第246話 鍛冶職人グルフォン
鍛冶職人。
その職業が、仕事をする場合は2つに分けることができる。
一つは、個人から頼まれ、その仕事を引き受ける場合。
この場合、売れ残りなどという心配をしなくていいし、値段は保証される。
人気になればなるほど、仕事を委託してくれる人は増えるが人気が無くなれば、そこで挫折する人もいるだろう。
もう一つの選択肢。それは、仕事を請け負わずに作りたい時に作る手法だ。
仕事は請け負わないので、武器屋・防具屋などに行って買い取ってもらう必要があるか、貴族などに自ら出向いて商売する必要がある。
それに、値段だって安定しない。
───が、国宝級の鍛冶職人なら話は別だ。
その人の武具を買いたい人はたくさんいるし、飾るだけでも価値は出てくる。
自分の作りたい時に作ることができるのだ。
その後者の選択肢を取った人物がいる。その名も、グルフォン。
グルフォンは、人工精霊グノームの元となった人物の名前だ。
彼の人生は、波乱万丈と呼ぶに相応しいだろう。
おっと、一言断っておきたいがこのグルフォン。おとぎ話になるような偉大な人物だが、現存している。
桃太郎や白雪姫など、空想の物語の人物じゃないのだ。
もちろん、9の世界ではなく別の世界に太古、存在していたのだが人工精霊の話として登場する人物だ。
言い方が悪かったので勘違いして貰わない為に追記しておこう。
読者様達の世界に、グルフォンに相当する人物は存在していない。あくまで、「Dead or chicken」の中だけで存在するキャラクターだと思ってほしい。「現存する」と書いたのでそれの訂正のようなものだ。
さて、そのグルフォンの波乱万丈な人生を書くには、彼が生まれてから死ぬまでの76年間を取り上げる必要がある。そして、その全てを語るには76年もの時間が、いや誇張するのであればそれ以上の時間が必要であるだろう。
だが、今回は誇張なしに要約して語ろうと思う。
***
どこかの世界。昔。
グルフォンは、一つの家庭に生まれた。
それは、何の変哲もない農家の家だ。いや、この時代に兼業農家なるものは珍しかったので、「変哲もない」という言葉はおかしいだろうか。
言い直そう。
グルフォンは、一つの家庭に生まれた。
それは、少しおかしな商売方法をした農家の家だ。
そう、両親は農家と、鍛冶職人を兼業で行っていたのだ。
日が昇る前から、田畑を耕し、暗くなってくると鍛冶職人として斧を作った。
そんな仕事熱心な両親から、グルフォンは生き方を学んだ。
賢い金の稼ぎ方を学んだ。
そして、時間を飛ばす。
16年。グルフォンが生まれて16年が経った。
「父さん、母さん。今までありがとうございました」
グルフォンは両親に、丁寧に感謝の言葉を伝える。両親は涙を流していた。
「辛くなったらいつでも帰ってくるんだよ」
「風邪、引くなよ」
「はい」
グルフォンは両親の前で一礼する。そして、どこかへ向かって歩んでゆく。
どこか。鍛冶職人の師匠のところだ。
もちろん、両親から学べばよかった。でも、技量が足りないのだ。
鍛冶職人一筋で食っていくには、両親には技量が足りなかったのだ。
だから、グルフォンは師匠に弟子入りした。そして、16になった今日から住み込みで仕事を習うのだ。
またまた、時間を飛ばす。
グルフォンが生まれて16歳経った時から、16年が経った。
要するに、グルフォンは32歳。
「師匠、兄弟子。今までありがとうございました」
グルフォンは、師匠や兄弟子に、丁寧に感謝の言葉を伝える。兄弟子は、涙を流していた。
「グルフォン弟!これから、頑張るんだよ!」
「見てるからな」
「はい」
グルフォンは師匠と兄弟子の前で一礼する。そして、どこかへ向かって歩いていく。
どこか。自分の金で買った、鍛冶職人として働く場だ。鍛冶場と言えば、いいだろうか。
そこで、グルフォンは最初に3本の斧を作った。
名は、毘沙門天。恵比寿。大黒天。
この3本。それを、競りに売りに出した。
最初は1本。
最初の1本は50万ボンで売れた。
恵比寿が売れたのだ。
そして、その性能の良さが世間一般に広まる。
その後、2本も競りに出した。それが、とんでもない値段で売れたのだ。
大黒天。は約3億ボン。毘沙門天は19億ボン。
有りえない値段。競りとして有りえない値段だった。
まだ、プロと呼べる鍛冶職人になって一年も経ってない人物の作品が19億もの値段で売れるということが。
そして、グルフォンは名を馳せるようになり、「斧を作ってくれ」「防具を作ってくれ」などという依頼をだす人が多かった。もちろん、全部断られた。
───が、一つ。一つだけ依頼を委託したことがある。
とある男の依頼だった。その価格900億ボン。
貴族であるその男は、900億ボンで斧の制作を依頼した。
値段のインフレが起きたのは、この貴族であるせいだ。
900億ボンで作られたのは弁財天。
そして、他の3本も好きな時に作られ、競りで売られた。
福禄寿は、3000億ボン。
寿老人は、4500億ボン。
そして、布袋は、7000億ボンで売買された。
何年経ったか、グルフォンのところに王族がやってきて、「城で雇われないか?」と勧誘された。
自分の好きなように仕事がしたいグルフォンは、それを断った。
ここから、おとぎ話と同じ流れである。
グルフォンと同じ質の斧を作れる人工精霊が生まれ、グルフォンは不必要な存在になった。
が、グルフォンは斧を作らなくても他でできた売上だけで一生裕福に暮らせていたのである。
***
これが、グルフォンの全てである。
グノームは何千本も、斧を作っていてその価値は低い。
だが、グルフォンが作った斧は伝説として崇められている。
ボドロが言う8本目の斧。
それも、価値が低いものと同じ仲間だ。だが、そのことをボドロは知らない。
***
「おいおい、ビビっちまったのかぁ?お多福によぉ!」
ボドロは吠える。
───が、ブルムンドとシンドークは手に持つ斧など関係ないと言うばかりに刀を構えた。




