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第524話 ブーロン

 

 ***


 ブーロン1世───俺は、16の世界の貧民街で産まれた。

 子供の頃は自分が王族になるとは一切思わず、それどころか社会的地位が高い人からは虐げられていたので一人称は「俺」を使っていた。

 だから、死んだ今でも自分語りをする際、子供の頃の話をするとついつい一人称が「俺」に変わって───いや、戻ってしまうのだ。


 俺が生活していた貧民街は、それこそパープルが逃亡していたところよりも酷かった。辺りには倒壊した建物の残骸やゴミが大量にばら撒かられており、それらを漁って生活をしていたって感じだった。

 皆は、この話を聞いて同情してくれるのかもしれないが、俺は生まれつきこのような生活だったのでそれほどに辛かったという思い出はない。


 いや、当時は絶対に辛かったのだろうけれど、今となってはその生活もよかったな───と思ってしまったのだ。

 理由は、愛する妻や息子を俺が死亡したことで復讐という行動に出させ、結果的に死亡させてしまったからだ。


 もし、俺が王になっていなければ、反乱なんてのも起こらず、今は貧民街で平和に暮らしていたのかもしれない。


 ───そうそう、俺がMrs.ブーロンが出会ったのは貧民街であった。


 所謂、糟糠の妻というやつであった。幼馴染で、昔からずっと俺を支えてくれた彼女を捨てられるわけがなかった。




 ───と、俺の貧民街の頃の話はほとんどする必要がないだろう。


 そんな過去の話は欲していないだろうし。

 俺の人生の転機は、絶対に先代の国王───現在となっては、先々代の国王と、その家族をパープル以外の全員を殺害したことだろう。


 その行動を行ったのは、俺が40歳を超えたころだった。それまでの人生を、貧民街とそれに近い街で暮らしてきていたのだ。俺が王室で生きていた時間なんて、氷山の一角に過ぎないのだ。


 ───どうして、そんなことをしたのか。


 理由は、もちろんある。16の世界から、差別される人を、貧困の被害に合う人を、貧民街に生きる貧しい人々を救おうと思ったのだ。

 俺が見てきた貧困に困る人物を救おうと思ったのだ。実際、俺が王になる前の16の世界は、国の半分が貧民街であった。


 それを、俺は国の政策で機械的に調整して貧困を無くすことを尽力したのだ。

 これが、俺の正義であった。これが、余の正義であった。


 ***


 Mrs.ブーロン───ワタクシは、ブーロン1世を支え、ブーロン1世に支えられた人生だった。


 きっと、ワタクシの人生はブーロン1世がいなければ成り立たなかっただろうし、ブーロン1世もワタクシがいなければ成り立たなかっただろう。


 ───いや、もしかしたら後者はワタクシの思い込みかもしれない。


 ブーロン1世───あの方は優秀だから、一人でもなんとかなったのかもしれない。


 でも、それでもワタクシを捨てずに王族にしてくれたのは、ワタクシを愛してくださっていたからだろうと勝手ながらに思っている。

 だけれど、捨てられなかったことへの安堵と同時に、不安というものもあった。


 あの方は、ワタクシを捨てませんでしたが、本当にその決断で正解だったのか。ワタクシが、あの方の隣りにいていい身分だったのかと不安になったのだ。


 ───まぁ、その不安は杞憂でワタクシが原因で漬け込まれるようなことはなかったのだが。


 ワタクシは、国政のやり方なんて微塵もわからなかったので、ブーロン1世に任せきりだった。


 ───ただ、ワタクシはあの方が正しかったと信じていた。ただ、信じ込んでいた。


 ***


 ブーロン2世───僕が産まれたのも、貧民街だった。


 両親───ブーロン1世と、Mrs.ブーロンの2人も、僕が産まれた12年前はまだ貧民街にいたのであった。


 お父様は、僕が産まれたことで革命を行う勇気がついたと言っていた。僕がある程度大きくなるまで待ってから、革命を行ったらしい。


 僕だって、少しだけだが、幼いながらにも貧民街を見ていたのでお父様の尊い考えを支持していた。


 ───だからこそ、それを否定するように現国王のパープルが野蛮な殺し合いで解決したことが憎かったのだ。


 自分だって貧民街にいたはずなのに、そこから得たものが何もなかったということが憎かったのだ。


 ───が、どうやら僕の考えは間違っていて、僕は貧民街を綺麗なものだと思い込みすぎていたらしい。



 僕のお父様だって、先々代国王とその親族を殺したように、パープルだってお父様とその部下の命を狙ってきたのだ。

 貧民街というのは、殺すか殺されるかという極論の考え方しかできなかったらしい。


 ───しかも、パープルは自分一人だけが生き残ったように、『切り札の制裁(ジャッジメントカード)』の8であるアハトのみを生き残らせたようであった。


 結局、貧民街というのはそんな野蛮なことだと気付いたのであった。


 ───が、僕はお父様の考え方を信じていた。信じることが、それしかなかったのだから。



 ***


「───ブーロン2世達にも、彼らなりの正義があったのか...」

 俺は、ブーロン2世達の断片的な記憶を読み取った。


「ブーロン家の皆。俺、誓うよ」

 決めた。俺は、決めたのだ。命を奪った俺が意志を継ぐための宣言。


「16の世界と17の世界を、最高の国にする。だから、ここに眠ってくれ」


 ───16の世界のことを考えてこれまで生きてきたブーロン家最後の魂がここに眠る。


「リューガ、行けるか?」

「あぁ、ごめんな。待っててくれて」

「大丈夫だ。それじゃ、17の世界の国王のところにでも行こうではないか」


 ───俺とショウガは、17の世界の第28代国王であるポーラン・ハイランドのところに向かった。

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