第633話 『鴉』
『+C』の幹部である『鴉』ツルギ。
俺は夜目を戻すためにカラスの姿をしているので、本物の鴉と『鴉』の異名を持つ人物の直接対決───というようになるだろう。
「よかったな」
「───何がよ?」
「もし、お前が外にいたら問答無用で土の中に引きずり込まれていたぜ。消えな、『破壊』」
”バキバキッ”
「───ッ!」
ツルギは、俺の『破壊』を避けようとするけれどもそれは失敗に終わる。
───ブンッ。
「───ッ!」
何か、ツルギが何かを持ったような音がしたので、俺は一瞬で後ろに後退したのだが、それが結果的に良い方へと転じた。
そう、ツルギはどこからか剣を取り出していた。その名の通りの剣だ。
「一矢も報えず一死かよ...」
そう言って、その場にドサリと音を立てて倒れるツルギ。
「よ、よくもツルギさんを!」
「ゆ、許さないぞ!」
そこらにいる一般兵は、ほとんど俺達の相手にならないだろう。
「───『羅針盤・マシンガン』!」
”ドドドドドド”
一つのところに固まって存在していた一般の『+C』の兵を、オルバの『羅針盤・マシンガン』で倒す。
かなり、単純で簡単な作業だった。人殺しを作業───とか言ってはいけないんだろうけれど。
影収納・・・自分の影の中に好きなだけものを収納することが可能。本人の意思でしか取り出すことができない。
「んじゃ、全員倒したところだし次の部屋に行くか」
「そうだな...」
俺達は、2階へ続く階段へ登っていく。
「───と、思ったんだけど大地の魔法って2階にまで効果あるのか?」
「悲しいことに、2階じゃ地面に飲み込ますような攻撃はできないだろうな」
「そうか...戦闘できるのか?」
「一応、床の下にも地面はあるからそれを利用して、床下から鍾乳洞に垂れ下がっている鍾乳石や氷柱を生やす───みたいな、地面から針のようなトンガリを作り出すことは可能だ」
「そうなのか、説明ありがとう」
そうなると、2階での戦闘はイブにとっては本気を出せる───といった訳ではないのだろう。
20の世界でお個会った2度の戦闘は、すべて屋外で行われていて、その2本の脚でしっかりと地面に立っていたから本領が発揮できたのだろう。
「すまないな。こちらも当意即妙に戦闘できるように気をつける」
「応。多くのことは俺達に任せとけ!」
オルバが、そうイブに声をかけた。その言葉が、何よりも心強いものとなるだろう。
───と、俺達は2階に到着した。
とりあえず、ここには3階への階段は無いようだった。まぁ、ここは森の中だし隠れ家のような場所のようだから、3階も建物があればバレる可能性も出てくるだろう。木々の隙間から建物がはみ出ていれば、アジトの場所はすぐに特定されてしまうのだから。
「2階にいそうだな...」
「あぁ、そうだな」
俺達は、2階の廊下を歩き、敵の本陣がいそうな部屋を探す。こういうのは大抵奥に一際大きな扉があって、その奥にボスはドンと構えているのだ。
───などと思っていると、本当に階段から一番遠いところに一際大きな扉があった。
「まさか、そんな前振り聞いたことあるのかよ...」
フラグだとしても、回収が早すぎる。俺達は、そこの扉を開ける。大きな食堂だった。
「───次、探すか...」
そこが食堂であり、誰もいなかった為に結局2階の部屋を1つ1つ開けて誰かいないか確かめていった。
───そして、4部屋目。
俺達はついに、『+C』のボスと邂逅することになったのだった。
ガチャリと扉を開けたところに構えていたのは、2人の門番。俺は焦ったように『破壊』を使用して、2人を仕留めたのだった。そして、その奥にいたのは4人の人物だった。
一人は、部屋の最奥の玉座のような椅子に腰かけながらこちらを見ていた。
他の3人は、こちらを見て床に座っていたところからガバリと立ち上がっていた。そこには、昨日の昼間リミアを誘拐しようとして、俺に右腕を破壊された黄色いスカーフを付けた人物もいた。
「ふふふ...はははははは!面白い、まさか本当に攻めてくるとは!しかもこんな夜に!実に姑息だな」
「誘拐して金を稼ごうとしているお前の方が姑息だろう?」
「好きに言えばいいさ。どうせお前らはここで死ぬ運命だ」
「その言葉、そっくりそのままお返しするぜ」
俺は、ボスのような人物にそうやって返した。兎にも角にも、俺達はその前に3人の残りの幹部を倒したほうが良さそうなのは火を見るよりも明らかだった。
「───お前ら、見せてくれよ。あいつらの大虐殺を!」
『+C』のボスがそう述べて、俺達と幹部との戦いは正式に幕を開けた。
「『低反発者』シナムなんだなぁ」
「『紫煙』ラフートアなのでございます」
「『放火の魔』グライド!」
俺が腕を破壊した人物は『低反発者』シナムと名乗りをあげた。これは、俺達も異名と名を名乗った方がいいのだろう。
「『破壊の支配者』リューガ」
「『全ての飼い主』イブ」
「異名なんか持ってねぇ...オルバだ」
───そんなこんなで、俺達と幹部との戦いは幕を開けたのだった。




