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第255話 死去 2nd.time

 

 マユミの感情は、絶えず揺れ動いている。

 いや、人間は絶えず心持ちを変えているので揺れ動いていると言えるのだが。


「この戦いにおいて」と前に接続しよう。


 この戦いにおいて、マユミの感情は、絶えず揺れ動いている。


 一喜一憂。一進一退。

 一度いい事があれば、一度悪いことがある。一度悪いことがあれば、一度いい事がある。

 善悪の無限ループ。


 そのマユミの感情はまるで『振動』する波のように変化している。


 この戦いを二字熟語で表すなら「振動』だろう。

 互いが互いに振動しているから。マユミもノノームもヴァルディも何か、どこがを振動させているから。



「ウォーター!」

 音符爆弾を水で囲む。すぐに、爆発し当たりに水が飛ぶも爆発のエネルギーは抑えられている。


寿命(タイムリミット)の5分以内に、ヴァルディを倒す...」

「ロックで壁を作ったほうがいい?」

「いや、水で爆発の衝撃を抑えたほうがいい。そっちの方が移動しやすい」


「わかったわ。ウォーター!ウォーター!ウォーター!」

 マユミは何度も水で覆う。


「ウインド!」

 風を吹かし、辺りの煙を退ける。ノノームの目に、ピアノを弾くヴァルディの姿が入り込んだ。


「見つけたぞ。自分自身の仇討ちをする」

「えぇ、そうしてちょうだい。私は勇気がないから、ノノームのフォローしかできないわ」


 マユミは自分の精神力が人並みであることを自覚していた。

 いや、人並みの精神力で休みなく爆発が行われている激戦地に味方を助けるために入ることができるかと言ったら、できないだろうが。


「ウォーター!ウォーター!ウォーター!ウォーター!」


 ”ドォォン”


 ”ドォォン”


 ”ドォォン”


 ”ドォォン”


 ”ドォォン”


 マユミのウォーターを全て弾き返す音符爆弾。でも、マユミのウォーターも無意味だという訳では全く無かった。マユミのウォーターが、ヴァルディに迫るノノームのダメージを大幅に減らしている。


「ヴァルディ!ここで終わらせる」

「演奏の邪魔をするな」


「───ッ!」

 ノノームの後ろから、音符爆弾が迫る。だが、ノノームをそれを危機ではなく機会だと捉える。

 ピンチではなくチャンスだと捉えた。


「この爆弾でお前ごと殺す!」


 ”ドォォン”


 ノノームの背中は、音符爆弾で攻撃され抉られる。背中の肉が破裂し、辺りに散らばってもノノームは倒れない。既に、もう死んでいるのだ。体の神経はもう機能を停止しているのだ。

 例えるなら、パッショーネを裏切ったブチャラティの身に起こった奇跡のような感じだ。


「残念、僕は『音符爆弾』のダメージを一切受けない」

「なんだとッ!」


「当たり前だろう。僕も、龍人。君と一緒さ」

 ヴァルディは自らを龍人と名乗る。


「僕の名前はヴァルディ=スレイブ。この王城で雇われた正真正銘の龍人さ」

「スレイブの家名...奴隷としてか?」

「はは...まさか。正式に音楽家としてだよ。僕を雇ってくれた前国王の13世は、家名なんかで差別するような人じゃないんだ。そんな差別をするのは、チンケな一般階級の人達だけさ。その、一般階級の輩の方が、スレイブの家名を持つ僕よりも貧しい暮らしをしていると考えると、実に滑稽だと思わない?」


 ヴァルディはそんなことを言いながらピアノを弾く。

「で、貧都にいたノノーム君。君の家名は?」

「フィークルだ」

「ほう、フィークル...フィークル...無名な家名だね。僕の頭に浮かんでこなかった」

「そうか、別に異論はない」


 "ダッ"


 ”ドンッ”


「───ッ!」

 ノノームは、ヴァルディの背中を殴る。ヴァルディは驚いたように前傾姿勢になり、一瞬演奏が止まる。


「ノノーム!ヴァルディをピアノから落として!ウォーター!」

「あぁ、任せろ!」


 ノノームは、ヴァルディの首筋を掴み、ピアノの前に置いてあるピアノから落とした。

「ピアノごと燃やしちゃうわ!ファイヤー!」


 ”ボウッ”


 ヴァルディが弾いていたピアノが燃える。それをノノームは、熱で感じる。

「あぁ!僕のピアノが!僕の生きがいがぁ!よくも、よくもぉ!」

 ヴァルディは、ノノームに向けて火を吹く。


 ───が、ダメージは入らない。


「お前の首をひねりつぶす」


 ”ガシッ”


「ひっ」

 あれだけ煩わしかった爆発音が止む。辺りは煙が充満している。

「それじゃあ、さらばだ」


「───」

「ノノーム、やったのね!」


 マユミはそう、声を上げていく。だんだん、煙が晴れていく。


 ***


 ───強くなれたかな、親父。


 ***


 そこには───


「な...」

 マユミの目に写ったのは、抉れた背中を見せつけるかのように倒れるノノームの姿だった。

「いやぁ...危ない危ない。寿命(タイムリミット)が予想よりも、早かったようだ」

「なぁ...」


 マユミは驚愕の声を出す。ノノームは、死んだ。


『振動』で行っていた心臓の鼓動が、止まったのだ。

 まだ、5分経っていない。ノノームが復活してから4分と38秒しか経っていなかった。


「ノノーム...死んじゃ...」


 ”ドォォン”


 ノノームの心臓が音符爆弾に爆発させられる。


「これで、『振動』で復活も無理だ」


 ノノームの残りの命(secondtime)が尽きた。そして、心臓を爆破された今、生き返る術は無い。


「私...一人なの?」

 マユミは、膝から崩れ落ちる。ノノームの命が尽きるのが、数瞬遅ければ勝てた。


 ───のにも、ノノームは死んでしまった。


「私一人でも...勝てる...かな?」

 マユミは途端に不安になる。魔法杖を大事そうに握る。


「ウインド!」


 ───その時だった。


 マユミの耳に、心地よい低温の聞き慣れた声が入り込んでくる。


「だぁいじょーうぶぅかぁねぇ?」

「マユミ、大丈夫か?」


 助けに来た。カゲユキとホリーネスが。



「カゲユキ!」


 魔法を連発して、体力を消耗したマユミはその場に倒れる。それを、カゲユキが支えた。



「さぁてぇ、こぉんどぉはぁ、こっちぃのぉ番だぁねぇ?」

 ホリーネスはヴァルディを睨む。


 その時、ホリーネスの目にノノームの凄惨な姿が入った。



ノノーム、ここに堕つ。


もう復活しません。断言。

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