第858話 第二次境内戦争 ─本殿─
俺達は、『妖精物語』のメンバーを乗り越えてムーンライト教の本殿に入り込んだ。
俺達は、正々堂々正面突破でやって来たので、ここに祀られているのであろう大仏や彫刻が目に入る───
二度目に目に入るのは、大量のコードに繋げられながら生きているか死んでいるのかもわからないような状況に置かれている人物だった。
人体実験をしている───かのような感覚であったが、それを動くような様子はなさそうだし、そもそも繋げられている人物はロボット───アンドロイドのような感じで、生命のような何かは感じられなかった。
「これは...」
カゲユキは、そのアンドロイドのような物体に驚いているようだった。
「カゲユキ、何かわかるか?」
「───いや、わからない。だが、これがムーンライト教の信仰する神様なのか?そうであるのなら気味が悪い...」
カゲユキはそう口にする。偶像崇拝であるのであれば、これがムーンライト教の「神」として成り立っていてもおかしくはなかった。
「早くこの部屋を進もう。どうせ敵はいない」
俺達は、本殿の奥へといそいそと進んでいった。本殿の横にある出入り口から、一般の参拝客は入ることができない部屋へと足を進ませる。
───と、本殿の中は畳を基調に作られた、なんとも日本らしい建物だった。
日本から来た異世界人がこの建築に関与しているのは確定しているのは、前に蜜月神社に来たときにも感じたことだ。
「前、あれだけ戦って壊したのに、もう直ってますね...」
ステラが周囲を見て、そう判断する。前回は、襲来してきた『付加価値』との戦闘があり、色々と暴れたのだけれど、もう既にその戦いの痕跡は残っていなかった。
外にもそのような様子は無かったし、もう直してしまったのだろう。
25の世界の王城も急ピッチで建設し直しているようだし、サンバードがいるとされていて、ムーンライト教の総本山である蜜月神社が真っ先に直されるのは当然と言えば当然だろう。
───と、俺達は畳の敷かれた部屋へと入っていく。
「───と、皆。気をつけろ」
イブが、そう口にする。
「「誰かいる」」
イブとカゲユキの、2人の声がそう重なる。2人は気付いているようだった。
───ここは、前回忍者のような月光徒のメンバーと戦った部屋である。
「気付かれちまってるか。俺も忍者失格かな」
そう口にして、畳を突き破るようにして出てきたのは1人の人物。黒装束に見を包んだ正しく忍者のような格好をした人物だった。
「───お前は」
「俺の名はシノビ。『妖精物語』の『忍』だ。まさか、妹を殺したことを、俺の仲間を殺したことを忘れた───とは言わせないぞ」
シノビと名乗るその忍者は、なんと『妖精物語』のようだった。
シノビは、黒装束から覗かせる目で、イブのことを睨んでいる。
「イブ───と言ったな?忍者ではあるが、俺はお前に正々堂々勝負を申し込む」
シノビは、そう口にしてイブを指差す。
「お前は俺の妹を殺した。それに、『妖精物語』のメンバーだって何人も殺した。だから、俺はお前を赦さない」
「それはお前らがステラを傷つけたからだ───などと言っても、聞いちゃくれないのだろう?」
「もちろんだ。それを言うのであれば、お前らが攻め入ったからなどと口にしてやる」
「───いたちごっこか、了解した。リューガ、先に行け」
「───イブ、大丈夫なのか?」
俺は、シノビの挑発に乗るイブが少し心配でそう口にする。
「あぁ、問題ない。こんな忍者、すぐに倒して合流する。俺1人で充分だ」
「───わかった。皆、行くぞ」
俺は、その場にいる全員にそう指示する。シノビ側としても、イブとのタイマンを望んでいるだろうから、俺達をスンナリと通してくれた。
「───ステラを任せた」
「あぁ、もちろん」
俺はそう口にして、先に進む。
イブが相手なのであれば、シノビであれ倒すことができるだろう。
───そのまま、俺達は進む。
前回、空から襲来してきた絶望も、今回はやってこない。もしかしたら、ユウヤ達が脱走してきたことへの対応に追われているのかもしれない。
具体的なことはわからないけれども、俺達は本殿の最奥まで進むことができたのだった。
できることであれば、誰かが乱入してくるのは避けたい。そして───
「───ここまで来たか。『チーム一鶴』よ」
「───サンバードッ!」
これまで一度も口を開かなかったフサインが、苛立ちを含めた声でそう口にする。フサインは、唯一の23の世界からの参戦だ。『六曜』として、ここに来ている。
サンバードは高級そうなソファーに座り、その隣には、シスターのような格好をした無表情の男性を護衛として置いていた。
「お前が...お前がガープを殺したのかッ!」
「俺が?俺が殺した───という質問に答えるなら、NOだ。俺は殺してない。殺したのは、ここにいるデスだ」
「───デスッ!」
そのシスターのような格好をした男性はデスと言うようだった。何も喋らないが、その圧倒的強者───狂者感は、肌で感じることができる。
───ついに、俺達はムーンライト教の教祖を前にしたのだった。




