第799話 さらなる戦争
『六曜』が、23の世界に帰って会議を終わらせた俺達はそのまま部屋に帰ってバタンキューだった。
ベッドが発生させる原因不明の重力を第三宇宙速度で抜け出して、俺達はシャワーを浴びた後にそのまま眠りについてしまったのだった。
とても深い眠りだった。
リミアの能力で怪我は治すことができても、疲れを除去することはできない。
だから、回復してもらった俺も疲弊感はあったので、『チーム一鶴』は皆、死んだように眠った。
***
「おう、リューガ。やっと起きたか」
「───って、嘘!どうしてここにショウガが?」
「ふっふっふっ、聞いて驚け!我は月光徒のアジトから抜け出してきたのだ!」
「そうだったのか...」
「あぁ!我の手にかかればアジトから抜け出すことなどお手の物よ!」
ショウガは、自信満々にそう答える。バトラズから聴いた話では、ショウガは死んだはずなのだが、どうしてここにいるのだろう。まぁ、そんなことはどうでもいい。
ショウガが生きていれば───
「───って、あれ?」
ふと、俺の目の前からショウガが消える。
「残念でしたね、リューガさん。ネタバレですが、ショウガさんは死んでおりこれは夢ですよ」
「───」
その言葉と同時、俺は夢から追い出されるかのように目を覚ます。
***
「───んだよ...夢か...」
俺が目を覚ますと、そこはスタンプ伯爵の屋敷の男子部屋だった。バトラズとオルバ・イブの3人がベッドで眠っており、俺は個別で用意された綿のベッドの上にいた。
「───ショウガは死んだのかよ...」
まだ、「ショウガの死」という事実が俺のことを縛り付ける。そこにあるのは、哀しいだけの現実。
死んでしまったショウガと、それを認められない俺のつまらない友情。
「ショウガ、俺はここまでずっと、ショウガに支えられてきたんだ...」
死んだと聞いた時は、ただ泣き喚くことしかできなかった。だけど、静かな朝ならばショウガへの思いを伝えることもできる。
「恋人として好きだった───とかはないし、もしそうだったらリンザルに顔向けできないんだけど、少なくとも家族のように俺は思っていた。俺には妹しかいないからわからないけど、姉貴───みたいな感じだったよ。ありがとう。愛してる」
そんな言葉を伝えたところで、気休めにしかならないことはわかっている。
だけど、そう口にするしか俺にはこの心を休める方法が無かったのだ。そんな生温い言葉でしか、俺は自分の気持ちを変えることができなかったのである。
言ってしまえば、これは自己満足だ。
ショウガの気持ちを一切考えない俺が言いたいことを言うだけの自己中な行動。
───が、それでよかった。
誰も、何も傷つかないのだと言うのであれば、俺はそんな生温いものでよかった。
***
俺達は全員起きて、ガープやスタンプ伯爵と机を囲んで朝食を食べている。
これは、昨日とも変わらない日常であるのだが、今日は少し違っていた。
「失礼致します!ご主人様に報告があります!」
俺達が朝食を食べている際に部屋に入ってくるのは、1人の男性。その男性は、大変焦ったような口調てま部屋に入ってきた。
「どうした!何があったと言うのだ!」
「王城に執事として忍び込ませているスパイからの連絡がありました!なんと、ご主人様の爵位が剥奪されるようです!」
「な、なぁにぃぃぃぃ?私の爵位が剥奪だとぉ?」
その、衝撃的な事実に俺達は食事の手を止めてしまう。まぁ、俺はヒヨコの姿だから手なんて使っていないけれども。
「待て、待て!!爵位剥奪とはどういうことだ!私がどうして、そんな目に遭わねばならん!」
そう口にして、スタンプ伯爵は立ち上がる。机を押さえて立ち上がった為、ドンと音がなり食器の揺れる音がした。
「それは...ガープさん及び『チーム一鶴』の皆様をこうして匿っている───いや、隠れてはいないので住まわせているからです...」
「───ったく、クソが...」
そう口にすると、椅子に乱暴に座ってため息をつく。
「あの...スタンプ伯爵...」
「今の私を伯爵と呼ぶのはなんの皮肉だ...もういい、私がこれまでに積み上げてきたものをお前らは一瞬にして破壊しよった...こっちもそれなりの覚悟はあったから、出て行けとは言わん。だが、勝てよ。絶対にだ」
スタンプ伯爵は、意外にも冷静だった。もし、こういう場面であれば「出ていけ」などと言われて追い出される可能性もあるだろう。
だけど、それをしないのは俺達を追い出しても、自分の処罰は何も変わらない───ということに気付いているからだろう。
もし「追い出さないと爵位を剥奪する」という通告なら、俺達のことを追い出していたのかもしれないが、届いた連絡は「爵位を剥奪した」というものだけだ。そうであるならば、もうどう足掻いても遅いのだ。
───と、スタンプ伯爵が諦めたと同時。
「大変です、ご主人様!つい先程、城に潜入しているスパイとの情報が遮断されました!もう死んでしまったと思われます!」
「ッチ、バレたか!」
「最後に、『妖精物語』のメンバーがこちらに向かっていると言う情報も入りました!」
「なんだとぉ?!」
「リューガ」
「あぁ、わかってる!!俺達はすぐに迎え撃つぞ!」
まだまだ消化不良のことも多いが、まずは迫りくる『妖精物語』を相手にしなければならない。
そんなことを思いながら、俺達『チーム一鶴』のメンバーは屋敷の外へ飛び出す。
───すると、そこにいたのは『妖精物語』のメンバー達であった。




