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第674話 土の中の傑物

 

 俺達の目の前に土の中から現れたのは、三元帥の一人であるグラシル元帥であった。

 両腕から、刃物のようなものが付いていた。例えるならば、長く伸びた鮫の歯のような感じだろうか。


 もしくは、巨大魚のヒレ───と例えてもいいかもしれない。

「三元帥、またか...」

 今日は、もうナード元帥と戦って勝利しているから三元帥の誰かと勝負するのは十分だ。そう言いたいところだけど、どうやら戦わなければいけないようだった。


「後ろは俺に任せろッ!『羅針盤・マシンガン』!」

 グラシル元帥が俺達の後方へ現れても、敵兵は止まること無く進軍を行っていた。その進軍に巻き込まれて攻撃されてしまっては、グラシル元帥どころの問題ではなくなってしまう。


「すまない、頼む!」

 俺は、自ら志願してくれたオルバに敵軍の侵攻を食い止めてもらうことにした。別に俺が食い止める役目でもよかったのだけれど、わざわざ志願してくれたオルバに任せないわけにはいかないだろう。

 俺達は、オルバと互いに干渉しないように数歩進んで相手することにした。


「俺の相手は2人と1匹で十分ってことか?」

「あぁ、そう───」

「───いや、違う。俺一人で十分だ」

「お、おぉ!おぉぉ?」


 その刹那、地面が震撼する。グラグラと揺れた地面は、そのまま上半身だけを地上に出しているグラシル元帥の体を飲み込んでいったのだった。

「やっぱ、イブの魔法は強いな。これでグラシル元帥も───」

「いや、まだだ。俺の推測だと、グラシル元帥にほとんど大地の魔法は通用していない」

「───は?」


 その直後、イブとリミアが立っている地面から水泳の蹴伸びのような体勢で土の中から出てきたのはグラシル元帥であった。その腕に装着している刃物が、イブの喉を掻っ切る。


「───ッ!」

 ピュッと首元から飛び出るイブの鮮血。もし、もう少し傷が深ければイブは死亡していたかもしれない。

「ッチ、後ろに下がりやがって」

 イブが、斬られた首を抑えてその場に屈む。イブに近付いて、リミアは『羽休み』を使用する。


 そして、イブの喉の怪我は回復したのだった。


 ───と、グラシル元帥は悔しそうな顔をして、そのまま土の中へと、まるで水の中に飛び込むかのような体勢で戻っていった。


「今のって...」

「グラシル元帥は、俺の天敵とも言える能力───土の中を自由自在に泳げる感じの能力だろう...」

 イブは、そう小さくする。


 ───そう、イブの持つ大地の魔法だって完全無欠な能力だというわけではない。


 大地の魔法は、大地を自由自在に操ることが可能───という魔法なので、地面に穴を開けたり地震のように揺れ動かしたり、色々な物を地面の中へと飲み込んだり、地面を針のように鋭く引き伸ばしたり、地面を隆起させて壁を作ったりすることはできる。


 だから、地面に足をつけている相手には、最悪認識されることも無く勝利することが可能だし、空を飛んでいる人物だって大地を動かして捕らえることは可能だ。


 ───が、地中を自由自在に動くことが可能な能力を持つ人物に対してはそのチートのような強さを発揮できないのである。


 地中を自由自在に動ける人物にとって、大地というものは巨大なプールと同義なのである。普通のプールで、水の中に埋められても体はその重圧で破裂しないし、水に体を絡め取られども平然と抜け出すことができる。それと同じく、土の中に埋められても体その重圧で破裂しないし、土に体を絡め取られども平然と抜け出すことができる。


 それ故、イブにとってグラシル元帥は天敵なのであった。


「もう一度だッ!」

「───『破壊』ッ!」


 再度、土の中から飛び出てイブの喉を掻っ切ろうとしたグラシル元帥に向けて、俺は『破壊』を使用する。

 俺は、それによりイブの喉が切られるよりも前にその腕に付いていた刃物を『破壊』することに成功した。


「───ッ!腕の刃が!」

「狙いやすかったぜ、喉を狙ってくれるからよ」

「───ッチ、このヒヨコめ!そんな体で俺の『土龍』に勝てると思ってんのか!」


 土龍・・・土の中を自由に掘り進むことが可能。


 どうやら、グラシル元帥の能力は『土龍』というのだった。

「土の中を自由に動くから土の龍ってことかな?」

 そうやって、イブに聴くのはリミア。


「土龍は、モグラの別称だ」

「うっせぇな、誰がモグラだ!土の龍で言いんだよ!」

「おっと、土の龍からしてみればモグラは別称ではなく蔑称なようだったな。まぁ、グラシル元帥は俺達にとってはモグリなのだけれど」

「あぁ、うぜぇ!お前達全員殺してやる!」


「最初からそうやって口ばかりだな。やってみろよ、俺を攻撃してみろ───」

 俺が、そう安い挑発をしたと同時。グラシル元帥は、怒りに任せて俺の方へ突っ込んできた。


「───『ミサイルシェル』!」

「んなの効くかッ!」

 俺が飛ばす『ミサイルシェル』を、その太い右腕で掴んで受け止めてしまう。そのまま、その貝殻を投げ捨てて俺のことを掴む。


「───ぐっ!」

 そして、そのまま俺の視界は黒く染まる。失神したのではない。



 ───そう、俺はグラシル元帥に掴まれて土の中へ引きずり込まれたのだった。

グラシル元帥は、「掘り進む」なので自由に泳げる訳ではないです。

でもまぁ、土の中の自由度はほとんど変わりません。

逆に、掘り進むだからこそ、リューガは土の中に連れて行かれた。

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