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第637話 本領発揮

 

 イブの大地の魔法のおかげもあり、俺達はダメージを与えられることなく、『+C』のアジトからの脱出に成功する。『+C』は、もう既に壊滅しているのだが、俺達はそのスポンサー的存在であったストラスの相手をさせられているのだ。


「ここならば、俺は好きなように戦える。オルバは能力をバレないように立ち回れ」

「あぁ、わかってる。俺だって能力を奪ってくる相手に能力を見せびらかす気はねぇよ」

 俺のように、何個も能力を持っていて、『憑依』さえ取られなければ、最悪能力を補充できるのであれば『無能』はさほど脅威ではないだろう。もちろん、俺でもこれまで使用していた能力が使用できなくなってしまうのはかなりの痛手になるけれど。


 オルバ───というか、従来であれば能力を一つしか持っていない。だから、『無能』は自分の探訪者生命に関わるほど危険な能力なのである。

 また、『無能』が能力を合計4つ持っている魔神のストラスの元に回っていなければ、きっとまた別の効果だったのだろう。まぁ、そんなタラレバは話すだけ時間の無駄だから割愛する。


 俺は、建物の外まで俺達を追いかけてきたストラスの方を見る。発言を鑑みるに、もう『無能』以外の能力を持っていないストラスには、それなりの筋力があった。


 先程投げてきた、巨大な棚だってその筋力が無ければ飛んできていなかっただろう。かなり、面倒な相手だ。

「どうにかして、アイツの動きを止めねぇと...」


 俺は食べられさえすれば『憑依』が可能だから、ストラスの口の中に入り込んでしまえば『憑依』が可能である。だけど、その口の中に入るためには動きを止めなければならないのだ。

 やはり、ここはイブの大地の魔法に力を借りるのが安全策だろう。


「───イブ」

「わかってる。ここが俺の本領(フィールド)だ」

 イブがそう口にしたのとほとんど同タイミングで、地面がまるでトランポリンのように揺れ動く。


 もちろん、俺は浮遊をしているので効果は無いのだけれど、イブを除いたオルバとストラスの2人は何かと大変そうだった。

「クソッ!なんだよ、これ」

「俺はここから、離れねぇと!」


 ストラスは、ブヨブヨとした地面に罵倒してオルバは、早くも撤退すべきだと言うことに気が付く。俺は、空中にいるから安心だけどオルバは大変だろう。


「───鎮まれ」

「───ッ!なにッ!」

 ストラスの下にある地面が、従来よりも低くなった時、イブはそう口にした。すると、先程までトランポリンのようにバウンドできていた地面の動きが止まりストラスの足を固定していた。


「こんなのすぐに抜け出して───ッ!」

 まるで、樹が生えるかのようにして地面から枝分かれした土がストラスの体にまとわりついた。何本もの樹のような土が、幾重にも重なりストラスを固定する。


「動きを封じられたかッ!『無能』自身を犠牲に『無能』を使用!」

 ストラスは、『無能』を使用するが何も起きることはなかった。当たり前だろう。イブが大地を動かせるのは、イブの能力ではなくイブの持つ固有魔法なのだから。


 能力も固有魔法も、生まれながらにして持っているという点では同じだけれど、明確に差は存在する。そう、能力は条件があったりなかったりするが、体力を消費せずに使用できる。一方、固有魔法は条件は無いけれど体力を消費する。


 固有魔法に、『無能』は使用不可能なのだ。


 ───この戦い、イブの勝利である。


「口を開けろ」

「───クソが...」

 体を固定している枝のような大地が、ストラスの口を開けさせる。開口を公開だ。

「リューガ」


「わかってる」

 俺は、敵には容赦をしないし情けをかけない。どうせ、命を落とすのであれば俺はその命を頂戴する。

 俺は、ストラスの口の中目掛けて飛んでいく。能力名を叫ばなければ、ストラスは俺がどんな能力を持っているのかわかるまい。


「───さよなら、ストラス」

 俺はそう口にする。


 自分から『憑依』されに行くのは、初めてだった。悪役は倒すのがこれまで一般であったから肉体を奪おうとは思わなかったのだ。

 もし、チューバに食べられる───となっても、きっと『能力無効』が付与されて終わっていただろう。


 だけど、今回のストラスは違う。俺の能力がバレることはないから『無能』を使用することは不可能だ。

 チューバを倒すためにも、この『無能』は俺が手に入れておいたほうがいいだろう。これがあれば、月光徒の長であるステートも倒せるかもしれない。


 ───だからこそ、憑依させていただく。


 俺は、ストラスの口の中に飛び込んだ。そして、咽喉を通って胃の中へ突っ込んでいった。そして───



 《Dead or chicken?》


「chickenだ!」

 俺の意識は、ヒヨコの姿からストラスの体に移動する。そして、俺の体を襲うのはギチギチに縛ってくる土の痛みだった。



「あいだだだだだだだ!」

 俺は、そんな声をあげてしまう。


「リューガ、『憑依』を完了したか?」

「あぁ、もちろんだ」

「じゃあ、俺と同居していたステラは何の獣人だ?」

「ジャッカル」

「正解だ。解放する」


 用心深いイブは、ストラスが知らないであろう情報でクイズを出してきた。だけど、俺は答えられるから問題ない。


「これで、『無能』を手に入れられたな。まぁ、使用しないと能力は慣れないけど...」


 ───と、俺は今更気が付く。


 そう、『無能』は消費しなければ慣れないのだ。

「おいおい、マジかよ...この肉体が消えてしまう一週間の間にチューバと戦闘しなければならないのかよ...」


 そんな真実に気付いてしまった俺。だが、とりあえず今はストラスに勝利できたことを素直に喜ぶのであった。


 ───まだ、数時間は朝日が昇らないであろう時間に俺達3人は、『+C』の戦場を後にしたのだった。


 そして、その道程で俺の脳内に流れてくるのはストラスの過去であった。

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