第817話 第三勢力『ゴエティア』
───なんの断りもなく唐突に、『妖精物語』の元へとやってきた25の世界の侯爵であるマルコシアスを連れて、『妖精物語』の『鬼』であるオーガ・『業』であるビジネス・『戦』であるヴァトル・『宵』であるイブニングの4人は、談話室へと向かう。
「次からは来る時に直接連絡してくださいね」
その道中、オーガはそう口にしてマルコシアスに対してそう声をかける。いくらマルコシアスが侯爵だから───と言っても、唐突に『妖精物語』のいる部屋に飛び込んで来ていいわけではない。
王城に入る際に、門番から許可を貰って入っているのだろうが、それでも事前に一言くらい連絡は欲しかっただろう。
「すまないな、唐突に来てしまって。その理由は、今すぐにでも話しておきたい内容だったからだ」
マルコシアスは、そう口にする。
「ところで、今日はどうやって来たんですか?」
「いつも通り、火馬に乗って来た。その理由はそれが私の一番の移動方法だからだ」
マルコシアスは、ヴァトルの疑問に答えながら先導するビジネスの後を付いていった。
「はい♪到着しました、談話室です♪ここなら、今の時間は使用できますので♪」
そう口にしたビジネスは談話室の扉を開ける。そこは、数個の椅子と長机が用意された談話室であった。
「連れてきてくれて感謝しよう。では、失礼する」
そう口にして、マルコシアスはビジネスに一礼した後に部屋の中に入っていく。
「では、手前の席にお座りください♪」
ビジネスの指示に従い、マルコシアスは扉側に近い席に腰を下ろした。そして、『妖精物語』の4人は扉から遠い───部屋の奥の方の扉に座った。
「───それで、要件は?」
そう、胡散臭い笑みを浮かべながらビジネスはマルコシアスに語りかける。
───ビジネスは、この時持ち前の能力を使用していた。
ビジネスは、戦闘向けの能力ではない。その能力の名は『対等対話』である。
対等対話・・・相手と、対等な立ち位置で対話することが可能。
その能力は、相手と対等な立ち位置で対話することが可能───という能力であり、一見なんの意味もないと思うかもしれないが、王侯貴族が多くいる中での、話し合いをする際に、ビジネスの能力は、かなり有用であった。
この能力のおかげで、自らの───要するに、『妖精物語』の利益のために、謙遜なく忖度のない議論ができるという能力であったのだ。
「───君達もよく知っているだろう。『妖精物語』の『花』であるフォラスとは仲良くしてもらっていた」
「フォラスと───ですか?繋がりがあったなんて...知りませんでした」
「そうだろう、そうだろう。知らないのも当然だ。その理由はフォラスはボケていて話そうと思い話すことも、自慢することも無いだろうからだ。そして、私もその事実は公表してこなかった。だから、知らないのは当然だ」
そう口にするマルコシアス。その表情はどこか悲しそうだった。
「フォラスは...なんだかんだでいい先輩だった。私がこうして25の世界にいるのもフォラスのおかげだろう」
「フォラスは...そんなに大きな影響を与えたんですか?」
『妖精物語』のここにいるメンバーは、フォラスがボケている頃の話しか知らない。
マルコシアスは何歳なのだろう───という疑問を持ちつつも、女性に年齢を聴くなどという行為は対等であれどできないので、聴くことはしなかった。
「私は動く。その理由は、私はフォラスに死んだらこうしろと指示されているからだ」
「───え」
その言葉と同時、ビジネスの首が宙を舞う。
マルコシアスが、腰に携えていた剣を引き抜いてビジネスの首を斬ったのだ。
「───ッ!」
その想定外の行動に、その場にいた他の3人は驚く。
だが、『妖精物語』は少数精鋭。ビジネスの首が地に付いて音を鳴らすよりも先に動き出したのは、オーガであった。
「よくも、オーガをッッッ!」
その言葉と同時に、オーガは『刃の下に心を』で剣を具現化する。そして、マルコシアスの持つ剣とぶつかったのだ。
刃の下に心を・・・刀剣を具現化することが可能。
「戦争をしよう!その理由は、私が『ゴエティア』で25の世界の略奪を考えているからだ!」
そう口にしたマルコシアス。
───これは、『ゴエティア』序列30位のフォルネウスの策謀。
25の世界を奪い取るために、『ゴエティア』序列31位から35位のメンバーを、様々な方法で動かしていたのだ。
『妖精物語』であったり、侯爵としてであったり、他にも様々な形で25の世界に潜んでいる。そして、それは序列30位であるフォルネウスも同じことだった。
そして、序列31位のフォラスが死んだことにより、マルコシアスは略奪するとしたらじゃまになるだろう『妖精物語』の解体を命じられて、それに従って動いているのだった。
「私の実力は折り紙付きだ。さてさて、君達はどこまで私を楽しませてくれるかな?楽しみだ」
───こうして、『妖精物語』と『ゴエティア』の戦争は開始されたのだった。




