第606話 「壊れよ」
俺が使用したのは、詠唱を変えた『破壊』だった。それ故に、ヴィオラの『脳内辞書』では対応が出来なかったので、見事に攻撃が入る。
「これは───」
「お前への必勝法その②だ。[消去]できなくなってからのお前は非常に弱くなったぞ」
俺はヴィオラに向けてそう言い張る。
ちなみに、必勝法その①は『消去』で[消去]を消去することである。
能力を持っていない人でも、ハッタリで行えるから『脳内辞書』を持っている相手には是非とも試していただきたい。
───と、これも完全な余談なのだけれどこの呪いのような詠唱は、俺が高校生時代、演劇部だった時の顧問である宇治金時こと、宇治紘子先生が使用していた「寄物陳呪・輪廻腕章、三悪道之一・地獄道」という名称をモチーフにしている。
「よくやってくれるじゃねぇか!次から次へとよ...」
ヴィオラは、傷口を押さえながらそう呟く。どうやら、傷口を癒やすことは無いようだった。
「治さないのか?」
「おいおい、わかってんのに聞いてくんじゃねぇ。お前が治せないようにしてんだろ」
「───え?」
別にそんなつもりはなかったのだけれど、なんだか復帰阻止まで効果があるようだった。きっと『脳内辞書』に「正述陳呪、壊れよ」が仮登録された時にでも、そんな文が追加されたのだろう。
もしかしたら、元にそこまでの強さが存在していたのかもしれない。
「だがまぁ、これ以上負けに近付くことはない」
ヴィオラはそう宣言する。
「お前を、この腕でぶち殺すぜ」
直後、ヴィオラの腕の形状が変わっていく。変形していく腕は、次第に細くなり───。
「───スナイパーライフル」
作り出されたのは、狙撃銃。それで、俺のことを捉えていた。
「バーン」
その言葉と同時に、狙撃銃が放たれる銃弾。どうやら、『脳内辞書』の腕を書き換えていたのだろう。
「面倒なッ!」
俺はそう言って浮遊して、その場から移動する。
「中々やるじゃねぇか!だが、これはどうかな!」
バンバンと何発も連続してヴィオラの腕から放たれる銃弾。
「───まずッ!」
両腕が既に変形していたようで、俺は片方の腕から放たれる銃弾しか見ていなかった。よって、1つの銃弾に気付くことがなかったのだ。
俺の方へ飛んでくる、銃弾。ヒヨコの俺だから、この体を穿っては死亡してしまうだろう。漫画で見るような、「一発掠ったくらいじゃ死なねぇ...」みたいな展開はない。
ヒヨコの姿をしている俺は、そんな奇跡あり得ない。もし仮に、羽に掠る程度の被害で終わったとしても、大欠損になるだろう。
だからこそ、今回俺の方向へ迫ってくる銃弾は俺に対するピンチだったのだ。
「───死」
俺がその言葉を呟こうとした刹那。
「リューガさんにお怪我はさせません!」
その直後、俺と銃弾の間に現れたのは土の壁───否、砂の壁だった。そして、家の玄関前に立っていたのは、一人のジャッカルの獣人───ステラだった。
「ステラ!」
「見つけたぞ、魔女候補ッ!」
「───ッ!」
俺のことなど無視をして、ステラの方へ迫っていくのはヴィオラ。どうやら、今回の目的は俺達『チーム一鶴』ではなく、ステラのようだった。
「ひゃん!何者ですか!」
そんな声をあげるステラ。ステラは、耳と尻尾をピンと立てて驚いているようだった。
「ステラに近付くな!寄物陳呪・ヴィオラ、ヴィオラノ山椒魚二成リテリューガニ敗レル事!」
俺は寄物陳呪・ヴィオラ、ヴィオラノ秋刀魚二成リテリューガニ敗レル事───要するに『生物変化』を使用する。
その直後、ヴィオラの姿が秋刀魚に変化した。ピチピチと地面に落ちて何回か跳ねたが、すぐに元の姿に戻ってしまった。
「───クッソ、対処されてしまった!」
どうやら『生物変化』のことは、もう対処済みのようだった。名前を変えども、自分の「肉体」の方の『脳内辞書』の内容を変えられているようだったら、どうにもできないだろう。
「ステラ、逃げろッ!」
迫ってくるヴィオラにびっくりして、動けていないステラ。俺は、ヒヨコの姿なのでステラを引っ張って動かそうにも、それだけの力はない。
───が、俺の代わりにステラを引っ張ってヴィオラの魔の手から救ってくれたのは。
「ステラ、ボーッとするな!我がいなかったら捕まっていたぞ!」
ショウガが、真っ先に立ち寄ってステラを救ってくれたようだった。
「あ、ショウガさん...ありがとうございます。ステラはダメダメです...」
そう言って、シュンと尻尾を垂らすステラ。
「クッソ、捉えられなかったか!それに、面倒事が増えたみたいだ...」
そう呟くヴィオラ。
「さて、どうやって倒すか...」
『破壊』の呪いバージョンは通用するだろうけれど、『生物変化』と『寿命吸収』は無理そうだった。
『生物変化』は対策されていて、『寿命吸収』はそもそも能力の範囲外だからだ。『寿命吸収』、相手が人間の時にしか使えないの、かなり面倒な縛りだった。
まぁ、そんなことを嘆いていても仕方がない。
今、俺達にかされた使命は、眼の前にいるヴィオラを討伐することだった。
月光徒の幹部の能力は全て「妄想を現実に変える」をテーマに作っています。




