第757話 遅れた増援
訪問者。遅れた増援。
俺が、ショウガの死を知り吐きそうなほど悔やんでいたところに合流したのは、十数人の人物。
「はぁ...はぁ...全く、どうして私の到着を待たなかった?」
そう口にして、怒りを見せるのは、その中心にいたガープであった。
「ガープさん」
俺は、生気のない声で彼の名前を呼ぶ。ショウガの分も頑張る───と決めた今でも、俺の胸の中にある濁ったような虚無感は消えてなくならない。
俺達は半ば忘れていたが、最初はムーンライト教の総本山───今いる蜜月神社でガープと合流する算段だったのだ。だけど、俺達の存在が───というか、月光徒の敵である『チーム一鶴』であることがすぐに判明してしまったので、合流することを諦めていたのだった。
「全く、約束が守られないとこちらも困る」
ガープはそう口にして、文句をいうが皆を見渡して、どこか安堵したような表情をする。
「まぁ...誰も死ななかったからよかった。そこに1人増えている半鬼人は...」
「俺か?俺は、コイツラの味方だ。───ってか、仲間だ。9の世界以来のな」
バトラズは、そうやって説明する。
「そうだったか、23・24の世界ではその姿を見なかったもので、知らなかった。申し訳ないな。よろしく」
ガープは、そう口にしてバトラズに握手を求める。バトラズも、俺達が普通に話しているのを見て安心して握手をしたようだった。
「───んで、俺にこの人達のことを教えてくれないか?」
「───」
「リューガの情緒が不安定だから、俺が答えるが構わないか?」
「あぁ、ショウガが死んだとなっちゃそうなってもおかしくないだろうよ。仲間になったのは9の世界だが、リューガ達『チーム一鶴』を知ったのは3の世界からで、これでも結構古参なんだ。リューガの気持ちはわかる、だからイブで俺は全く構わない」
「では、俺が代わりに話そう。今、バトラズが握手を交わした人がガープさん。24の世界で、月光徒の秘密と引き換えに、半年間協力することを約束した人物だ。そして、後ろにいるのはその兵士の皆さんだ」
俺の代わりに、イブがわかりやすく説明してくれる。
「月光徒の秘密───か。俺達を助ける為に随分と動いてくれているみたいだな」
「これを機に、私も2つほど疑問をいいかな?」
バトラズが納得した後、手を挙げて質問するのはガープであった。
「俺に答えられるものであれば答えよう」
「ありがとう、まずは1つ目だ。君達は何故、再会するごとに仲間が増えているんだい?」
ガープが質問するのは、出会うごとに仲間が増えている───要するに、ステラやバトラズが戻ってきているのはどうしてか、と言うことだ。
その質問に、イブが答えてくれる。
「答えられるから答えよう。薄々気付いているかもしれないし、それがあるから俺達に声をかけたのだろうが、俺達『チーム一鶴』は月光徒と本格的に敵対している」
「うむ、それは把握している」
「それで、現在仲間が誘拐されているんだ。そして、月光徒が強者を詰め合わせて用意した出鱈目な強さを持つチーム『付加価値に属している人物を1人倒せば、1人味方を返してくれるという約束なのだ」
「月光徒の強者を集めているチーム───か」
イブの答えにガープは、少し考えるような表情をする。
「だからかね?入口近くに大量の人が倒れていたのは。あそこまで戦闘の被害が?」
「あー、あれは俺達がなぎ倒したからっすね」
「集合を待たずか?」
「あ、弁明させてくれ!さっきイブが言ってたように、俺達は月光徒に目をつけられてる!それで、そのせいで俺達の正体がすぐに見破られたんだ!」
「どこかに隠れていればいいものを...」
「そ、そうしようとしたんだが駄目だったんだ!」
イブに代わり、オルバが質問に答える。なんだか、オルバが口にすると言い訳みたいになってしまっているが、必死に弁明してくれているので大丈夫だろう。
「───それで、2つ質問があると言っていたが、もう一つは?」
助け舟を出すように、バトラズがオルバをそうフォローする。見ていて、いたたまれなくなったのだろう。
「そうだった。もう1つの質問だ。どうして、リューガとステラの獣2人はこんなにも厭世観に駆られたような表情をしているのだ?」
「「「───ッ!」」」
ガープが触れるのは、俺達のこと。要するに、ショウガの死。
「───すまない、デリカシーのない質問だったな。不快にさせてしまい、申し訳ない」
他のメンバーの反応で、ガープはすぐにその疑問が禁忌であることを察したようだった。俺達に謝罪してくる。
「───いや、いいんだ。話す、話すよ」
俺は、なんとか言葉を紡ぐ。零れ出そうな涙を抑えて、言葉を紡ぐ選択をする。
「仲間が、死んだんだ」
「ここにいる人数は減ってないから───誘拐された人物か?」
「あぁ、そうだ」
「───すまなかったな、本当に野暮なことを聞いて」
ガープはそう謝罪する。
「ガープ様、そろそろここから撤退した方がいいかと」
「そうか、そうだな。ありがとう」
ガープにそう耳打ちするのは、十数人いる兵士の内の1人。
「───『チーム一鶴』の皆、私に着いてきてくれ。蜜月神社を物理的に潰すことを成功しているし、なにはともあれ任務は成功している。帰ろう、死した仲間の弔いを、そっちでしてあげよう」
ガープは俺達に優しい言葉で撤退を命じる。
───こうして、俺達は先程まで別行動していたガープがいた、スタンプ伯爵という人物の屋敷まで移動することが決定したのだった。




