第3話 豚は元人間
ショウガとはいつも地球の話をしていた。地球には様々な生物がいること。また、工業が発達していること。
いつものように当たり障りのない会話をしていたのだ。
「地球...行ってみたいぜ!」
「でも、ショウガさん?喋る豚なんかが現れたら世間は騒然としますよ?」
「我だって元々は人間だったんだぞ?馬鹿にしてるのか?」
「え...元は人間?」
「あぁ!そうだが...どうかしたのか?」
「えぇぇぇぇぇぇぇ?人間なのぉ?人間が豚になったの?」
「そんなに驚くことか?」
「うん!人間が豚になるなんて興行収入300億円の某映画以外で見たことないよ!」
「前も言わなかったか?我がジャワラに家畜にされたこと?」
「あー...初日になんか聞いた気もする...でも、なんで豚にさせられたの?」
「我は昔人間だった!この世界では人間は差別されているんだ」
そう言われて見れば、この異世界に来て人間を一人も見てない。見たのは蜥蜴人間と豚や牛・鶏くらいだ。
「人間は差別されてるって...なんで?」
「人間は能力らしい能力を持っていない。だから無能として卑下され、不必要なものとして扱われて来たんだ!我の親や兄弟は52年前にジャワラに殺された!そして、その頃14歳だった私だけ家畜として豚に変えられたんだ!」
「52年前?ていうことは今ショウガさんって66歳なの?」
「そうだが...そんなにでかい声で年齢を言うな?」
「えぇ!クソジジイじゃん!ヨボヨボじゃん!」
「うるさい!クソジジイじゃねぇ!クソでもジジイでもない!全否定だ!」
「うわぁ...割と若いと思ってたのにぃ...」
「失礼なやつだ!だが、人間に戻る場合は14歳の姿のまんまだ!安心しろ!」
「安心しろって言われてもなぁ...」
この世界では地球のことを異世界と呼び、1の世界や2の世界・10の世界などのことを別世界と呼んでいる。別世界の移動は時空の結界にアイキーをはめ込むことで行くことができるが、異世界の移動はできないとされている。要するに一方通行ということだ。
「地球に戻りてぇ!一生鶏とか嫌だよぉ!」
「まだ一週間じゃないか!我は52年だぞ!52年!」
「だって、地球に帰りたいもん!」
「なら、別世界に行って帰る方法を見つけるしかないだろう!」
「そうだよなぁ...冒険かぁ...まずはアイキーを見つけなきゃなぁ...」
「アイキーはジャワラが持ってるはずだが?」
ジャワラは俺たちのことを飼っている屋敷の領主である。もちろんジャワラも蜥蜴人間だ。
「じゃあ、時空の結界ってどこにあんの?」
「その場所は知っている!直近で、7年前に4人グループが2の世界に行った!」
「直近で7年前かよ...」
「あぁ!我が生まれてから66年の間に6グループしか行ってないな!」
「えぇ?マジで?」
「あぁ!だが、異世界から来るとしても、1の世界は一番最初だ!だから、来るものは少ない!」
必ずしも全員が1の世界に転生してくるわけじゃない。2の世界に転生するものもあれば5の世界や15の世界などに転生するものもいるのだ。1の世界の前に世界はない。この異世界を一つの縄で表すなら、勇は縄の一番端に転生したのであった。
「そうか...なら大丈夫そうかな?」
「別に大丈夫ってわけじゃないだろ?」
「そうだな...あぁ...ま、とりあえず目標は決まった!最初の目標はアイキーを手に入れることだ!」
「おぉ!我も他の世界に行ってみたいし、人間の姿に戻りたい!協力しよう!チキュウとやらにも興味はあるしな!」
「あぁ!人間の姿に戻るにはどうしたらいいんだ?」
「ジャワラの意識を無くす...そうすれば我は人間の姿に戻る!」
「じゃあ、まずジャワラ討伐か...大変そうだな...」
「あぁ...作戦会議が必要だね!」
俺たちがいる柵の中に一匹の蜥蜴人間が入ってくる。使用人のようだった。
「全く...なんで屋敷内掃除担当の俺が豚共の世話を焼かなきゃなんねぇんだよ...」
使用人は文句を言いながら、豚の餌を取り替える。
「面倒くせぇな...」
俺と使用人は目が合った。使用人は嬉しそうな顔をする。
「おいおい!こんなところでひよこちゃんと会えるのかよ!嬉しいぜ!」
「おい!ひよこ!逃げろ!」
「え?なんで?」
「いいから逃げるんだ!捕まるぞ!」
「わ、わかった!」
俺は急いで鶏小屋の方へ走る。だが、使用人に捕まってしまった。
「へっへっへ...捕まえたぞ!」
使用人は俺を顔の前まで連れてくる。そして...
「いただきまーす!」
使用人は俺に向かって口から火を吹く。蜥蜴人間なら誰しもみんな持ってる技だ。
いや、正確には肺の病気を持っていない蜥蜴人間なら誰しもできる技だ。
俺はその火によって焼かれる。痛い。痛い。痛い。体中に針が刺さっているような感覚だ。そして、俺は使用人に丸呑みにされる。
「こんなところで...死ぬのかよ...」
《Dead or chicken?》
頭の中に声が響く。俺が転生したときにも聞いた声だ。だが、今は使用人の胃の中にいる。
「そんなん...チキンに決まってる...」
その瞬間、俺の視界は光に包まれる。俺は思わず目を瞑った。そして目を開ける。
俺の目の前には青い空と俺の脇腹くらいの大きさの木の柵・そして、数匹の豚がいた。
「ひよこぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
目の前にいる一匹の豚は叫んでいた。