第857話 第二次境内戦争 ─鬼神─
俺達は、『妖精物語』のメンバー数人との接敵を、1人か2人に任せた後に、その長い長い石でできた階段を登りきった。そこにいたのは───
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
「サンバード様をお守りしろ!」
「もう退路はないぞ!どうにかして迎え撃つか!」
「いや、もう知るか!これまでに何度も来やがって、俺達だけでも逃げるぞ!」
そんなことを叫びながら、ムーンライト公国の───いや、それ以前の人物であろうから、ムーンライト教の信仰者───それこそ、蜜月神社の神主や巫女など、運営側の人物達が、日本でも見たことあるような神聖な格好に身を包みながら、慌てふためいていく姿が見えていた。
きっと、ムーンライト教の信仰者からしてみれば、俺達は何度倒そうとしても力をつけて復活してくるような怪物に見えているだろう。そう思われても文句は言えないし、実際間違いではない。
「リューガ、どうする?」
「どうするもこうするも...コイツラは悪さをしているようには見えない。言われた通り、言われただけのことをしている歯車だ。壊すならコアを───要するに、サンバードだ」
「わかった。では、ここは無視でいいんだな...」
カゲユキが、俺に信仰者の命を奪うかどうかの確認をしてきたので、俺は奪わない選択をする。
1回目の境内戦争でもその決断をしたし、今回もその方針で行くことにした。
あくまで、悪いのはサンバードや月光徒だ。立ち向かって来る場合は接敵せざるを得ないが、敵意を向けられていない場合は無理に攻撃し傷つける必要はない。
───と、カゲユキとそんな話をしていると、本殿の方から飛んでくる一つの影。
「───この人混みの中、敵襲か...」
どこか既視感のある反応をした後、俺達の前にドンッという力強い音を立てながら着地してきたのは1人の人物。
その、強さがにじみ出たオーラと、既に抜刀している様子からは、こちらと対話をしてくれそうにはなかった。
「───オーガ。再戦を待っていたぜ」
バトラズが、逃げ惑う信仰者をひとっ飛びで越えてきた人物の名前を呼ぶ。
そこにいたのは、『妖精物語』の紛うことなき最強格。
『鬼』である、実際に鬼神であるオーガであった。
「バトラズ、久しいな。俺も再戦できる時を待っていた。ここは一騎打ちで───」
そこまで口にしたものの、オーガの口は止まる。オーガは、口を開けて見つめていた。
これ以上言葉を紡ぐこともなく、ただ一人の『チーム一鶴』の人物を見つめていた。
「いるじゃないか、バトラズ。お前と引けを取らないような、同程度の人物が」
「同程度───だと?残念だな、姫様は俺よりも強い」
オーガが、猛者であるモンガと出会い嬉しそうにしているのを、バトラズはそう補足する。
───オーガは、気付いていた。
バトラズが、もう既にモンガよりも強くなっていることに気がついていた。だが、そんなことを感覚だけで口にするほど野暮ではない。だから、オーガは猛者の1人としてこう口にする。
「バトラズ。その女の鬼神は何と言う?」
「姫様の名か?モンガだ。だが、お前の相手は俺───」
「バトラズとモンガ。2人共、俺が相手をしてやる。だから、ここに残れ」
「「───」」
オーガの指示。
ここで従うのもいいが、バトラズとモンガという2大巨頭をここに残してしまうのは少々痛手かもしれない。
いや、だけどオーガの実力は一目見ただけですぐに理解できる。だからこそ、ここを2人に任せるということも大いに賛成できるのだ。
だからこそ、俺は迷う。
「───バトラズ、モンガ。どうしたい?」
「俺は姫様と共闘でも構いません。でも、姫様1人でオーガを倒せるかと───」
「バトラズ、一緒に戦ってくれ」
「───ッ!」
バトラズは、モンガ1人でも充分だと言うけれども、モンガはバトラズに一緒に戦ってほしいと願う。
オーガは実力者であるため、ここの2人に任せる以外の選択肢はない。イブを残すのも良かったけれど、それでオーガは納得しなさそうだった。
「───わかった。じゃあ、ここは姫様と俺の2人で戦う。リューガ達は先に行ってくれ」
「了解した。じゃあ、バトラズ、モンガ。ここは2人に任せたからな」
「もちろんだ。私達に任せろ。『剣鬼と剣姫』の実力を見せてやる」
モンガは、俺にそう返してくれる。
「───と、戦うにしてもこの多くの人集りは邪魔だ。全て斬ってもいいのだが、双方それは望まないだろう?だから、ちょっとここから退かしてくれ」
「あぁ、もちろんだ。こちらとしても、それを望んでいるからな」
そう口にすると、オーガはクルリと反対側を向き、信仰者に対して一喝する。
「お前らはここを捨てて早く逃げろ!鳥居の繋がる石の階段は使うなよ!山の中をかき分けて逃げろ!」
オーガの声が聴こえると、巫女や神主は蜘蛛の子を散らすようにして一目散に逃げていく。どうやら、「逃げろ」という命令を欲していたようだった。
「───それじゃ、リューガ。お前らもどっかに行け。お前らの狙いであるサンバード様は本殿の中にいるからよ」
「そんなこと...教えてよかったのか?」
「あぁ、秘策───が、あるからな」
そう口にして、オーガはニヤリと笑う。その秘策とやらが、何を表しているのかはわからなかったけれど、俺達は進むことしかしないし、できないのであった。




