第597話 幹部戦
フェニーが、アイラの能力である『回収』によって回収される。そして、その存在が19の世界から完全に消えたのだった。
「やったわ...勝った!成功したよ、ペトン!」
嬉々として喜ぶのは、アイラ。アイラは、ペトンとハイタッチして喜んだのだった。
「よかった...カゲユキは、しっかり作戦を飲み込んでくれたんだな」
俺は、一先ずそれに成功したことに安堵した。俺が立てていた策は、フェニーをアイラに回収させるというものだった。
カゲユキは、それを上手く料理してくれた。まぁ、俺に長く協力してくれているカゲユキならば、この程度の策は理解してくれると理解していた。
「とりあえず、これで月光徒の面倒な『不死』を討伐することに成功したな...」
モンガがそう呟く。まぁ、厳密には討伐ではなく回収なので、封印の方が近いかもしれない。
「───と、フェニーを封印し終えたら、もう時空の結界に入り込んじゃおう!」
俺は、皆にそう伝える。そして、アイキーを持っているカゲユキが時空の結界にまで辿り着いて、アイキーをハメた。
「よし、皆!逃げるぞ!」
カゲユキはそう言いながら開かれた時空の結界の中へと入っていく。俺達も、それに続いて20の世界へと移動していたのだった。
───こうして、俺達は月光徒の幹部であるチューバの管理している城のある19の世界を抜け出したのだった。
クロエの裏切りは、非常にショックなものだったけれど、どうあがいてもしょうがないものだろう。
***
一方、こちらは崩壊した城の前にて。
「中々やるじゃないか、チューバ!」
「言うつもりじゃないが、地下である程度は慣れたつもりだからな」
地下でクロエ───いや、その正体であるマルバスと戦っていたチューバは、まるで漫画の主人公かのように戦いの中で成長して適用していったのだった。
「───と、皆様の協力で俺様の悲願である、『ゴエティア』序列37位以降の人物を───即ち、『ゴエティア』のメンバーの数を半分にまで減らせたので満足ですよ」
「はいはい、そうかよ...こっちは、部下の半分以上を失って迷惑してんだ。それに、明日俺が生かせて頂いているかもわからずに身震いがするぜ...」
マルバスとチューバが言葉を交わす。
「───と、そうだな。俺様はもう正直、ここに集う必要はないのだが...お前はどうしたい?ここでどちらかが死ぬまで殺し合うか、それとも俺様から逃げたってことにするか」
「死ぬのは御免だが、敗走する───というのも勘弁だな。ここは、一時の恥を忍んで一時の和解といかないか?」
「和解ですか...それも、いいでしょう」
「んじゃ、シェイクハンドだな」
「そうですね」
月光徒の幹部であるチューバと、『ゴエティア』の幹部であるマルバスが、お互いに手を取り合う───と思ったら。
「な訳ないでしょう!」
「よくも部下を殺しやがって!」
お互いがお互い、握手をする際に相手に対する攻撃を考えていたようだった。
チューバは『透明』を変化させて、握手を求めた手から触れたら体が一瞬で溶け切るような強酸を射出させる能力である『酸ヶ日』を使用して、マルバスは人物に触れた際、その触れた部分の形を変化させることが可能である『物質変化』を使用した。
「───くっ!」
強酸で手を溶かされたことにより、触れることができなかったマルバスは1歩後ろに下がる選択をする。
「逃がすかよ、俺は本気だぜ?」
だが、下がろうとしたマルバスに更に迫るのはチューバだった。先制攻撃を成功させる能力『選手先制』を使った後に、攻撃に攻撃を重ねる能力『追撃』を使用して、マルバスに乱打を浴びせた。
もちろん、これはただの乱打だけれど、月光徒の幹部も伊達ではない。ただの乱打でも、かなりダメージを与えることが可能だった。
「───よくも...やってくれますね...」
「お互い様だぜ」
その直後、チューバは無駄をなくす能力である『無断捨離』を使用して、マルバスへと向かうまでの移動の無駄をなくした。そして、なおかつ相手を拳を当てるまでもの無駄をも無くしたのだった。
「───この、クソ野郎がッ!」
罵倒を浴びせるのは、マルバス。だけど、現在敗色が濃いのはマルバスの方だった。
これが、月光徒の幹部の実力なのだろう。
「こっちだって、負けてばかりじゃ行けない...勝たせていただきます!」
その直後、チューバの右半分がドシャリと腐っていく。
「───んぁ?」
チューバは、そんな声をあげる。そして、体が腐ったと同時に腐った体をもとに戻す能力『防腐剤』を使用する。
すると、チューバの腐りかけていた体は復活した。
「───ッチ、後数瞬あれば、貴様の脳ごと腐っていたのに...」
「残念だな、そんなことさせねぇよ!」
「だけど、俺様も覚悟が決まった。死ぬ直後まで、お前の相手をしてやろうじゃないか!」
「こっちも、望むところだ!お前らに殺された部下の仇は幹部である俺が取る!」
そして、再度チューバとマルバスがぶつかり合う。
───敵同士の幹部戦ほど、白熱する戦いはないようだった。




