第658話 リューガ、その過去 ─決定─
部屋にいるのは、俺とヒンケル・カールの3人に加えてヒンケルが連れてきた3人の合計6人のメンバー。
チューバとオイゲンの2人は、まだ他のメンバーを探しているのだろう。
誰も口を開かない気まずい空気がこの部屋を包んでいる中、次に部屋に戻ってきたのはオイゲンだった。
「皆、愛しているよ。ただいま───って、これは」
オイゲンが部屋に戻ってきて、最初に目にしたのはカールが持ってきていたカイライの生首だった。いや、機械族であり『自暴自機』までを使用していたカイライの首が生首と言うのだろうか。
まぁ、元は生物だったことに変わりはないだろうから生首と呼称することにする。いくらふざけたって、その部位を「頭パーツ」と呼ぶことはできないだろう。
「───まさか...殺したのか?」
「はい、殺しました」
「───お前ッ!壊すッ!」
「やめておけ、双方無駄になるぞ」
2人の喧嘩を止めるのはチューバの部下のNo.2であるヒンケルだった。
「何が無駄になるんだ!俺達の命か?」
「お前たちの命が無駄になる?違うな。無駄になるのはカイライの死だ」
「はい、そうです。今後の展開を考えてもここで戦闘するのは悪手でしょう」
「お前...殺したのに何ヘラヘラしてるんだッ!」
オイゲンは、カイライを殺したことに怒りをぶつけていた。カイライも、オイゲンと同じでチューバの部下だったから、どこかで2人に関わりがあったのかもしれない。
もし、違うとしてもオイゲンはチューバの部下のNo.1なのだから、チューバの他の部下の名前を覚えているとしても不思議ではない。
「戦うのは愚策です。チューバ様も怒るでしょう」
「あぁ、怒るだろうよ。なにせカイライを殺されたんだからな」
2人の意見はその場で拮抗する。オレは、目の前で繰り広げられる喧嘩を止めることなんかできなかった。
「先に言っておく。お前は既知だが俺の性には合わない。愛さないし壊さないよ」
「お好きなように。ネタバレですが、アナタの登場はあまり大きな影響はございません」
オイゲンが、カールの吐く言葉を無視してカイライの生首を手に取りそのまま大切そうに両腕で抱きしめた。
これにて、2人の殺し合いに最も近かった口喧嘩は幕を閉じたのだった。
「カイライ...すまないな」
「おいおいおォい!俺様達はお前らに呼ばれてきたッてんのによォ!歓迎のかの字も無いんか?」
「お前を見ていると恥ずかしくてこっちの顔から火が出てきそうだ。まぁ、もう出きったのだけれどな」
そんな辛辣な言葉を投げかけるのは、2人の人物。片方は、30代ほどのチンピラで。もう片方は、顔に包帯を巻いた人物だった。
「───すまないね、4人共。見苦しいものを見せてしまった」
「いいえ、大丈夫ですよ。オイゲンさんの仲間思いなことがわかりました。これだけ怒ってくれるのならば、私達も安心して死ねます。まぁ、私はブスですので愛されるかはわかりませんが」
そんなことを口にするのは、鋼鉄のペストマスクを付けた、タコのような足を持つ人物だった。生物であることは間違いないのだが、種族はわからなかった。
「大丈夫、俺はムレイのことだって愛するよ」
オイゲンは、そう口にする。それと、ほとんど同刻だった。
「ワァ!夕方>さンイヵ゛いい─⇔」
そこに現れたのは、ボクサーのような格好をした黒髪の目が完全にイッてしまっている人物。その人物は、人の言葉とは思えない言語を話していた。
「あら、たくさんいるじゃない。異常者が」
ボクサーのような格好をした人物───ヴァレンティノが入ってきた数秒後に入ってきたのは、月光徒の幹部であるチューバと緑髪の女性だった。
「「「───ッ!」」」
全員。そう、全員だった。先程までバチバチに争っていたオイゲンとカールも、俺達を揶揄していたチンピラみたいな人物や顔に包帯を巻いた人物も、ペストマスクを付けた人物(?)も、全員揃ってチューバの登場と同時に頭を垂れた。
「───何が」
「いや、お前ら。大丈夫だ。今日呼んだのは俺だから、頭を上げてくれ」
その言葉と同時に、全員が頭を上げる。
「───と、アインには逃げられたな...しょうがない。これだけ大人数のところは向いてないからな...」
「お、おいッ!チューバ様、まさかヴァレンティノに加えてアインとそっちにいるライザまでも用があるってのか?」
「あぁ、そうだ。ここにいる14名───いや、アインがいないから13名か。アインも仲間になること自体には協力してくれるようだったから、アインとここにいる15名で特別チーム『付加価値』を組むことにする。承諾してくれるか?」
「それは構わないが、メンバーは如何なものか。ヴァレンティノを仲間にするのは反対だ」
「ョム一口」
よくわからない言葉を発するヴァレンティノ。どうやら、会話はできないようだった。
「だけど、ヴァレンティノは強い」
「強いって...まぁ、そうなのだが...」
「俺が欲しいのは強さだ。協調は皆に求める最低限のものだ。凸凹が上手く当てはまるようにメンバーは思索を尽くしたつもりだ」
月光徒の幹部であるチューバの言葉である異常、無闇に逆らうこともできずに、この場にいる15人───いや、正確には14人で『付加価値』のメンバーは決定したのだった。




