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第740話 境内戦争 ─憤慨─

 

 俺とオイゲンは、空中で相対する。

 どうして、オイゲンが空を飛んでいるのか───なんてのは野暮な質問だろう。


 最強に近くなってくると、生物というものは皆空を飛ぶようになるのだ───なんてのは、大嘘だ。

 確かに、漫画に出てくるボスキャラだったり、月光徒の幹部であるチューバや、月光徒の長であるステートなどは空を飛べているけれど、チューバは能力によるもので、ステートは───まぁ、わからない。


 でも、ステートも何かしらの力を使って空に浮いているのであろう。

 そして、俺が浮遊できているのは───これまたなんでだ?


 自分でも、どうして浮遊できているのかわかっていない。2の世界でキュラスシタと戦っている時に急に飛べるようになったけれど、その原因理由というのはわからない。

 ご都合主義であれば、何かしら適当な理由をつけるだろうが、気付いたら飛んでいたのでご都合主義ですらない。もしかしたら、この世界のヒヨコはそもそも飛ぶのが当たり前なのかもしれない。


 まぁ、結論はわからないけれど飛べることに感謝しよう。あまりに追求しすぎて飛べなくなったりしたら、本末転倒だ。神の存在証明をしようとすればするほど、神の不在証明になってしまうような行為はやめたい。


 ───と、色々と話がズレてしまったけれど、どうしてオイゲンは空を飛べるのか。


 野暮な質問だけど、答えを出しておく。それは、持ち前の『森羅反証』という能力で、「空を自由にいけない」という事実を無に返したのだった。

 それにより、飛ぶ以上に空を自由に動くことが、オイゲンにはできるようになっていた。


「───リューガ」

「どうした?オイゲン」


 俺達は空中でお互いに名前を呼び合う。下では、逃げ惑う参拝客の集団が見える。

「これまで...お前はどれだけの人物を殺した?」

「───」


 俺は、その疑問には答えられない。しょうがないので、あの名言を返しておくことにした。


「おまえは今まで食ったパンの枚数をおぼえているのか?」

「───コイツッ!」

 ディオの名言を拝借して答えたら、ツェペリ男爵は───否、オイゲンはキレた。当たり前だろう。


「───最低最悪だ...お前は、本当に。俺はお前を壊すように愛せない!」

 オイゲンは、そう宣言する。別に俺だって、オイゲンから愛されようだなんてこれっぽっちも思っていない。


「ここからは虚しい戦争になるだろう...君は俺に殺されるんだ」

 そう言って、オイゲンは背中に背負っていた槍のように長い斧を引き抜いた。斧の刃以外にも、柄には刃が付いていたがために、攻撃特化の斧だろう。


 これは、木を切るために作られた斧ではない。観賞用に作られた斧だ。

 まさしく、芸術品。俺は、このような斧を作る人物を知っていた。


「その斧、グノームの作品か?」

「いいや、違う。これは現世に7本しか存在しないグルフォンが作った作品だ。人工精霊が作った作品なんかじゃない」


 オイゲンはそう述べる。グノームは、グルフォンを元にして作られた人工精霊だ。

 どうやら、今回のはグノームの作った贋作ではなく、グルフォンが作った本物らしい。


福禄寿(ふくろくのことぶき)。これが、この斧の名だ。そして、お前を殺す斧の名だ」

 オイゲンはその言葉と同時に、俺に接近してくる。その動きは───


「───ッ!」

 俺に『Don't touch me!』という絶対に触れられないことがわかっているのにもかかわらず、恐怖で体を動かしてしまう。もしかしたら、オイゲンは『Don' t touch me!』を貫通してくるのかもしれないという恐怖にハマってしまい、つい怖くなってその場を移動してしまう。


 ───が、移動しても尚、オイゲンは俺を捉えたまま。


 そのまま、俺の方へ斧の柄の剣となってくる部分が迫ってくる。

「避けられ───ねぇ!」


 ───が、俺の先ほどの考えは杞憂。


 絶対は絶対であって、例外なんか存在しない。オイゲンの攻撃は、『Don't touch me!』で塞がれたのだった。


「やはり...やはりだ。攻撃が通用しない...『付加価値(アディショナルメンツ)』のリューガはそんな能力持ってないぞ!」

「アンナに憑依したからな」

 俺は、そう口にしてアンナの姿になる。


「貴様───」


 ───刹那、雰囲気が変わる。


 憤怒。


 怒気。立腹。激昂。怨嗟。鬱憤。憤慨。瞋恚。遺恨。激憤。


 オーラが変わった。オイゲンの纏わす、イケメンそうなオーラはすべて消えて、そのオーラは怒りのものとなった。


「アンナを殺したのかッ!」

「───ッ!」


 戦意喪失してしまうような、大き過ぎる怒りの中。俺は目の前にいるオイゲンから距離を取ろうと移動する。が───、


「───アンナが生きていたことを、無に返した」


 オイゲンは、怒りを通り越し頬を伝う一筋の線を残しながらそう口にする。それと同時に、俺の体には触覚が戻って来る。別の言い方をすれば、『Don't touch me!』は解除される。否、消失する。


「何を───した...」

「アンナの生存していた証をすべて消した。覚えているのは、俺とお前だけだ」


「なんでそんなことを...」

「なんでそんなことを?決まっているだろう。お前を...アンナを殺したお前を、たくさん俺の仲間を殺したお前を苦しめて殺すためだよ。お前の罪は、無かったことにしない」


 オイゲンがぶつけるのは怒り。俺は、確信した。


 ───オイゲンには勝てない、と。

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