第771話 大集合
『六曜』の『友引』であるフサインと、『妖精物語』の『扇』であるファンの第二戦。
「一つ、質問なんだが...能力の使用はアリか?」
「まさか貴様からそんな言葉が出てくるとはな。無しと言ったら、体からどれだけの暗器が出てくると言うのだ?」
「これだけだ」
その言葉と同時に、フサインが体を磔にされるような感じで、両手を地面と水平になるように横に伸ばす。
すると、ジャラジャラと音を鳴らしながらフサインの体から出てくるのは数え切れないほどの暗器であった。
「これほどまで...」
「そんだけ体に暗器を仕込んで...私に死ねって言いたいんでしょう!いいわよ、死んでやる!」
「まさか、こんなに仕込んでいるとは思ってはいなかった。『暗殺大陸』とはとんでもない能力だな」
ファンはそう口にすると、破顔一笑。楽しそうに高笑いをする。
「しまってしまえ。能力アリで戦おうではないか。そっちの方が、貴様は困るはずだ」
「残念だが、『暗殺大陸』を使用すれば一瞬で片付けられるぞ?」
「違う、そういうことじゃない。妾の能力に困るというのだよ」
フサインが『暗殺大陸』を使用して、暗器を片付けると体をヒストリカの方へ向ける。
「さぁ、ヒストリカ。お前を殺してやるよ。ガープを騙った罰を受けてやる!」
「───私なんかいらないって言いたいんだ!本物の私よりもガープの方が大切なんだ!」
「あぁ、当たり前だ!」
その言葉と同時に、フサインは日傘を持ち戦うことに向いていないヒストリカの方へ迫り殺害を試みる。が───
「───ッ!急に!」
「させるわけないだろう!」
フサインの後方に現れるのは、ファンであった。使用するのは鉄扇───ではなく、叩き壊すのに最適なその美脚であった。
「正確には叩き壊す───ではなく、一蹴するのほうが正しいのだがな」
その言葉と同時に、フサインの背中にファンのケリが直撃する。
「───かはっ」
フサインの体には『暗殺大陸』のお陰で、もしくは仕業で、大量の暗器が仕込まれている。だから、鉄扇や果物ナイフなどではこの暗器の鎧を貫くことはできない。
体中に暗器を仕込むことでそれを鎧という防御にしてしまうのは、攻撃は最大の防御───の典型例に使えそうな感じがする例えだが、それでも蹴りという打撃には弱い。蹴りの衝撃波伝わってくるのだ。
もちろん、ファンの足だって無事ではない。フサインの暗器に足をぶつけるということは、少なくとも己の足を鉄塊にぶつけるようなもの。ファンの振るった足の脛の皮膚は抉れて骨が見えており、靴の先は真っ赤に染め上がっていた。きっと、蹴りを売った足の指は全て、粉々に砕け、全て取れているといっても問題ないだろう。
「───背中に潜ませておいた19個の暗器を潰すとは...流石は『妖精物語』だな。さて、ヒストリカ!お前を今度こそ!」
そう口にして、フサインはヒストリカを狙う。
「ゾンビ共...ヒストリカを守れ...」
スロープが、『死屍四肢』で生み出したゾンビ達にそう命令するも、もう間に合わない。
───が、ただ1人。
フサインの意識及び視界の外から攻撃してくる人物がいた。
「───死ね」
フサインの背中の防御壁───と、事実上なっている大量の暗器は、もう既に前回の蹴りで破壊されていた。だから、今現在フサインの背中を守るものは存在していない。
───それ故に、ファンが後ろから首を狙うという攻撃は必中する。
「───ッ!」
吸い込まれるように、鉄扇がフサインの首元へと移動する。非常な滑らかで自然な動きに、その場にいる誰もが疑問に思わなかった。
フサインが振り向いて防御をすることは不可能だし、それを助けに入るような仲間もいない。必中の鉄扇はノーガードでフサインの首にぶつかり、その首を刎ね───
───ることなく、逆にファンの体を穿つのは大量の杭であった。
「───っか」
状況が理解できんとばかりに、ファンは呼吸をする。一瞬でその姿を───己の存在を消そうとしたもののもう遅い。
「違和感はあった。あったが、気付けなかった」
フサインはそう口にする。狙いは、ヒストリカではなくファンへと変化する。
不自然なまでにファンが狙われなかったこと───それには理由があった。
そう、それはファンの能力である『正体不明』に由来する。
正体不明・・・自らの存在を消すことが可能。
自らの存在を消し、ファンは隙を狙ってフサインへ攻撃をしていたのだ。
存在を消したまま攻撃できればよかったものの、存在を全く消去されているということは、その状態で攻撃しても全く認識されないから要するに攻撃は不可能になるのだ。
絵に例えれば、自らを全く別のレイヤーに移動できる───とでも言えるだろうか。
『正体不明』を使用している状態では、誰かに干渉することができないので、攻撃する時は毎回姿を現していたのだ。
「───ここで...終わりかっ」
「強かったよ、確かにお前は」
フサインはそう口にして、ファンの死亡を認める。そしてそのまま、ファンの首を剣でバッサリと刎ねた。
その時───
「よくやった、フサイン」
「───偽物ッ!」
「正解だ。私はヒストリカだ。この絶望は、どう乗り越える?」
その言葉と同時、ヒストリカの周囲に現れるのは19人の影。
「『受動型転移』。使い勝手のいい能力ではないか」
「ここは...どこだ?」
「『妖精物語』諸君。来てくれてありがとう。まぁ、私がガープの能力を拝借して勝手に呼び出したんだけどね!どうせ、私には呼ばれたくなかったっていいたいんでしょ!」
『いとも悲惨な自分語り』の効果で、ガープの姿をしたヒストリカが呼んだのは、19人の───要するに、死亡しているキャッツとサンバードの護衛についている『死』を除いた19名。
もっと簡単に言えば、フサインの目の前には『妖精物語』の21人が集まっていたことだ。
「おいおい...流石に俺一人で勝てっこない───」
───その時不思議なことが起こった。
「おい...ここは...」
「───て、フサイン?」
「人がたくさんいます...イブさん、どうしますか?」
「どうするもこうするもないだろうよ...」
───そこに現れたのは、王城へ攻めていたはずの『チーム一鶴』であった。
これにより、『チーム一鶴』と『妖精物語』が大集合。
全面戦争という構図が生まれたのだった。




