第711話 ノースタンの長
目の前にある大量の『手腕星』を相手にしていてはキリが無いので、その能力の発生源であるカーン・バーンを倒してしまうことを目標にする。
発生源さえ倒してしまえば、たとえ『手腕星』が消滅しなくとも、すぐに倒すことは可能だった。
「───だが、問題はどうカーン・バーンに接近するか...」
カーン・バーンは、俺達と『手腕星』の戦いを遠くから覗くようにして『手腕星』を操っていた。
「あんな遠くまで接近するとなると、いくら急襲だとしても気付かれてしまうかもな」
イブが、冷静にそう口にする。建物の上層階にいるので、イブは大地の魔法を実質的に制限されている。
そんなイブの推察通り、カーン・バーンの方へ部屋をグルリと周り込んでも気付かれてしまいそうであった。
「一体、どうすれば...」
ゴリ押しで接近して殺してしまうのもありだけど、もしかしたら何かしらの奥の手を隠している可能性もある。『手腕星』だけに。
「───とりあえず、『生物変化』ッ!」
俺は、使えそうな能力をとりあえず使用してみる。だけど、『手腕星』相手に『生物変化』は意味が無いようだった。でもまぁ、『手腕星』は能力であるから『生物変化』が使えないのも当たり前だろう。
「『寿命吸収』もエルフのカーン・バーンには使え無さそうだし...」
俺は、ゴクリと唾を飲み込む。10mほど遠くにいるカーン・バーンを倒す方法を、俺は頭の中で思考していたのだった。
***
カーン・バーン───私の人生は、障害の多いものだった。
私が、ノースタンの長になるまでさえも、多くの敵を蹴散らしてきたし、数多もの戦闘を重ねてここまで登ってきた。
私は、長年生きてきたという経験と、同じく志を共にして協力関係となったガープの力で、どうにかノースタンの長へと成り上がったのだった。
今思えば、ガープとの邂逅は私の人生を大きく変えただろう。知略で詰まった彼を味方にできたことが、私の一番の勝因であろう。ガープは、私にとっての勝利の神だったのである。
「───おいおい、お前ら。『手腕星』へチマチマ攻撃しようとも私にダメージはないぞ?」
私は、そう口にする。
今回の、ウェスタンに協力している『チーム一鶴』という探訪者は、私にとって大きな障害であった。
実際、三幹部であり忠実な部下であったアーノルドを殺害されたし、今もこうやって私の前に姿を現しては命を奪おうと戦っていた。
───が、このような障害を乗り越える力が私にはあった。
だから、負けはしない。大丈夫だ。
そう思いながら、私は自らの能力である『手腕星』を動かして『チーム一鶴』とやらを蹂躙する。
ローディー将軍や銃を放つ少年だったりは、見かけは強く見えるけれども私に致命傷を与えるほどではない。ローディー将軍の能力は、当たれば確殺であるが、当たらなければ問題ないのだ。
「後は、意味のわからぬヒヨコか...」
あのヒヨコを強いと表現していいのかわからないけれど、あの発言を捉えるにリーダーのようだった。
全く、小動物が偉そうに───ん?
「どこに...」
私は、小動物を視界から外してしまっていたことに気が付いた。『手腕星』の大群がいるが故に、私はヒヨコの姿を見失ってしまったのだ。
「見つければ勝てるというの───にッ!」
「『破壊』ッ!」
”バキバキッ”
刹那、私の立つ足場が何者かによって『破壊』される。だが、私は聡明な私はすぐに気が付いた。この『破壊』を行ったのはあのヒヨコなのだと。
「間に合え、『手腕星』!」
私は、新しく『手腕星』を使用して、下層への落下を防ごうとするけれども、ヒヨコは私が落ちてこようが落ちてこなかろうが、何ら関係ないようだった。
「───ッ!」
「『破壊』ッ!」
”バキバキッ”
「───かはっ」
私の胸に、ポッカリと穴が開いたような気がする。心に喪失感があった。
───あぁ、死ぬのか。
甘たもの障害を乗り越えてきた私は、ここで死亡するのか。折角、23の世界の王となったのに。
───この世界をよりよくしようと思っていたのに。
「さよなら、カーン・バーン。お前の悪行を俺は許さない」
悪行……か。
***
「さよなら、カーン・バーン。お前の悪行を俺は許さない」
俺は、カーン・バーンの心臓を『破壊』する。
───どのようにして、俺はカーン・バーンに接近したのか。
簡単だ、俺は一度下層へ繋がる穴を『破壊』を使用して開けた。そして、俺はそのまま下層を通り抜けて、カーン・バーンの足元へと移動したのだ。
幸い、カーン・バーンの使用する『手腕星』は大きかったので、俺の姿を隠してくれた。目眩しとなってくれたのだった。
「よかった、勝てた...」
俺は、そう安堵を口にする。カーン・バーンにトドメを刺せたし、最大の目標は達成できたはずだ。
───その時。
「おい、いつまで俺を待たせる!王だからって調子に乗っているのか?カーン・バーン───あ?」
戦場を終えた俺達のいる部屋に入ってきたのは、一人の中年の男性だった。
「お前は...」
「バッハ・トゥール!」
俺達は、その人物が誰かわからなかったが、ローディー将軍が「バッハ・トゥール」とソイツの名前を呼ぶ。
───俺達の目の前に現れたのは、イースタンの長であるバッハ・トゥールなのであった。




