ。どこにでも潜伏できるお前を捕らえるために、俺の体力の殆どを使って大地で蜜月神社を囲んだ」


 神社を囲むのであれば、建物が崩壊して奥で戦っている皆に迷惑をかけることもないだろう。

 イブは、神社を大地で囲うことで天井から大地を氷柱のように出すことに成功したのだ。そして───



 これ以上は、殊更詳細に書く必要もないだろう。

 天井から篠突く雨のようにして尖った大地が降り注いだ。


 要するに、奪われたのだ。命が。

 シノビの仇は失敗に終わった。2人は、天国で出会えただろうか。

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