第832話 鬼神の嗅覚
タイトルの読み方は「オニのきゅうかく」です。
一方、こちらは瓦礫が多数残る25の世界の王城の跡地へ、『妖精物語』の『結』であるルージョンの姿で潜入していったリューガの合図を持つ3人───バトラズとイブとステラは、王城の跡地の近くにこっそりと潜んでいた。
「リューガがどうやって合図してくるかわからないから、できれば多くを見ておいたほうがいいだろうな」
そう口にして、バトラズは近くにある建物の屋根の上までひとっ飛びして、その崩壊した王城を一望できる場所に辿り着いていた。
「流石はバトラズさんですね!」
「そうだな...」
下に残されたイブ・ステラの2人は、そんなことを口にしながらヒョコッと路地裏から顔を出して城の方を見ていた。
「───」
「───って、ちょっと!頭、撫でないでください!」
「嫌か?」
「嫌ではないけど...恥ずかしいです...」
そんなことを口にしながら、カップルでいちゃついている2人。だが、そんな2人の幸せ空間を壊すようにして崩落した王城の方からやってくるのは、3人の人影であった。
「───誰か来たぞ」
バトラズが、そんなことを口にしてステラと、その頭を撫でるイブの元へ戻って来る。
「誰だ?」
「わからん。だが、只者では無さそうだ」
バトラズは、そう口にして腰に携えている刀の柄を握る。これで、いつでも抜刀できる準備ができた。
───そう思った時、道の真ん中に立ち潜伏している3人に大きな声で呼びかけるのは1人の男。
「『チーム一鶴』よ!いるのであろう!いるのであれば、出てきて欲しい!すぐにでもだ!」
「「「───」」」
その呼びかけに、3人の動きが固まる。その声は、紛れもない強者の声。
「───どうする?出ていくか?」
「もう、こっちはバレちゃってますよ!」
「そうだな...」
「いるのはわかっている!鬼神の嗅覚をナメるな!お前らの敵意を感じ取った!」
大きな声を張り上げて口にしているその人物は自らのことを鬼神と言った。それは、バトラズと同じ種族である鬼神。
「相手が奇襲をしてこない───ということは、ある程度は正々堂々と戦うつもりがあるんじゃないか?」
バトラズは、そう冷静に分析する。だが、向こうの思惑はわからない。姿を見られただけで能力が発動してしまうのかもしれない。
「向こうはこちらの場所に気付いていない?」
バトラズはそんなことを口にする。もし、鬼神の嗅覚で感じられるのが、大雑把な場所だけであれば、こうして大声で呼びかけているのも納得が行く。
「───そしたら、バレる前に攻撃した方がいいですかね?」
「いや、それは危険だ。多分、相手は俺達を誘い出しているわけではない。『妖精物語』は、一般市民を傷つけるつもりがないだけだろう。むしろ、こっちから攻撃したら宣戦布告と取られるぞ」
「別に俺は宣戦布告でも構わないのだがな...」
「それなら中にいるリューがにどうなるかわからんだろう」
イブの説得に、バトラズがそう返す。でも実際、もう既に戦うことを口にしてしまっているのだから、バトラズにとっては大差ないだろう。だが、それでもリューガに影響があるようじゃ、駄目なはずだ。
「───さて、どんな設定で行くことにするか...」
「ステラはそういうの苦手なのでお口チャックしておきます!」
「偉い。苦手なことを無理してする必要はないもんな」
イブは、嘘を付くことが苦手なステラのその決断を褒めるように頭を撫でる。
「───まぁ、接待なんか会話してる間に決めていけばいいだろ。リューがの不利にならないように」
そう口にして、仕方なくバトラズは敵前に出る前ことを選択する。皆、準備はできたようだった。
「早く出てこい!隠れているだけ無駄だぞ!いるのはわかっているのだから───」
「───はいはい、うるさいなぁ...」
その鬼神の声掛けに答えるように、先陣を切って出るのはバトラズであった。
「───お前らが、『チーム一鶴』か?」
「如何にも」
バトラズに続き、イブとステラの2人も敵前に姿を現した。
「───あ、あれは強いって噂のイブや!最初の戦闘でも、壁を作ったりしてたで!」
そう声をかけるのは、鬼神───オーガの後ろにいる関西弁を使う男で───コンティーであった。
他にも、寡黙な幼女───イブニングの姿もあった。敵は、3人であろう。
「では、俺は鬼神と半鬼人同士、戦ってこようとするかな!」
バトラズだって、オーガと同じく鬼神であるが、それを知らずに自らのことを半鬼人だと思っているので、そう口にしていた。
「他の2人は、そっちで頼む」
バトラズはそう口にして、刀を抜く。
「市街地戦はしたくないんだろ?俺達には民の調和を乱し、国家転覆の恐れがあるからな?」
「───そうだ。特に剣戟は危険だ。どんなアクシデントがあるかわからん。城の前まで来い」
「城の跡地前───だろ。カッコつけんな」
「───」
バトラズとオーガのそんな会話。なんだか、バトラズの嫌味が多い気がするが、相手が鬼神であるあからだろうか。
───と、そんなことで鬼神同士の戦いが、幕を開けようとしていた。




