第695話 サウスタンの長
───ウェスタン・サウスタンは協力してイースタン・サウスタンの猛者を順調に倒していた。
三元帥であるアスカ元帥を殺し残るはグラシル元帥だけとなっており、三鬼の最後の一人であるマキも、現在ルーカスと戦っているとされていた。
マキとルーカスの2人の戦いは、2人のことを知らない人ばかりであるために注目しないでおくが、その結果だけを伝えておくことにする。
戦闘が始まった経緯や、戦闘そのものという全ての過程を省いて、結果だけを伝えると、ルーカスの勝利で戦闘は終わった。
マキの命はルーカスに奪われ、ルーカスの───要するに、ノースタンの勝利で幕を閉じたのだった。
───と、現在猛者との戦闘を行っている残りのメンバーは、奇しくも『チーム一鶴』だけとなってしまった。
これは、『チーム一鶴』が弱いから敵が溜まっていっているのか、『チーム一鶴』がまるで主人公のような敵を引き付ける何かを持っているのかはわからないけれど、執拗に狙われていた。
───いや、主人公のようなカリスマ性を持っているわけでも、チート能力を持っているわけでもなかった。
『チーム一鶴』は、ユイと戦った後にロイロットと邂逅したのだけれど、それが行われた理由としては能力がバレている三元帥のメンバーじゃ勝ち目がなかった───ということだ。
能力がバレていたとしても、能力がわかっていないとしてもアスカ元帥の『転移無能』であれば対処できたのかもしれないけれど、アスカ元帥はそれを拒んだ。ナード元帥を殺されたが故に、そこで勝負をすることを拒んだのだった。
グラシル元帥は能力がバレているため、疲弊したところを奇襲する───ということ程度しかできない。
だからこそ、サウスタンの三鬼が派遣され、それで敗北したからサウスタンの長であり、最高戦力であるロイロットが登場したのだった。
───そう、今から紡がれるのは『チーム一鶴』とロイロットの戦闘である。
***
「俺はサウスタンの長だとかそう言うのは差別ねぇし、容赦もしねぇ!だからくらえ!『羅針盤・マシンガン』!」
オルバがそう口にすると、ロイロットに向けて飛ばされるのは大量の銃弾だった。
「───ンなんともまぁ、弱々しい銃弾よ」
ロイロットがそう口にすると、ロイロットに接近する直前でその銃弾はピタリと止まる。推進力がかかっていたというのにだ。まるで力が奪われたかのような感じで銃弾が止まったのだった。
そして、銃弾はグルンと180度回転し、オルバ達『チーム一鶴』の方を向いて───
「ン発射」
「───おい!まじかよッ!」
オルバの放った『羅針盤・マシンガン』の銃弾は、ロイロットには当たらずに方向を変えて『チーム一鶴』の方へ飛んできていた。放たれた銃弾は、オルバの管轄ではない。
「───守れ」
その言葉と同時に、『チーム一鶴』 の前には大地の壁ができて銃弾から守ってくれる。
「助かったぜ、イブ...」
「今はそれどころじゃない。問題は、攻撃が通らない理由を壊滅することだ。相手の能力は銃弾を止めて向きを変える能力なのか?」
そんなに都合よく都合の悪い能力が敵として現れるのか───などとオルバは思ってしまう。
「クバル、知っているか?」
監視役兼同行人であるクバルに、オルバは話を聞く。本来であれば、ユイを倒したので条件達成したことになり、クバルはもう役目を全うしたのだけれど、長であるユリウスに時空の結界まで案内するように言われたので、ここに残っているのだった。
「すまない、俺もロイロットの能力までは把握してない。でも、ロイロットは鬼神じゃないのに、鬼神の覚醒した後の状態よりも強い力を持っている───とされているよ」
「それは本当か?」
「あぁ、本当だ」
もし、そうだとするとそれはとんでもない力を持っていることとなる。これまで『チーム一鶴』は、様々な強敵と───例えば、『不死』の能力を持つ転生者であったり、『脳内辞書』の能力を持つ実質不死身の人物だったりなどと戦っているが、最悪そこに匹敵する実力がある───ということになるだろう。
少なくとも、章ボスとしてはピッタリの相手だろう。
「ン君達ィ、ンここは戦場だよ?ンそんなにお喋りしていていいのかい?」
その言葉と同時に、イブが作った壁が歪む。その壁の奥には、ロイロットの姿があった。
「───ロイロット!」
「飲み込め」
その刹那、イブが大地を動かしてロイロットを飲み込もうとする───
───が、動かない。
「───ッ!」
「魔法が...使えない?!」
「ン残念だねぇ、ン私の前ではぁ...君達はぁ、無力」
『チーム一鶴』とクバルの4人は、一斉に後ろに下がってロイロットと距離を取る。
「アイツの能力は一体なんなんだ...」
「ンさぁ?ンなんだろうねぇ...」
───ロイロットの能力は、不明である。
相手の能力を判明させなければ、勝利することは難しいだろう。
「クッソ、見極めねぇと...」
攻撃が通じない今、『チーム一鶴』にできることはその能力を判明させてその綻びを見つけることである。
───目の前のロイロットに勝利することはできるのだろうか。




