第765話 最強の門番
『付加価値』。
それは、月光徒に作られた『チーム一鶴』と敵対するためだけに存在している組織だ。
まぁ、流石に月光徒のアジトを襲撃して、幹部であるヴィオラを殺したりしている俺達に専門の対策組織を作るのは当たり前のことだろう。
だが、月光徒の長であるステートの命令か何かで、『付加価値』は『チーム一鶴』の多くを殺さずに連れて帰ったのだ。
月光徒の長は、本当に何を考えているのかわからない。
だけど、誘拐ではなく本気で殺しに来ていたら俺達『チーム一鶴』は一瞬で全滅していただろう。
だって、敵には未だに底知らずの幹部であるチューバに、何でも「無」に返すことができるオイゲンがいる。
他にも、強者でありそうなキャラは大量にいた。
「───その中でも、肆の実力を持つアインがどうしてここに?」
「気安く名前を呼ばないで、何故ならば近付いてほしくないから」
俺達の目の前に現れたのは、初めて見る───俺達が初めて『付加価値』と邂逅した22の世界にはいなかった人物だ。
その時、チューバは「アインがいない」とかブツブツ言ってたような気もするから、それが彼女なのだろう。
「敵が誰であろうと関係ない!お前らが月光徒だって言うのなら、俺が倒してやる!」
そう意気込んで動き始めたのは、俺達の戦闘に立っていたオルバであった。オルバは、『羅針盤・マシンガン』を使い十メートル程前方にいるアインに対して銃撃する。
”ドドドドドド”
そんな音を立てて『羅針盤・マシンガン』は放たれる───
───が、その全てが俊敏な動きで避けられてしまう。
「んな...」
「残念、当たらない」
そう口にした彼女は、立つこと自体を辛そうに───いや、ダルそうにしていた。
彼女は怠惰なのか、それとも病弱なのか。俺には、その目を見てもわからなかった。
「銃撃ばかりしてきてウザいわね。私から近付くわ、何故ならば近付いてほしくないから」
その言葉と同時に、アインは動き始める。
その発言は、矛盾しているように感じるが、支離滅裂なことを言う人などこれまでにごまんと見ているし、アインの「何故ならば近付いてほしくないから」というのは、一種の口癖のようなものになっているから、あまり気にする必要はない。
いついかなる時も、誰に対しても言っていそうだ。
「近くに来ようが、お前に攻撃するのはやめないんだよ!」
オルバは、そのままアインに対して『羅針盤・マシンガン』で移動先を狙い銃弾を放ち続ける。
「───」
だが、アインは精密な銃捌き───能力捌きも、対して驚かずに空中を蹴って銃撃から逃れた。
「おいおい、なんちゅう動きを───ッ!」
そのまま、アインは止まることなくオルバの方へ特攻したのでオルバは一瞬驚いてしまう。
だが、彼は冷静に判断して後ろに下がりつつ『羅針盤・マシンガン』を放ったのだが───。
「弱い」
その言葉と同時に、オルバの姿が消える。
「───ッ!オルバが消えた?!」
「まさかコイツも別空間を作り出す系の能力か?」
そうなるとキャッツと2連続で異空間を作り出している気もする。
「正解よだから近付かないで、何故ならば近付いてほしくないから」
近付いて欲しくない理由が「近づいて欲しくないから」であることにツッコミはいらない。一種のトートロジーで口を閉じる。
「これが私の能力。その名も『永遠とは』よ」
永遠とは・・・傷付けた相手を永遠の回廊に閉じ込めることが可能。
「『永遠とは』」
最短のダジャレだと思えるような能力名が、アインの口から飛び出してきた。だが、その強さはダジャレだとかどうとか関係なく、ちゃんと『付加価値』に相応しいものとなっていた。
流石はチューバだ。強い能力の強いやつばかり連れてきている。
「もし異空間系であるとすれば、オルバはアインを殺すなり何なりするまで出てこないな」
「今、アインはゲンナリしているから出てくるんじゃないか?」
「ゲンナリしているのはいつもよ、だから近付かないで欲しい」
「ステラ、下がっててくれ」
「? はい」
イブの指示に従い、ステラは少し後方に下がる。すると───
「どうせここで戦闘しているのはバレている。だから派手に行かせてもらうよ」
その言葉と同時に、地面から大量の先の鋭い大地が飛び出てきた。整備された地面を貫きかち割り黒色の硬い土を陽の目に見せる。
「この程度...」
「───避けられないとは言わせない。この程度も避けられないようじゃ、『付加価値』じゃないだろうよ」
「───正解」
アインは、地面から次々出てくる大地を軽々と空中に避けて、大地を操っているイブの方へと接近してくる。
───が、そんな彼女を後方から狙うのは我らが剣士のバトラズだった。
「───」
音もなく、その剣筋は正確にアインを捉える。そのまま、アインの首を斬る───と思ったが。
「近付かないで」
「───ッ!」
同時に、グワンと体がバトラズの方を向き超小型のナイフをバトラズに向けて。
「───」
ギチギチと言う音がなり、ちゃんとした刀を持つバトラズと空中で拮抗する。
そのまま、空中でお互いに弾くように移動し、バトラズはイブの操る大地がクッションになり、アインは針地獄のように大量に出ている針の先に上手くバランスを保ち立っていた。
「全員殺してあげる、何故ならば近付いてほしくないから」
───アインは、紛れもなく最強の門番であった。




