第72話 植人族
「こちらが...お部屋です...」
文さんに案内された部屋に入る。3の世界の試験場の部屋よりかは質素だが、十分広い。
「押入れには布団は4枚入っております...残りの2枚は用意してきますので...お待ちを...」
「えっと...文さん...でいいのかな?俺たちも行くよ!」
「お客様に手を煩わせるには...」
「いいって、いいって!俺たちが使うんだからよ!」
「そうですか...では...こちらです...」
ユウヤとトモキは文さんと一緒に布団を取りに行く。
「いい部屋ですね!」
「あぁ!ここにして、正解だっただろ?」
「あぁ...そうだな...」
珍しいカゲユキが意見を言わずに素直に肯定する。
「さて、リューガの意識はいつ戻るかな...」
リカはリューガを押し入れから出した枕の上に寝かせる。
「リューガさん...」
***
ユウヤとトモキが布団を取りに戻り、文さんは夕食の準備をしに行った。
「それで、どうするんだ?」
「どうするって...お金を稼ぐしかないだろ?」
「そりゃそうだが...どうやって稼ぐんだ?働くにしても何年もかかるぞ?」
「それはそうだな...」
「お客様、アイキーを買いたいのですか?」
文さんがいつの間にか部屋にいた。
「うおっ!文さん!どうしてここに!?」
「話が聞こえたもので...」
「そ、そうですか...」
「それで、お客様、アイキーを買いたいのですか?」
「まぁ、そうです...でも、300万ボンしかなくて...」
「そうですか...なら、ギャンブルなんかは...どうです?」
「ギャンブル?あるのか?」
「えぇ...ここミラグロは...ギャンブルで栄えた地です...」
「そうなのか...」
「その代わり、負けた時は気をつけてくださいね...」
「え?」
「負けたら...地下で強制的に娯楽施設を作るために働かされるだったり...女性だったら無理に風俗で体を売ることになったり...」
「えぇ...それはヤバいな...」
「でも、負けなきゃいいんだろ?」
「ギャンブルで稼ぐなんて、合理的じゃない...無理だ...イカサマでもしない限りは...」
「あぁ...ギャンブルでのイカサマはここでは禁忌とされています...イカサマしようとしている人を見極められる人がいるだとか...」
「え、バレたらどうなるんですか?」
「首がすぐに...空を飛んで...」
「ひぃ!」
文さんが首を斬るマネをすると、マユミは小さな悲鳴をあげた。
「ギャンブルかぁ...」
「どんなギャンブルがあるんですか?」
「競蜥蜴に、ポーカー...ルーレットにパチンコだったりと...色々ありますよ...」
「へぇ...色々あるんだな...」
競蜥蜴は、競馬の蜥蜴ヴァージョンだと考えて頂ければいい。
「それでは、夕食の準備が出来ました...」
文さんは部屋の真ん中でそう呟いた。
「え、終わったんですか?」
「えぇ...終わりましたよ...お食事部屋へ...」
俺たちは文さんに案内される。民宿なので、普通の家のような馴染みがある。ショウガ達はお食事部屋に入る。
「なっ...」
そこには、6人分の夕食が用意されていた。スープからは美味しそうに湯気が立っていた。
「ここは、夫婦で運営しているのか?」
「いえ、私一人で行っておりますよ...」
「そんなの...嘘だろ...文さんはずっと...部屋にいたはずだ...」
「それでは、楽しんで...」
文さんは食事部屋を出ていった。
「おかしい...おかしい!」
カゲユキは一人で騒いでいる。
「美味いぞ?これ...」
「ショウガ!毒入りかもしれないのに、なんでそんなすんなり食べれる?」
「んなもん、文さんを信用しているからに決まってるだろ?」
ショウガだけでなく、リカやトモキ・ユウヤ・マユミも夕食を食べ始めた。
「おいおい...無防備すぎるだろ...」
カゲユキはそんなことを言いながら、結局食事を食べた。毒はもちろん入っていなかった。
***
食事を終えて、ショウガ達は部屋に戻った。
「お客様、お風呂が湧きました...男女分かれておらず申し訳無いのですが...入ってくださいね...」
「あ、わかりました!」
「誰から入るか?」
「じゃあ...我からでいいか?」
「あぁ!いいぞ!」
「男の後だと、何が浮いているかわからないからな!」
「ほっとけ」
ショウガは一人パジャマと下着を持って脱衣場にへと向かう。
「ふんふふん、お風呂、ふんふふん、お風呂」
ショウガは一人愉快な鼻歌を歌いながら、脱衣場の中に入った。
「あ、お客様、これは失礼...」
脱衣場には文さんがいた。
「あれ、さっき...我らの部屋にいなかったか?」
「私はいませんでしたよ...」
「え、風呂が沸いたことを報告に来ただろう?」
「それは、私ではありません...」
「え、確かに文さんだったが...」
「おっと...すいませんね...言葉足らずで...まぁ、説明したほうが疑念を持たせずに早いでしょう...」
文さんは真剣な眼差しでショウガを見る。
「私は植人族で、能力を持っています...その能力は『影分身』で、3人まで分身を出せるのです...」
影分身・・・最大3人まで自分の分身を生み出すことが可能。




