第202話 『死栄の手』
「人を煽る一時は楽しいが、その後必ず後悔する。そのツケが回ってきたようだな」
クレハは、ネビロスを睨む。
「私はお前を...許さない...」
「あぁ、俺もふざけてられなくなったよ...お前らが俺の股間を斬ったからなぁ!」
ネビロスの『死栄の手』が、こちらに迫ってくる。
「お前のその手は見切った」
クレハは、『死栄の手』を剣で軽く受け流した。剣で受け流せるということは、存在するのだ。
「存在するってわかったなら、俺も攻撃ができる!」
「そぉうだぁねぇ?」
ホリーネスは自分の血が小瓶を両手に持つ。
「えぇい」
「『破壊』!」
”バキバキッ”
”ドォォン”
『死栄の手』が、落ちる。地面に。9層の床に、落ちたのだ。
「───ッ!」
その瞬間だった。俺の足に痺れがやってくる。
「あぁ!」
この足の痺れで、地に立っているカゲユキ・ホリーネス・クレハは動けない。だが、俺は別だ。俺は、宙に浮いているのだ。なので、痺れなんか関係ない。
「『破壊』!!!」
”バキバキッ”
「───ッ!」
ネビロスの腹を、破壊する。
「クソ...よくもやりやがったな...」
ネビロスの腹には破壊痕ができ、血が流れ出ている。貫通しているわけでも、内臓がこぼれ落ちるわけでもないが、攻撃が効いたのは大きな進歩だ。何せ、ネビロスは魔神であり創者ではない。回復するわけではないのだ。
「だが、こんなの効かな───」
ネビロスに、突如ホリーネスが迫る。ホリーネスの手には、しっかりと短剣が握られていた。
「近接攻撃かッ!」
ネビロスの腕が、ホリーネスに伸びる。
”ブスッ”
「勝ちだな」
ネビロスの腕は、ホリーネスの腹に刺さる。ネビロスの手刀が刺さったのだ。
そして、ネビロスは手刀を抜く。すると、血しぶきが舞った。
ホリーネスも、貫通も内臓が零れ出ることもしていない。だけど、そこから血がポタポタと垂れている。
「あぁ...いぃたぁいねぇ?」
ホリーネスはニヤリと笑う。どこか、その痛みを愉悦と捉えているような感じがする。
「貴様みたいな吸血鬼が、この俺に勝てる訳がねぇ!」
ネビロスは、ホリーネスの血が付いた手で、前髪をかきあげた。
「残念だったな、お前ら?」
「残念なのは...お前の方だ」
「そぉうーだぁよぉ?」
腹を抑えながら、ホリーネスは立ち上がる。
「あぁ?怪我したお前が偉そうに───」
”ドォォン”
その時、ネビロスの前髪が吹き飛ぶ。
「なっ...爆発!」
「どぉしぃたぁのぉかぁねぇ?」
この時だった。ネビロスが、自分の愚かさに気付いたのは。
「体中に、こいつの血が...まずい!爆発される!」
ネビロスは『死栄の手』を動かそうとする。
───が、
”ジョギィィン”
「───ッ!」
「使わせてたまるか。こんなチート能力を」
クレハは、『死栄の手』を輪切りにする。
「がぁぁ!クソッ!」
”ドォォン”
「『四苦八苦』!」
「───ッ!」
ホリーネスが傷口を抑える。
「これで───」
「残念。俺をノーマークだったみたいだな」
「───ッ!」
”ザッ”
カゲユキの攻撃で、ネビロスは背中から短剣を刺される。カゲユキは、後ろに回っていたのだ。
「がぁはっ!」
「強者は服を着ないと言っていたな...お前、もっと厚着を来たほうがいいんじゃないか?俺の服でも、貸してやろうか?ほら、まずは靴でも履け」
カゲユキは、自分の履いていた靴を、ネビロスの腹の中に突っ込む。
「お前!よくも...俺は魔神だぞ!」
「魔神だろうと、弱ければ俺らの敵じゃない。虎の威を借る狐。魔神の名を借るカス。お前は、弱者だ」
「なっ...なんだとぉ!」
「───ッ!」
「生物変化!」
ネビロスが『死栄の手』を動かそうとしていた。狙いはもちろんカゲユキ。クレハを無視して、一直線に『死栄の手』はカゲユキに突っ込んでいた。
だから、俺はカゲユキを猫に変えた。
”シュタッ”
猫になったカゲユキは、ジャンプする。バレリーナのような可憐な動きで。だが、虎のように眈眈とネビロスを狙って。
「生物変化!」
カゲユキは、次に熊になる。そのまま、ネビロスに襲いかかる。
「う、うわぁぁ!」
ネビロスはそんなダサい悲鳴をあげた。
「リューガ!」
「あぁ、カゲユキ!任せろ!『破壊』!」
”バキバキッ”
「ごふっ...」
ネビロスは血を吹いて倒れる。心臓を破壊したのだ。
「お前には、デジャヴだけで十分だ」
同じだ。8の世界でトルボットを倒した時と、同じ倒し方だった。
「ざまーみろ。抵抗...するぜ」
「───ッ!」
その時だった。ネビロスの体から大量の『死栄の手』が出てくる。
そうだ。ネビロスは1本しか『死栄の手』を出していなかったから盲点だった。
何故、複数本出せることを考えなかったのか。
「『憑依』を使って...一緒に死のうぜ...」
「───ッ!」
俺は『死栄の手』に触れてしまう。そのまま、意識は遮断され───
《Dead or chicken?》
「チキ...ン」
少し自信がなかった。復活したら、どうなるのか。
俺は、ネビロスの体に乗り移っていた。
そして、痛みが体を襲う。熱さではなく、明確な痛み。そして、死への恐怖心が煽られる。
「あぁぁ!俺...どうすればいいんだよ!」
俺はその場でもがく。『憑依』で乗り移っても傷は治らない。治るはずがない。
だから、俺の体はボロボロだ。回復する術もないし、ホリーネスによっていくつも爆発されている。
新しい体を用意することは───
できる。できるのだ。
「遠隔視烏!」
その瞬間、俺の口の中から烏が出てくる。
「俺の体を、食わせる!」
烏は、俺の体をついばむ。すると───
《Dead or chicken?》
「チキンだ!」
俺の意識は、遠隔視烏へと移動する。
体に傷はない。もう、痛くはない。
「ふぅ...これで一先ず安心かな?」
俺は、烏から鶏の姿に戻る。ネビロスの姿と遠隔視烏の姿にはなれる。
これで、空を羽ばたくことができるようになった。と、言っても5日間ほどだけだが。
「リューガ...大丈夫か?」
「あぁ、大丈夫だ」
「ネビロスは...死んだな...」
俺は気付く。ネビロスは、手加減をしていた事に。きっと、俺らのことをナメていたのだろう。だって、『死栄の手』を10本なんて出されたら、すぐ囲まれて死んでしまう。
「傲慢は怠慢だな」
カゲユキはそう呟く。その後、こう付け加える。
「そして、怠慢は傲慢だ」
さて、季都全て10層まで攻略完了。
ネビロスは強い(小並感)




