第39話 2つの体
「魂だけの状態で...浮いているのか?」
「あぁ...そうだ...全ての生物は...それを...視認できない...」
「じゃあ...どこにいるかもわからないってことか?」
「あぁ...そうだ...それで、お前は寿命を吸収させてくれるか?」
「嫌だと言っているだろ!」
「そうか...じゃあ、3つ目だ...」
俺はエイジンを睨む。フミヤは『寿命吸収』を許可したのだろうか。自分の能力を知っているとはいえ恐ろしい。待てよ。寿命が全て吸収されたのに、死なないのは何故だ。精神の寿命は吸収されないということか。
「待ってくれ...『寿命吸収』で吸収できるのは...肉体の寿命か?」
「あぁ...そうだが?」
「じゃあ...こいつのなら吸収していい!」
俺はカイロの姿になる。エイジンは驚かなかった。
「リューガは...何の能力を...持っているんだ?」
「内緒だ...言わないよ...」
「そうか...まぁ、寿命に問うから...いいのだが...」
「そうか...」
「では...寿命を頂く...」
エイジンは俺に触れる。すると、俺はひよこの姿になった。
「たったの4日じゃないか!騙しよって...」
《Dead or chicken?》
まだ、俺は死んでいない。なのに、なんでこの声がするのだろうか。寿命を「吸収する」のは「食べる」と同義なのだろうか。なら、この状態で「chicken」を選んだらどうなるのだろうか。気になる。気になってしまう。
「チキンで!」
「急に...どうし...」
俺の視界が変わる。自分の手の中にはひよこがいる。これは、どうなっているのか。エイジンの体の俺は立ち上がる。そして、前に1歩進んだ。すると、手の中にいたひよこも1歩進む。1歩下がるとひよこも1歩下がる。動きが一致する。状況が理解できないなか、俺の頭には膨大な量の情報が入ってくる。
「うっ...」
同じ情報が2個ずつ入ってくる。頭が痛い。脳震盪を起こしそうだ。頭痛が収まると情報を整理する。
「えっと...エイジンで131歳...ドイツのベルリン生まれで...持ってる能力は『破壊』と『寿命吸収』か...俺に伝えようとしていたことは...『破壊』の適応者は...人を最低4人は殺したことが...ある...だと...」
俺は少し放心状態になる。考えられなかったのだ。何も。4人も殺しただろうか。見に覚えがない。一人はキュラスシタだろう。これは、わかる。残りの3人は誰だろうか。リューガとジャワラとヘイターが入るのか。
俺はその場に座り込む。何も考えられなかった。『破壊』がそんなに恐ろしい能力であることを知らなかった。そして、またこんな情報がわかる。
「『破壊』は...殺した人数だけ...強力かつ凶暴に...なるだと...」
エイジンが俺を殺そうとしている理由がわかった。俺は強力すぎたんだ。ここに来て、カイロも殺した。それによって、強化されたのだ。恐ろしい。恐ろしい。恐ろしい。
「俺は...どうすれば...」
俺はもう一度手の中にいるひよこ──もう一人の自分について考える。こいつはさっきまで俺の体だったのだ。自分が2人もいると知っているとかなり気味が悪い。どうすればいいだろうか。
「そうだ...『寿命吸収』だ...」
俺は手の中にいるひよこの寿命を吸収する。しばらくすると、ひよこはその場に倒れた。そして、寿命が残りどれ位かわかる。
「俺の寿命は...残り約72年...か...」
エイジンが持っていた寿命を足し合わせて、約114年だ。俺はこの世界では、事故や殺害されない場合は114年は生存するのだ。114年後、俺は老衰で死ぬのだ。だが、それは『寿命吸収』で他の人の寿命を吸収しなかった場合だ。吸収すれば、114年以上生きていられる。
「ひよこの姿に...なれるな!」
俺はひよこの姿に戻る。そして、案内人を呼んだ。
《寿命吸収が体に適応しました。肉体の死亡後も能力は継続して使用できます。》
俺の頭の中に声が響く。能力が体に適応したらしい。早かった。どうやら、カイロの『酸化』は適応できなかったらしいが、まぁいいだろう。使う部分が少なそうだし。
「お呼びになりましたか?」
「あぁ!今日はもう帰る!」
「わかりました。では、こちらに」
俺は案内人の手の上に乗る。そして、ショウジの家まで連れて帰ってくれた。
俺の修行は、これで終わりだ。 今日、俺は『破壊』を手に入れたのだから。
***
「あぁ...暇だなぁ...」
ショウガとショウジはリビングでだらけている。フスミとガジーは買い物にでかけたのだ。
「そうだな...暇だな...」
「あぁ...この表通りには能力道場以外になんかないのか?」
「能力道場以外?あぁ...別世界の試験場と...剣技を教える道場...魔法を教える道場があるぞ?」
「魔法?」
「あぁ!魔法だ!」
「でも...また修行かぁ...」
「そうだな...」
「やめておくか...」
「随分と興味が薄れるのが早いな...」
「ほっとけ...」
2人はダラダラし続けた。




