第179話 フーハク
「『風神』!」
”ビュウゥゥ”
ショウガ達4人は風で押される。ショウガは薄目を開いて前を見る。
「ウィンドガン!」
フーハクの声が響く。ブルムンドはその瞬間、刀を振った。
「手応えはないですね...所詮は風ですか」
「おい老害!何を斬ったんだ?」
「風の弾ですよ。フーハクが放った」
「そんなの、このシンドークには見えなかったぞ?」
「周りに風が吹いていたので、見えないのは当たり前です...」
「じゃあ、なんでブルムンドさんは斬れたんだ?」
シンドークの代わりに、リンザルが質問する。
「それは...経験ですかね?」
ブルムンドは真顔でそう答える。
「はは...常人には理解できないらしい」
リンザルはそう言うと、ショウガに近付く。
「ショウガに風の弾が飛んできても、僕が守ってあげるからね?」
「我は『柔軟』で避けれるから大丈夫だ!」
「そんなぁ...もう7層だよぉ?少しはカッコいいところ見せたいんだよぉ!」
「でも、我は自分で守れるし...」
「痴話喧嘩は他所でやってください!ウィンドエクスプロージョン!」
「───ッ!」
リンザルが、ショウガを押し倒す。そのまま、リンザルも伏せる。
”ドンッ”
「大丈夫かい?ショウガ!」
リンザルとショウガの頭の上で、風の爆弾が爆発した。
「あぁ...大丈夫だ...ありがとな、リンザル...」
「助けるなんて当たり前だろう?だって、ショウガは僕の嫁になるんだから!」
「いいところを見せたら...」
「今のはいいところじゃないの?」
「ちぃ!油断してると思ったのになぁ...」
「もう少し速い風を解き放てばいいのでは?」
「───ッ!」
ブルムンドは、フーハクの喉に傷を入れる。
「声帯に傷を付けました。これで、魔法は使えまい」
”ビュウゥゥ”
風が吹いたので、ブルムンドは後ろに下がる。
「『風神』の発動の条件は声に出すことじゃないんですね...」
「おい老害!しっかりしろ!今なら首ぐらい余裕で斬れただろ!」
「はい、すいません。お嬢様」
ブルムンドは、シンドークに小突かれる。
「よぐも...わだぢの喉を傷つげでぐれだわね!」
口の中に残った血を吐きながら、フーハクは会話を始める。もう、声帯も治っていた。
「お嬢様に言われた通り、次はしっかりと首を斬りますよ」
「もう、老害のお前に仕事はない!このシンドークが終わらせる!」
「だそうです」
ブルムンドは剣を鞘へしまう。その代わり、シンドークが剣を抜いた。
「マジョオンナめ!このシンドークが殺してやる!喜べ!」
「マジョオンナってなんですか?魔女様と比べられるほど、私は優れていません!」
「貴様の優劣なんて関係ねぇ!このシンドークに比べれば、貴様も魔女もどんぐりの背比べだ!四捨五入すれば、両方同じ値だ!」
”ザッ”
シンドークの踏み込む音がする。そして、フーハクに近付く。
「ウィンドカッター!」
「柔い!」
”ジョキィィン”
シンドークは剣でウィンドカッターを相殺した後、すぐにフーハクの首を斬る。
「なぁ!よくもぉ!」
フーハクの首は、胴体とくっつこうとしている。
「貴様も魔女も同じ位だな!魔女と勝負したことはないが、きっと愚に慕われる主も愚なのだろう!」
「魔女様を...バカにしないでください!」
”ビュウゥゥ”
「───ッ!」
シンドークが後ろに飛ばされる。もちろん、足は踏ん張っている。だが、耐えきれないのだ。
「貴様!まだこんなに力を!」
「えぇ!持っているわよ!『風神』の力があんなショボい訳ないでしょう?」
「へぇ...面白い!いいじゃないか!このシンドークに倒されるに値する!褒めて遣わす!」
「あんたに褒められたって嬉しくないわよ!」
シンドークはフーハクにジリジリと近付く。
「この強風の中、あんたは自分を守れるかな?ウィンドカッター!」
”キキーーッ”
シンドークの剣と、ウィンドカッターが力を相殺しあい、火花を散らしている。
「くっ!」
シンドークは剣を持って耐える。だが、少しずつ後ろに追いやられていた。
「もう一回!ウィンドカッター!」
まだ、最初に撃たれたウィンドカッターも相殺しきれてないのにも関わらず、2個目のウィンドカッターがやってくる。
「───ッ!」
その瞬間、シンドークの腰辺りに何か固い物が当たる。
「お嬢様!耐えてください。後ろで支えます故」
「老害!手助けなど要らぬ!お前の仕事はないと言っただろ!」
「これは仕事じゃありません。ボランティアですよ。お嬢様を助けるボランティア。先程のは、お嬢様達と戦う仕事。これとそれとは別です」
「ちっ!屁理屈が!」
「2人の動きは封じ込めた!残りの痴話喧嘩野郎共を殺す!」
「おいおい、フーハク。口が悪くなってるよ?第一印象は、もっと丁寧な人だったんだけど...」
リンザルが、そう軽口を叩く。
「うるさい!今は魔女様を馬鹿にされて怒っている!この怒りをどうしてくれよう!ウィンドカッター!」
「おっと」
リンザルは剣でウィンドカッターを止める。だが、威力は止められず、壁にぶつかる。
「さぁ!その首を削いであげよう!」
「おっと、僕は囮さ。ショウガ!」
「あぁ!いい活躍だ!リンザル!結婚も考えてやらなくもない!」
フーハクの後ろから声がする。そこには、薄っぺらい式神がいた。動物の姿さえもしていない式神。
「まずっ!」
何かを察したのか、フーハクはつむじを隠す。だが、それが間違いだった。
「ショウガ!急所はつむじだ!」
「オッケー、リンザル!」
『飛閃軟突流 指突』
”ザシュッ”
「───ッ!」
式神諸共、ショウガはフーハクのつむじを刀で突く。その刀はフーハクの脳味噌をかき混ぜた。
ショウガは、いたのだ。式神の後ろに。
「うぐっ...うっ...」
フーハクは、ショウガの刀に突き刺さったまま、地面に膝をつく。
「さて、一件落着だね」
「魔女様は...負けません...能力が...4つ...あろ...うと...」
フーハクがそう言うと、リンザルはフーハクの首を斬る。フーハクは塵となって消えていった。
そして、ショウガはこう語る。
「能力が4つで足りなければ、5つに能力を増やすだろうよ!それが、リューガって奴だ!」




