表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
287/1070

第274話 弔い合戦 ─無勢─

 

「スー」

 モンガは大きく空気を吸う。いつでもラシューの攻撃に備えられるように。


 ラシューの大気を操る魔法はかなり脅威だ。単なる魔法ならば、モンガはいくらも見てきたがその人個人だけが使える遺伝的な、先天的な魔法はその場その場での対処が必要なのだ。


「サンダー」

 アテムがモンガの視覚外から魔法を放つ。


 ”ブンッ”


 モンガは、手に持った刀を大きく振った。上から下に。

 刀は床についた。


 モンガの体よりも、地面の方が電気抵抗が小さかった。ただ、それだけのことだ。


 ”ダッ”


 モンガは、死角にいたアテムの方へ後ろ飛びで移動する。


「ウィンド」

 空中にジャンプしたモンガは風の魔法で吹き飛ばされる。


「スー」

 再度、呼吸。肺に───否、体中に酸素を行き渡らせる。

 風魔法が空気を届けてくれたのだ。


「多勢に無勢...そんな言葉があるが、始めてそれを実感しそうだ」

 モンガはそう呟く。味方はモンガ一人で、敵はアテムとラシューの2人。

 差は、1人だ。


 そこまで差がないように思えるが、その「1人」の差は大きい。

 一人で百人力・万人力なんて力を持つのがアテムとラシューなのだ。


「万人力か...」

 モンガはそう呟く。2人の強さは今戦っているモンガ自身が一番わかっている。


「まぁ、私は億人力だけれどな」

 モンガは、そう付け加えた。これほどまでに、心強い言葉はこれまでにあっただろうか。


「風魔法は使うな」

「わかったわ」

 2人は、感情のこもっていない声で会話をしている。操られている2人に、感情なんてものはなかったのであった。


 それを無念に思いつつ、モンガは自らの刀を振るう。


 ───私が弔ってやる。



 ───だから、誰も傷つけずに死んでくれ。


『1の舞 麗───』


「───ッ!」

 途端、モンガの体にとてつもない重圧が押し寄せてくる。


「───っが」

 肺から、空気が漏れる。


「空気を無くしても駄目なら、逆に空気を増やしてしまえばいい」


 ───大気圧。



 人はそのモンガを襲った重さをそう呼んでいる。


 ***


 ラシュー───俺は、8の世界で産まれた。


 生まれたのは、30年ほど前だ。その頃は、誘拐集団もいない平和な土地だった。


 俺の生まれた家計には代々、「大気を操る魔法」を持っていた。

 その魔法のお陰か、俺達一族は8の世界の王───ポルニフ6世のところで働いていた。


 俺も、そこで15歳から26歳まで働いていたのだ。

 約11年間。俺が悪事を働き、9の世界へ逃亡するまでは───。


 いや、悪事というのは少し語弊がある。

 俺が行った行動は、自らの信念に基づいて行われたものだ。


 だから、正確には「ポルニフ6世にとっての悪事」だ。


 何をしたのか。王が性奴隷を購入するために利用していた誘拐集団を一つ潰したのだ。

 王は、それに関して大変憤慨した為に、俺は9の世界に逃亡した。

 ───それが、今から4年前のことだ。


 9の世界では、王都と貧都とで分かれており、王都には入れなかった。

 王の宮殿で暮らしていた俺からしたら、道端にあるスラムのような家で雑魚寝するなんて考えもつかなかったのだが、そうせざるを得なかった。


 誘拐集団を自らの意思で潰し、自らの意思で逃げてきたのだからそれも渋々ながら了承した。


 そんなある日、夢を見た。


「魔女になってみないかい?」

 怪しい老婆が、そう話しかけてきた。

「魔女?」

「あぁ、新たな魔法を作る...魔女になってみないかい?」

「魔女にはなりません。そもそも、俺は男です」

「そうかい...魔女にはなってくれないか」


 ───そこで、俺は目を醒ました。


 どこか、現実で話しかけられたようなそんな気がした。


「魔女の候補は9人...残るは5人...次は───」


 アテム。そんな、名前が聴こえた。

 そのアテムに出会うのは、数月ほど後の話であった。


 ***


「ウォーター」


 モンガの体に、冷たい水がかかる。モンガは、大気に押し潰されて動けない。


「あ...あが...」

 トン単位で乗っかる大気は、モンガの体をジリジリと蝕む。


「動け...ん...」

 本来、人間には大気を耐えるほどの力はある。

 だが、一気に集まった大気は耐えることができない。


 "ミシ"


 モンガの首の骨が、そんな音を鳴らす。モンガの頭を支えている首。

 それが、大気圧に押されてることで悲鳴を上げているのだ。


 首が泣いている。


 ここで、一般人は首を動かしてしまうだろう。だが、動かすのは逆に首にダメージを与えてしまう。


 だから、モンガは制止した。その場で。


 瞬き一つ許さない、制止。


 ───数々の激戦が行われているこの「250分革命」で、唯一とも言える制止。


「サンダー」


「───ッ!」

 モンガの口から、形にも声にもならない悲鳴がこぼれ落ちる。


 ”ドサッ"


 モンガは床に倒れ込む。上から見た時の面積が、立っているときも寝ているときの方が大きくなるので、モンガの体中はミシミシと音を鳴らす。


「ク...」


「おい...なんで...どういうことだよ...」


 その時、そんな声がした。アテムとラシューは同時にそちらを向く。


「敵が増えましたね、殺しましょう」

「えぇ、そうですね。ファイヤー」

「うお、熱っ!」


「モンガ!大丈夫か?」

 ショウガの声が、モンガに耳に届く。


「今、助けてやるよ!」

 リカがそう言いながら、ラシューの腹にパンチを入れる。


「───ッ!」

「『破壊』!」


 リカは、リューガと同じ『破壊』を使った。


 私は、大気圧から解放される。


 一瞬、驚いたがリカの姿をしたリューガだと気付くのには、そう時間はかからなかった。


 モンガの他に、リューガとショウガがいる。

 3vs2ならば、勝てるだろうか。


 ***


 俺は、最高層に来て見たのは最悪の光景だった。


 モンガと、アテムとラシューが敵対していたのだ。


「敵が増えましたね、殺しましょう」

「えぇ、そうですね。ファイヤー」

 2人はそう話し合い、ショウガに炎で攻撃していた。



 ───すぐに察知した。アテムとラシューはフィオーレ宰相に操られたのだと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ