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第741話 境内戦争 ─厭世─

 

 ───こちらは、リューガとオイゲンの2人が出ていった本殿の中。


 空いた天井の穴から光が差し込む中、その光の真ん中に立っていたのは日傘を差している『付加価値(アディショナルメンツ)』の陸であるシュベックと、露出はそれほど多くないにも関わらず妖艶だという感想を覚えるライザの2人であった。


「そうねぇ...シュベックちゃんのこともあるし」

「私が奥に行きますよ。ほら、猫とかが死ぬときって人目につかないところに行くでしょう?」


 そう言って、空から光が降り注がれてできた日向の外に出て日傘を閉じ、奥の部屋へ進んでいくのはシュベック。


「リミア、追うぞ」

「は、はい!」

 オルバは、そう指示してシュベックを追う。2人は、シュベックとの勝負を任されていたのだ。

 だから、ここでシュベックを逃がすわけには行かない。


 ───そう、オルバが『陽光の刹那』の頃から共に活動していたアイラやペトンを助けるためにも。


 そして、シュベックが広い本殿の中でも中心に近いところであろう、畳の大広間に到着する。

「ここが、良さそうね」


 その部屋は、縦にも横にも広く戦うには良さそうな立地だった。

「2人はここで戦うことに文句はあるかしら?」

「別に、どこだって構わねぇ。畳の縁?っちゅうのを踏まなければ奇襲されないしよ」

「嬉しいことに、いや私にとっては悲しいことだけど、もう奇襲するような人物は───君たちが戦ったシノブのような人物はいないわよ」

「───本当か?」

「別に、信用しなくていいわ。どうせ、敵の言う言葉なんて信じられないんでしょう」


 シュベックは、オルバやリミアの方は見ずに死んだ目でそう口にした。彼女の持つ紅蓮の髪は光が当たってないからどす黒い血のような色をしていた。


「よかったわね、君達」

「なんでだ?」

「私は、オイゲンやライザよりも弱い。そして、2人に比べて幾段も勝ちやすい」

 彼女は、そう口にする。その言葉は、死を望んでいるかのような───否、生を諦めているかのような感じにも捉えられた。


「戦う前に聴いておきたい。どうして、そこまで厭世的なんだ?」

「厭世的...か。そうね、確かに厭世観に包まれてるわね」

 シュベックはそう口にすると、お嬢様を思わせるかのような華奢な紅色のドレスを動かして口を動かす。


「私は失敗作だから」

「───あ?」

「私は失敗作。なにやってもうまくいかない。年がら年中天中殺。何度も何度も死にたくなるほどの屈辱を味わったのに、何度も何度も死にきれなかった神様の右手で作った失敗作」


 一体、シュベックの過去に何があったのか、オルバとリミアの2人が知る由はない。

 だが、その発言から過去に壮絶な何かがあったということは理解できるだろう。


「お願い、無様に生き永らえてしまう私を殺して」

「断る」

「はい?!」

「───え?」


 オルバの言葉に、味方のリミアも敵のシュベックも驚く。


「戦う意志が無いやつを、殺して何が楽しい。自殺願望の塊を殺して何が楽しい!俺は殺し屋じゃねぇ。俺はこれまで一度だって戦う意志のない月光徒に銃を向けたことはねぇよ」

「───」


「殺されたいなら、殺すつもりでかかってこいよ。それでも月光徒か?」

「───馬鹿ね」

「あ?」


「私が殺すつもりでいったら、皆死んじゃうからこうやって後悔してクヨクヨしてるんじゃない」

「───それって...」

「私は失敗作。神の作った殺戮兵器」


 その言葉と同時、オルバとリミアに迫ってくるのは手首から下のない人のサイズの手だった。

「これは...」


 その直後、ガシリとオルバとリミアの首を掴んでギュッと力を加える。


「───ッ!あ...がっ!」

 首を絞められ、オルバとリミアの呼吸は制限される。


「失敗作ね。アナタも私も」


 これが、これこそがシュベックの能力である『愚問な拷問(バッドコメンテーター)』である。


 愚問な拷問(バッドコメンテーター)・・・相手を様々な方法で拷問することが可能。ただし、その拷問は行き過ぎたものである。


 相手にするのは拷問。だが、それは行き過ぎているので実質的に死罪と同じなのである。

 シュベックが行使する『愚問な拷問(バッドコメンテーター)』で行われるのは、古今東西で行われている多種多様な刑罰。


 首を絞め、首を切り落とし、電気椅子にかけ、生き埋めにして、薬殺する。皮を剥いで、石打ちにして、釜茹でにして、発砲して、八つ裂きにする。


 拷問という名の殺人を行う───という能力が、シュベックの持つ『愚問な拷問(バッドコメンテーター)』なのであった。


 拷問ができない彼女は、失敗作。


「私を殺してくれればよかったのに。勇敢だけど、可哀想」

 シュベックはそう口にして、その場から去ろうとする。が───


「おいおい、俺達から逃げろってのか?ぶっ殺してやるよ、そこで立って待ってやがれ」

 そう口にすると、オルバは自らの首を絞めていた手首を投げ捨てる。


「───まさか、抜け出したの?失敗作のアナタが?」

「俺が失敗作だ?全く、ふざけたことを言ってくれる」


 オルバはそう口にすると、リミアの首を絞める手首を外して『羅針盤・マシンガン』で撃つ。そして───


「俺と勝負しろ、シュベック。お前をその地獄から引きずり出してやるよ」


 オルバは、シュベックに対してそう宣言したのであった。

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