第78話 さよなら
「6の世界は...ミラグロみたいな騒がしさはないな...」
「えぇ!そのようですね!」
ショウガとリカは俺にはよくわからないことを話す。
「えっと..あれか?財布盗られた...みたいな感じの騒がしさってことか?」
「はい!そうですね!横断幕とかは無いですし!」
「へぇ...そうなのか...」
俺らは少し小高い丘のような場所に現れた。まずは、ここからどうにかして降りなければ。
「どうやって...降りる?」
「我は『柔軟』を使えば落下出来るが...」
「私も『硬化』で体を硬くすれば落下時の衝撃は耐えられます!」
「俺らは無理だろ...」
トモキが珍しく2人の意見にツッコミを入れる。
「そうですね...」
「階段でも探すぞ...何人もここには来ているだろう...」
「あぁ!そうしましょ!」
俺たちは階段を探す。階段はすぐに見つかった。
「あぁ!あなた方は!」
俺らは初老の男性に声をかけられる。
「あ、あなたは?ここでの探訪者の案内を行っております。ギルという者です」
初老の男性はギルと名乗った。
「あなた方は、ここに来たばかりですよね?」
「あぁ...そうだが...」
「なら、探訪者専用の宿泊施設があるので、付いてきて貰えますか?」
「あぁ!いいぜ!」
ショウガは気楽にオーケーする。俺たちはギルに付いていくことになった。
***
俺たちは宿泊施設に到着した。食事などは出ない代わりに、宿泊費用はかからないらしい。
部屋はこじんまりとした2LDKだったので、2部屋借りることにした。もちろん男女で分かれる。
ギルはもう帰っていた。
「でだ、アイキー探しはどうするんだ?」
全員男子部屋に集まっていた。そして、作戦会議をしている。
「そうだな...アイキー探しは明日からでいいんじゃないか?」
「わかった。じゃあ、明日詳細は決めよう...」
「あれ、そんな簡単でいいのか?」
「あぁ...明日はアイキーを探しつつ街の観光だな...」
「そうか...」
「なぁ、そういえばさぁ?」
「どうしました?」
トモキが何か話し続ける。
「この前さ、リカは奴隷って言ってたけど...どこで働かされてたの?」
「私の話ですか...」
「あぁ...嫌なら話題は変えるが...」
「いや、そろそろ話しますよ!リューガさんやショウガさんにも話していませんでしたからね!」
俺もリカのことはあまり知らない。
「私は、1の世界の農園で9歳から雇われていました...」
「え、9歳から?今何歳?」
「今は16歳です」
「へぇ...7年間もか...辛かったろうに...」
「1の世界では、人間の差別が酷かったんです。私の農園はその中でも、人間差別の塊である存在のヘイターって言う鬼神の管轄だったんです。なので、差別されていました...」
「そうか...大変だったな...」
「でも、そのヘイターを!リューガさんは倒してくれました!とても!とっても嬉しかったです!」
リカは俺の方を見て微笑む。俺も微笑み返した。まぁ、ヒヨコなので微笑めたかは微妙だが。
「奴隷って...例えばどんな仕事だ?」
「荷物持ちや、畑の収穫・雇い主の身の回りの掃除などを無賃金で...」
「え、無賃金なの?」
「えぇ...そうですよ。蜥蜴人間はともかく、人間に支払うようなお金などない!なんて、言うんです...でも...」
「それは酷いな!」
「あぁ!人間差別が過ぎる!」
「無賃金なんて...とても人間の心を持ったとは思えない...あぁ...差別する側だから人間じゃないのか...」
「なぁ、リカは、農園のみんなが嫌いだったんだろ?」
俺は迂闊にもそんなことをリカに聞いてしまう。
「そんな訳...無いでしょう!」
リカは声を大にする。拳を握って、立ち上がった。
「私が農園のみんなが嫌いな訳...無いでしょう!」
リカは俺らを睨んだ。
「確かに私は差別されていました!確かに無賃金労働でした!でも...でも...でも!それは建前上です!誰も見ていないようなところでは...ところでは!みんな、みんな、みーんな!優しくしてくれた!みんな、みんな、みーんな、私のことを考えてくれた!慰めてくれた!ヘイターに逆らったらヘイターの目に仇にされて虐められることくらいみんな知っていた!私も知っていた!なら、なら、なら!私は建前上差別されていてもしょうがなかった!はは...そうですよね!差別されていないユウヤさんやマユミさん達や、豚になってただけのショウガさん、他の世界から来たリューガさんにはわからないですよね!農園から私を買収して仲間にしただけで私を助け出せたなんて思わないでください!確かに体はあの強制労働から助けられた!でも、心は、精神は!農園で働いていた時と変わらない!あの、優しさは農園で働いていた時と変わらない!それなのに...あなたは、あなたたちは!農園のみんなを侮辱しました!私は...私は、私は!それを許せません!許しません!許していいわけがありません!私は...私は...私は...」
リカは泣きそうになりながら、唇を噛みしめ、拳を強く握る。
「チーム一鶴を...出ていきます!」
リカがとんでもないことを言い出す。チーム一鶴を抜け出すだと。俺はリカの目を見る。リカは本気だ。
リカの目は涙で濡れているが本気だ。リカはチーム一鶴を脱退する覚悟がある目をしている。止めなくては。
リカは一呼吸いれて、玄関の方へ一気に走り出す。そして、家を出て行く瞬間にこう叫んだ。
「さよなら!」




