第229話 ピューマ
村を抜けると、そこは湿地帯だった。
”タッ”
”タッ”
水というよりかは、泥に近く一度ハマると抜け出すのに苦労しそうだ。
だから、クレハは浮き藻の上を上手に移動していった。
「アアアアアア...」
地面から、体中泥に塗れた生物が現れる。本来は、田んぼにいるはずだが、泥田坊は湿地帯にいた。
「ふん、滑稽だな」
足を掴もうとしてくる泥田坊は華麗に斬り伏せる。だが、クレハは泥も返り血も付けずにその場を切り抜けた。
「こんなの、敵にもならない」
クレハは、湿地帯を抜けて、サバンナに入っていった。
***
「僕達もそろそろ出発しようぜ?」
「そうしますか...」
「でも...でも...」
メソメソと、まだリカとユウヤは泣いている。
「死んじゃったんですよ!トモキさんとカミールさんとリンザルさんが!」
「ずっと、仲良くしていくはずだったのに...」
「ラシューさん、ユウヤを背負ってください」
「わかりました」
タンドンは、リカを背負う。
「行くぞ、王城に。みんな待ってるんだから」
「でも...3人が...」
「逆だ。3人死んだって考えるな。13人生きていたって考えればいいだろ?」
「そう...ですね...」
リカはタンドンの首筋に顔を押し当てた。リカの無い胸が、タンドンに当たる。
「これ以上、犠牲を増やしたくないなら、俺らが頑張るしかないよな...」
ユウヤは涙を拭いて、そう呟いた。
リカ・ユウヤ・タンドン・ラシューの4人───秋都組は秋都の方向から王城へ向かう。
***
”ダッ”
クレハは今、ピューマに追われている。
「持久性があるのか...厄介だな...」
ピューマは敏捷で瞬発力に優れている。一節の記録によると、高さ4 m、幅12 mほどの跳躍したとも言われている。爪で中型の動物を殺して、食う。そんな生活をピューマは送っていた。
”ダッ”
クレハが空中にジャンプする。着地地点に、ピューマがやってくる。
「賢いな...でも、エルフ様には勝てんぞ」
”ジョキィィン”
クレハは、ピューマの首を斬り落とす。ピューマは単独行動が基本なので、他に仲間はいなかった。
「そろそろサバンナも終わりか...」
クレハは、そんなことを呟いた。向かい風からは、小さな砂が混じっていた。
「砂漠かな...」
砂漠か砂丘かは、やはり4の世界と同様に、断定はできない。
カゲユキの言葉を引用すれば「砂漠は土地で、砂丘は地形だ」
***
「ふむふむ、ふーむふむふむふむ」
「どうよ、ホルちゃん」
ホルちゃんと呼ばれる男───ホルスは、髭の生えた顎に手を当てている。
「もーすぐ、来ーるんだって。クーレハが」
「そうか、クレちゃんが来るのか」
「戦いになるんだっぺかぁ?オラも戦えるんだっぺかぁ?」
「ふん、くだらん」
「あーぁ、戦ーいだよ?」
「オラ、頑張るだっぺぇ!」
「アテちゃん、頑張って!」
ラー・アメン・ホルス・アテンの4人は立ち上がる。この4人は、創造神アヌビスを守る4柱の守護者だ。
***
クレハは砂漠を歩く。砂漠か砂丘か断定はできないが、便宜上砂漠と呼ぶことにした。
クレハは走る。もう、和風の城は目と鼻の先だった。
「───ッ!」
クレハは回転しながら、地面スレスレで剣を振るう。
「危ない危ない...」
そこにいたのは、何十匹ものサソリ。砂に紛れて近付いてきていたのだ。
このサソリの正式名称は、アナサソリ。砂漠の地下に大量の道を作り、そこを移動して生活している。
道は広く、そこに何千匹も、アナサソリがいると言われていて、異名では『砂漠の蟻』と呼ばれている。
アナサソリは、何kmも伸びる巨大なサンドワームだって殺して食料にしてしまうだとかなんとか。
「こんなところで死んでたまるか」
クレハは水を飲む。サバンナで先程汲んできて即興で除菌したものだった。全てではないが、少なくとも体に害するような菌は除菌できている。
”ザシュッ”
「───ッ!」
クレハの腹に剣が刺さった。誰の、剣だ。
『チーム一鶴』の16人の中で危機察知能力は1・2を争うクレハ。視覚だけでなく、聴覚・嗅覚・触覚・味覚・そして、第六感。第七感。第八感でも認識されなかった。
「ふん、くだらん」
剣は、背中から抜かれる。そこにいたのは、一人の男。顔に特徴は無く、一時間ほど経てば忘れてしまいそうな、クラスメート全員の名前を言う時、必ず最後に出てくる、脳の片隅にも情報が残らなさそうな顔をした、体をした男がいた。
「『元に戻る!』」
10秒時間が巻き戻る。刺される前だ。
「な...どこから...」
クレハは、自分が攻撃されたことが理解できなかった。周りを探るも、どこにもいないのだ。
360°周りを見ても、上を見ても下を見ても。自分の衣服の中を見ても、いない。
クレハが生まれてから36年間培ってきた感覚。それら、全てが使い物になっていないのだ。
クレハは辺りを確認して、何もいないことを確認し、すぐに思考を変えた。そして、3つの仮説をすぐに立てた。
遠距離からの瞬間移動という説。能力で透明になっていたという説。そして、クレハの感覚を使い物にならなくさせる能力を持つ敵という説。




