第262話 最終決戦 ─脱落─
「ほう、特攻ですか」
リカがケンイチロウに迫る。ケンイチロウは、扇を縦に振るう。
"ダッ"
リカは、横に飛ぶ。それを、見越したかのようにケンイチロウは横に振る───広範囲の攻撃。
「リカ、壁を!」
「はい!」
リカは、壁際まで走る。そして、壁を蹴った。
「飛び越える...か」
リカは、前転を交えつつ着地する。ケンイチロウは、横に飛んでリカから距離を取る。
───が、飛んだ方向にいたのはショウガ。
『飛閃軟突流 射突口』
ショウガの顎から飛び出る刀。
「───ッ!」
ケンイチロウの頬に、小さな切り傷を付ける。そして、鮮血を滲ませた。
「よし、攻撃はできた!」
ケンイチロウの頬から傷は消えない。それはすなわち、創者では無いということだ。
「───クソ」
ケンイチロウは、ショウガの間近で扇を振るう。それを、見る前にショウガは退散する。
「ヒット・アンド・アウェイ戦法で行けるぞ!」
「あぁ、そうだな!」
バトラズが、ケンイチロウの後方から接近する。
「ここ」
”ザッ”
ケンイチロウは体をねじらすと同時に、扇を振るう。
”キィィン”
「リカ!」
「はい!わかってます!」
”ドンッ”
「───ッ!」
リカは、ケンイチロウの腹を殴る。すると、ケンイチロウは壁際まで吹っ飛んだ。
「やりました!」
「リカ、流石だな!」
俺は、リカを褒める。すると、リカは嬉しそうな顔をした。
───俺は気付いていた。
───リカは承認欲求が強いということを。
***
リューガの目論見とは、少し違う。
リカは承認欲求が強いわけではないのだ。
みんなの為に活躍しようと努力するも、それが空回りしてしまいそれを自分自身で責めているのがリカなのだ。
全てが空回りする訳ではないが、トドメをさすのは、全てリカ以外の誰かであることが多い。
秋都で行われた戦いでも、リカがとどめを刺したのは皆無に等しい。
1度か2度なのだ。
そんなのでは、まだ足りない。自分がかけた迷惑に比べればまだまだ足りない。
そう、リカは思っている。
6の世界・7の世界で脱退の危機に陥ったことや、9の世界に来て最初のワインダーとの戦いで怪我を負ったことがリカの思う「迷惑」だ。
誰も、そんなことを「迷惑」だとは思っていないのだが、それを伝える場は、これまでになかった。
故に、リカは自分自身に無理強いをさせてしまう。
自分自身が、活躍する場を探しているのだ。
***
”ダッ”
リカは、ケンイチロウのいる壁際まで走る。
「私が、トドメを───ッ、刺すのですッ!」
「ちょ、リカ!」
俺も、リカを追う。その時、ケンイチロウの不敵な笑みが目に入った。
「───リカ、避けろ!」
ケンイチロウは、格子状に扇を振るう。これを、避けることは可能か。
リカ一人の力では不可能。これは、確実なこと。
「『破壊』!」
”バキバキッ”
俺は、『扇風』で生み出された斬撃を破壊する。
───が、リカを守るにはまだ足りない。
リカの大きさでは、『扇風』の斬撃は当たってしまう。
「『生物変化』!リカ、俺の後ろまで翔べ!」
「ふぇあ...はい!」
俺は、リカを燕に変える。燕となり翼を持ったリカは、俺の後ろに滞空する。
そして、『破壊』で開けた穴を通り抜けた。
”バキバキッ”
壁際に寄せられていた積み荷。そして、壁が破壊される。
「恐ろしい...ですね」
「リカ、そのまま飛んで移動しよう!」
「は、はい!」
俺は、リカと共に飛んでケンイチロウの方へ、移動する。
「『生物変化』、解除!」
リカの生物変化を解除する。リカは、しっかりと地面に着地しケンイチロウの頬を殴った。
「うぐっ!」
ケンイチロウは、避けられない。もう、歳なのだ。
「このまま、攻めるぞ!」
バトラズと、リカがケンイチロウに攻める。それに続け、俺とショウガも攻めていく。
───が、
「この状況を待っていた!」
ケンイチロウが、再度格子状に扇を振るう。
「まず───ッ!」
”キィィン”
「うおっ!」
ショウガと、俺は後ろに退きバトラズは刀で自分自身の身を護る。
リカは───、
「ていっ!」
そのまま、そのままだ。格子状の小さな隙間を自らの身を抱えて、通り抜ける。
「なぁ...」
行動を規制させられた、俺たち3人とは違い、リカは現状維持───それどころか、より加速した。
「くらえぇ!」
リカは、そんなことを言いながら、ケンイチロウを殴る。1発。2発。3発。
逃げないように、両足を『硬化』させてケンイチロウの足を押さえ込んでいる。
「うっ..うっ...」
ケンイチロウのうめき声。そして、振られる扇。
「リカ!」
「───ッ!」
リカは、逃げるのが遅れた。ケンイチロウを抑えていたから。
「───かは」
リカの右肩から、左脇腹にかけて、袈裟斬りされたように、傷ができ血が零れ出る。
「なぁ...耐えた?」
ケンイチロウは驚いている。ケンイチロウは、胴と足が離れ、リカの体が2つに分かれるほどの威力で攻撃していた。
リカは『硬化』で攻撃を相殺したのだ。
大きな刀を筋肉1つで止めるような偉業。本来なら、肉が断たれ骨が破壊されるような所業。それを、『硬化』した筋肉で食い止めたのだ。
「まだ、まだぁ!」
リカは、ケンイチロウを殴るのを止めない。
「そろそろ、迷惑です」
「───ッ!」
リカに再度、『扇風』が当たる。
「───ッ!」
先程の傷を抉るような深い攻撃。リカは、ケンイチロウから足を離してしまう。
「あなたは、これでもう戦えない。あなたも『憑依』を持つ可能性がありますので、殺すのは最後にします」
ケンイチロウは殴られ、少し歪んでしまった頬を擦る。顎骨にヒビは入っているだろう。
「リカ、大丈夫か!」
ショウガが、駆け寄る。
「ショウガ...さん...」
「リカ、無理するな!」
俺とショウガは声をかける。
「ショウガ、リカを端の方に」
「あぁ!わかった」
リカはもう、戦えないだろう。死ぬことはないが、致命傷ではあるだろう。
「リカ、よく頑張ってくれた。ありがとう。リカの思いは、我が繋げる」
「ショウガさん...お願い...します...」
リカとショウガは手を交える。
───まだまだ、最終決戦は続く。




