第865話 第二次境内戦争 ─剣姫─
ムーンライト教の総本山である蜜月神社に参拝に来ていた信者が、『チーム一鶴』の襲来に逃げ惑っていたところを、オーガの鶴の一声により、導かれるようにして、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
立ち振舞からも、漏れ出るオーラからも、猛者であることが容易にわかる彼こそが、『妖精物語』の『鬼』であり、紛れもない最強格の1人であるオーガであった。
『チーム一鶴』が攻めてきてからの、オーガの活躍というのは『妖精物語』の中でも一番ではないだろうか。
攻めてきた最初は、活躍の色を見せなかったけれど、『ゴエティア』序列35位であり、25の世界の侯爵であったマルコシアスが王城に攻め入った時は、仲間と協力こそしていたもののマルコシアスをその手で討ち取り、『チーム一鶴』が崩壊した王城に攻めてきた時も、鬼神であるバトラズを怪我一つなく食い止めていた。
そんなオーガの列伝・武勇伝に、再び名前を刻むためにオーガの目の前に立ちはだかるのは1人の人物。
オーガと同じく鬼神であるバトラズであった。
もっとも、今回はバトラズだけでなく鬼神のモンガもいるが。
「───それじゃ、広くなった。そろそろ始めるか?」
参拝客が雲散霧消した境内。ここが、バトラズ・モンガvsオーガの戦場になることは、もう既に決定事項だった。
「残念だが、負けてやるつもりはないぞ。勝てなくても、負け惜しみを言うなよ」
「当たり前だ。こっちだって勝つつもりで───いや、勝っていく。文句はないよな?」
「───お互い、勝ちたいのは、負けたくないのは一緒なようだ」
「そうだな。2vs1だが、文句はないようだから早速」
そう口にして、バトラズは静かに刀を抜く。それを見て、モンガも刀を抜いた。
オーガは、能力で刀を具現化しているので『刃の下に心を』を発動させて、その手の中に刀を用意する。
「俺の名はオーガ!名前を、聞かせてくれよ」
「───」
「私の名はモンガ!」
「───!俺の名はバトラズ!」
オーガが唐突に名乗り、バトラズは少し驚くものの、モンガはそれに合わせて名乗ったので、バトラズも自分の名を名乗る。きっと、オーガはモンガの名前を知りたっかたので、バトラズが名乗る意味も必要も無さそうだったけれど、名乗られたから名乗り返すのが義理なのだった。
「───では、行くぞ」
「応」
刹那、境内に巻き起こるのは旋風。
まるで鎌鼬が通ったかのように、見えない斬撃が周囲にも伸びていき、その空気に、地面に、切り傷を入れていく。オーガの刀を受けたバトラズは、その攻撃を受け止めてニヤリと笑みを浮かべる。
「───どうした、何がおかしい?」
「いや、何も。ただ、オーガは強くて戦っていて楽しいな───と」
「───そうか、そう言ってくれると嬉しいぜ」
「私も仲間に入れてくれ。モンガ剣舞」
バトラズの方へ、一瞬で接近してきたオーガを倒すためにも、モンガは刀を振るう。
「6の舞 霹靂」
「───ッ!」
オーガは、モンガの剣舞が危険なものだと一瞬で理解して、すぐにその場から飛んで移動する。
その結果、モンガの剣技はオーガに避けられてバトラズに当たりそうになる。
───が、モンガもその危険性はわかっていたので、バトラズの刀に自分の刀が触れそうになる寸前でピタリと止まった。
「こっちはこっちでえげつない剣舞だな。当たったら死んでたぜ、当たったらな」
オーガはそう口にして、軽い笑みを浮かべる。
オーガ程の実力者でも、モンガ剣舞に当たってしまえば死んでしまうだろう。
だが、それは逆に当たらなければ全く問題ないということである。
「モンガ、4の舞だ。一緒に行くぞ!」
「一緒に?まさか、バトラズ。使えるようになったのか?」
「あぁ!完全にマスターしたぜ!」
「そうか。嬉しい」
モンガはそう言って、静かにバトラズへと笑いかける。この顔は、幼馴染であるバトラズにしか見せない顔。
「企んでいるようだが、そう簡単に実行できると思うな!」
そう口にして、オーガは刀をしっかりと握りモンガの方へ迫っていく。が───
「モンガ剣舞」
オーガは、モンガがそう呟いたと同時に、先ほどまでいた場所でひとっ飛びで戻る。感じたのだ、モンガの明確な殺意を。捕食者に睨まれたような感覚を。
「「4の舞 懺悔」」
オーガが下がったと同時に、バトラズとモンガの剣が振るわれて「4の舞 懺悔」が披露される。
バトラズとモンガの周囲にある全てを切り裂くその剣技。入り込んだものから死んでいく魔の空間。
「───危ない、こんなの当たってたらひとたまりもないぜ...」
オーガはそんなことを口にする。2人の、万物破壊が故の絶対防御が作られたのを見て、一度深く深呼吸をする。そして───
「こっちも、ちょっくら本気出しますか」
オーガはそんなことを口にすると、自らの鬼神の血を覚醒させる。もう既に、オーガは自由自在にその血を覚醒させることができるところまで来ていたのだ。
「視えたぜ、一瞬の隙」
オーガがそう口にした刹那、バトラズの方へ刀が投げられる。もちろん、その刀はバトラズに当たること無く、披露される「モンガ剣舞 4の舞 懺悔」により塵になって消え失せる。
───が、その隙にオーガは『刃の下に心を』を発動させ、新しい刀を手の中に具現化させて、モンガの方へ迫っていた。
そして、繰り出される超スピードの剣戟である「4の舞 懺悔」の一瞬の隙を───それこそ、0.00001秒にも満たないような隙を見極め、そのタイミングでモンガに攻撃をしたのだった。
「───ッ!」
左肩から右腰への、キレイな袈裟斬り。
体が分断されることは無かったけれども、そこまで剣を深く突き立てる余裕は無かったけれども、袈裟斬りは成功した。
「モンガ剣舞、破れたり」
オーガの低い声でのそんな一言。バトラズも「4の舞 懺悔」の動きを止めて、モンガの方へ駆け寄ろうとしたが───
「バトラズ、大丈夫だ!私はまだ死にはしないッ!戦闘続行だッ!」
モンガは、まだ倒れない。オーガという同族に正々堂々勝利するまでは。




