第37話 火事
少年は一人で部屋でしゃがんで泣いていた。カイロの火の不始末で可哀想な思いをした。本当にすまない。
まぁ、俺が謝るのも違うと思うのだが。
「おじちゃん...誰?」
「おじちゃんじゃない!お兄さんだ!」
「ご、ごめんなさい!お兄さん!」
「ここから逃げるぞ!」
「う、うん!でも...」
”ワンッ”
犬が鳴いた。少年の後ろに子犬が一匹隠れていたのだ。生後1年は経ってないだろう。
「少年は...犬を助けてたのか?」
「うん...そしたら...逃げれなくなって...」
”ゴォォォ”
瓦礫が崩れる音がする。こんな悠長に話をしている暇はない。急いで逃げなければならない。
「逃げるぞ!少年!」
「う、うん!」
俺は少年と子犬を担ぐ。そして、階段に向かった。だが、階段の踊り場は瓦礫で通れなくなっていた。
「クソッ!通れないじゃないか!」
俺は瓦礫に触れる。痛い。皮膚が焼ける。瓦礫は燃える火から熱を奪っていた。触って退かすこともできない。
「どうすれば...どうすれば...どうすれば...」
「お兄さん...大丈夫?」
少年が心配そうに俺に声をかける。だんだん呼吸が苦しくなる。急いでここから逃げなければ一酸化炭素中毒で死んでしまう。
「一か八かだ!」
俺は瓦礫に手をかざす。そして、少年を助けたいと思うこと───慈愛と、自然へ感謝をする。
”バキバキッ”
瓦礫が破壊される。俺たちは通れるようになった。
「これで降りれるぞ!」
俺たちは階段を降りる。これで出れる。だが、玄関にも瓦礫があった。
「破壊だぁぁぁ!」
”バキバキッ”
玄関にあった瓦礫も破壊される。そして、俺たちは外に出た。
「おい!!生還したぞぉぉぉ!」
消防隊員がそう叫んだ瞬間、ついさっきまでいた家が崩される。そして、家だった物は水をかけられる。
「お兄さん!助けてくれてありがとう!」
「おうよ!」
俺は少年を地面に降ろした。
「うちの息子をありがとうございます!」
少年の母親であろうと思われる女性が俺に話しかけてきた。
「無事で何よりです!」
”ワンッ”
俺が助けた子犬も鳴いた。一件落着だ。
「それじゃ、俺は帰りますね!」
「あ、あの!名前だけでも!」
「なーに!私は所詮旅人!名乗るほどの者では!」
「そうですか...ほら!ハリマ!助けてくれたお兄さんに さようなら は?」
「お兄さん...さようなら!」
「あぁ!さよなら!」
俺はショウジの家に帰っていく。人生で一度は言ってみたい言葉の一つを今日言えた。
***
「ただいまー!」
ショウジの家に帰る。
「おかえりなさ...って誰ですか!あなたぁ!」
俺はカイロの姿で家の中に入ってきてしまった。フスミに叫ばれる。
「あぁ!すまんすまん!」
俺はひよこの姿に戻る。
「リューガだ!」
「なんだ...リューガさんでしたか...でも、今の姿は?」
「俺が持ってる能力だ!」
「そう...なんですか...」
部屋に入ると、ショウガがいた。
「リューガ!別世界に行く方法が見つかったぞ!」
「それは本当か?」
「あぁ!そうだ!」
「どうやって行くんだ?」
「試験って言うのがあるらしい...」
「へぇ...そうなんだ...」
「それでだ!我らが全員能力を手に入れれば行こうと思っている!」
「そうか!」
「あぁ!」
「おい!リューガ!いるか?」
ショウジが俺のことを呼んでいる。
「あ!はい!います!」
「じゃあ、ちょっとこっちに来てくれ!」
俺はショウジのところへ行く。ショウジはショウジ自身の部屋に招き入れてくれた。
「それでだ、『憑依』の能力を使ったのか?」
フスミにでも聞いたのだろう。俺がカイロの姿を持っていることを知っている。
「あぁ!そうだ!使っていいか?」
「あぁ!使ってくれ!」
俺はカイロの姿になる。
「うへぇ...本当に変化したよ...」
「だろ?」
「あぁ!で、この前も言ってたように、『憑依』で手に入れた体には使用期限があるのか?」
「多分...5日位だと思うんだ...」
リューガに食べられた時は5日だった。5日間休みなしで働かされたのも覚えている。
そして、ジャワラは2の世界 シャコリア に行って4日で変化できなくなった。そして、残りの1日はヘイターを倒した日だ。
「と、すると...5日後に変身が解けるのか?」
「多分...な...」
「それじゃ、調べてみるか?」
「あぁ!そうするよ!」
ショウジは、カレンダーの5日後に「リューガ、変身不可」と書いてある。この仮説は当たるだろうか。俺はショウガもいる部屋に戻る。
「ただいま帰りましたー!」
リカは嬉しそうにしながら、家に帰ってくる。
「どうしたんだ?嬉しそうにして?」
「腹も合格したんです!後は顔だけです!」
「そうか...俺は明日試験だよ...」
「そうですか!なら、頑張ってください!」
「あぁ!わかってる!」
そうだ。明日は試験だ。明日50cmの石を壊せるかどうかで結果が決まる。だが、俺には自身があった。
火事現場で自分の中で何かが変わったような気がする。助けた”ハリマ”という少年によって、何かが変わったような気がしたのだ。きっと大丈夫だ。




