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第781話 意識外からの攻撃

 

 フサインは、『妖精物語(フェアリーテイル)』の『偽』であり『命辛辛』という能力を持つフェイクの弱点を発見する。


 もし仮に狙うのだとすれば、十中八九そこ───というか、ここまでフサインの行った攻撃は全て当たっていない。

 だからこそ、それに頼り縋るしかフサインには選択肢が残されていなかったのだ。


「───だが、一体どうやって...」

 フサインが狙うのは、意識外からの攻撃。一般的に「攻撃」とされないような攻撃。


 例えば、地震や落雷のような自然現象であれば『命辛辛』でも守ることができないだろう。

 そして、流れ弾などその人に対しての攻撃でないものも、ヒットするはずだった。


「───で、あるのならば」

 フサインは、剣を振るのをやめてそれを鞘にしま目を瞑って両手を広げるようにして立ち尽くす。


「───あ?」

 フェイクは、その攻撃に不信感を持ってしまう。フェイクは、フサインが何を企んでいるのかわかったのだ。

 人間不信の彼だ。不審な行動をする人に、無闇に近付くことは無いだろう。


「死ぬ準備ができた───ということか?」

「───」

 フェイクの問いかけに答えないフサイン。フェイクは、壁際に立ち銃を取り出した。黒光りする銃の照準をフサインにしっかりと合わせて彼は引き金を引く───


「───ッ!」


 ───その刹那、フサインの体から溢れるほどに飛び出てきたのは数え切れないほどの暗器。


 腹部に仕込まれたビームを放てる機構が、背中に用意された数個のマシンガンが。広げる両手から発射される大量の毒針が、脚部に接着されている飛び出るナイフが、寸分の狂いなくフェイクへ───否、フェイクの周りへと飛んでいく。


 流石の、これほどの猛攻では、フェイクの『命辛辛』でも避けきることができない───というか、壁際に自らに進んでいったフェイクに対して道は残っていなかった。


 ───と、それでも『命辛辛』という能力は存命だった。


 ビームは常時発射だが、マシンガンから放たれる弾丸のスピードが、毒針やナイフよりも一瞬早いことを能力で感知し、弾丸が壁に打ち込まれたのを認識してその隙間に体を入りこませる。


「───残念だな、フサイン。お前の攻撃は見切れている」

「───」


 フサインは、まだまだ手を横に広げ続ける。まだ、何か策があるようだった。

 そう思い、極度の接近は危険だ───と、フェイクは考える。だが、壁際に打ち寄せられるのも危険。それは、猛攻の第一陣からもわかっていた。


 だから、フェイクは思案しながらも銃を向けて発砲を試みる。


 ───が、その直後フサインがパカリと口を開けて、そこから炎を吐き出したのだった。


「───ッ!」

 フェイクは、その炎に巻き込まれないように体を動かす───というか、能力により動かされる。


「残念だな、当たらない...当たらないよ」

 フェイクは、自らの能力である『命辛辛』に対して絶対的な信頼をおいていた。だからこそ、先程のように意識外の攻撃は当たりやすいくらいに防御が弱いのだ。


「お前の攻撃は全て暗器頼りだ。ならば、当たらないよ」

「───何故だ?」

「簡単だ。暗器は人を殺すために存在している。暗器そのものの概念が、俺の『命辛辛』には反しているんだ」

「───そうなのか...」


 フサインは、自らの持ち武器である暗器を、持ち能力である『暗殺大陸(ブラックラック)』が塞ぎ込まれてしまう。

「剣で攻撃しようと、能力で攻撃しようとお前は俺を殺すことはできない。諦めるんだな、戦闘を」

「諦める───それは即ち、死ねってことか?」

「まぁ、そういうことになるだろうな。お前のことは───顔も名前も能力も、その多種多様な武器もほとんど覚えた。だから、正直に言ってしまえばを死んでもらっても構わない」

「それはお前の都合だろ!俺は死んじゃあ困る!少なくとも、困る人がいる!」

「お前が俺の意見を受け付けないように、俺もお前の意見を受け付けていない」

「───要するに?」

「要するに、俺に静かに殺されろってことだ」

「その言葉、そっくりそのままお返しする!」


 ”パンッ”


 ”パンッ”


 お互いに、銃弾が放たれる。

 お互いに狙うのは、その心臓。フェイクは、その人間不信故に一発で相手を殺せる心臓へ狙って放ち、フサインは、どうせどこを狙っても避けられるのは半ばわかっていたことだから、一番体の外から遠い心臓を狙った。


 ───そんな銃弾同士がぶつかり合い、双方の攻撃がそこで集団する。


 ───そう思われたはずだった。


 ”パンッ"


 ”パンッ”


 フサインから、2発の銃弾が放たれる。狙うのはフェイク───



 ───ではない、空中でぶつかり、その場で浮き上がった2つの銃弾だった。


「───何を」

 空中でそのスピードを失い、そのまま地面に落下するだけだった2発の銃弾は、フサインによって吹き飛ぶ方向を変える。そう、2発の銃弾は───攻撃手段としてはもう既に効力を失った銃弾は、フェイクの方向へ向く。


「───ッ!」

「お前に攻撃はしない。狙ったのは銃弾だ。そこにお前への攻撃意思は、ない」


 その言葉と同時に、フェイクの頬に掠るのは空中で衝突し、形を変えた銃弾だった。

「お前...俺に攻撃するとは...」


 フェイクは、静かにそう口にする。


 ───2人の戦場は、まだまだ続くようだった。

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