第170話 ショウガの『柔軟』リカの『硬化』
「はーはっはっはー!我に急所なんてない!」
J.J.は仁王立ちで立っている。胸はないが、股間に棒もない。男に見えることもあれば女に見えることもある。でも、男女どちらでもない生物にJ.J.はなっている。
「文字通りの{第三の性}という訳か...」
カゲユキはそんなことを呟く。
「まぁ、急所を見つけて攻撃することに変わりはない」
「そぉうだぁねぇ?」
ホリーネスは、J.J.に向かって短剣を投げる。その装飾が施された短剣は、J.J.の首筋目掛けて飛んでいく。
「甘い!我にそんな攻撃通用するか!」
J.J.の首にポッカリと穴が開く。
「そぉんなぁのー、わぁかぁってぇーまぁすぅよぉ?」
パチンと、ホリーネスは指を鳴らす。
”ボンッ”
「───ッ!」
その短剣には、ホリーネスの血が付いていた。それを爆発させたのだ。J.J.の首は爛れる。
「なぁ!首の角度がおかしい!」
J.J.は胴体と頭を装着する。
「首は急所じゃないようだな」
「えぇ、そぉうだぁねぇ?」
ホリーネスとクレハは声色を変えずに会話をする。
「どこを狙うとするか...」
「迷ってる時間があるなら、我も攻撃するわ!」
J.J.がカゲユキの方に向かって走っていく。J.J.の拳をカゲユキは止めようとするが───
「まずっ!」
”ザッ”
”キィィン”
クレハがカゲユキとJ.J.の間に入り込む。そして、剣でJ.J.の拳を止めた。
「『硬化』が...使えるのか?」
「なんだそれは?我はそんなこと使えないぞ?」
J.J.の拳は固くなっていた。大腿骨が表面に出ていたのだ。ここまで体を変化することができている。
「ショウガの『柔軟』のように剣戟をかわし、リカの『硬化』のように体を硬くして殴る...か...」
「恐ろしいな...3の世界での道場はなんだったんだよ...」
俺は微笑する。
「さぁ、勝負しようじゃないか!我が相手をしてやる!」
「あぁ、最初からそのつもりだ!」
クレハが、一気に間合いをつめる。そして、剣を振るう。
「───ッ!」
クレハはJ.J.の右肩から左脇腹のラインを斬る。袈裟斬り。だが、体に剣一つがギリギリで通るような穴を空け、見事に攻撃を避けた。
「接近戦にはご注意を!」
「───ッ!」
クレハの腹部に、J.J.の硬くなった拳───正確には大腿骨が出ているだけだが。骨が当たる。クレハは少しよろけたがまたすぐに剣を構えた。
「次はどこからくる?我は全て避けきってやる!」
「宣言する。私は右脇腹を攻撃する!」
「そうか、やってみろ!」
「あぁ!」
クレハが再度J.J.に近付く。その時だ。
「サンダー!」
カゲユキが魔法を詠唱する。J.J.に雷は直撃する。
「これなら!」
「まだまだだ!」
「残念だったな!『破壊』!」
俺は雷が落ち、できた一瞬の隙を見逃さなかった。クレハとは反対側の左脇腹を破壊する。
「クソッ...中々やるな...」
J.J.の体は補修されていく。先程の攻撃も全て無意味だ。
「急所は...どこだ?」
「言うわけ無いだろう?」
「まぁ...そうだろうな...」
「じゃあ、わぁたぁしぃのぉばーんだぁねぇ?」
唐突にホリーネスはJ.J.の方向へ何本もの短剣を投げる。こんなに持ち歩いていたのか。
「爆発したらまずいぞ!」
J.J.は咄嗟に機転を利かせる。自分の四肢を伸ばし、自分の体を守る壁にした。
「うぐっ!」
”ドォォン”
短剣に付いた血は爆発する。
「あぁ!手と足がぁぁ!」
J.J.は四肢を焼き切られ叫んでいる。だが、すぐに復活した。
「四肢も急所じゃないのか...」
「残ってるのは顔のパーツか?」
「そうだな」
クレハは剣を構える。そして、空中にジャンプする。軽やかなその飛翔で、J.J.の頭の上まで移動した。
「守らせないよ」
クレハは突いた。顔を。穴を空けても避けられないその攻撃を、J.J.は顔面に食らう。
「うぐっ!」
J.J.の鼻や両目・口や耳は全て破壊される。ショウガの顔と似ているから少し見ていて苦しい。
「なっ!」
J.J.の顔は元のショウガに似た物に戻っている。ここも、急所じゃなかった。
「どこだ...どこなんだ...」
クレハは一度、J.J.と距離を取る。
「我ってラッキー!」
そう言いながら、嬉しそうにJ.J.は笑っている。
「もしや...へそか?」
カゲユキが唐突にそんな仮説を立てる。俺は思わず聞き返してしまう。
「へそ?」
「あぁ、へそならまだ攻撃しえないかもしれない。あんなに小さな場所を攻撃できるとは思わないからな」
「なっ!なんで我の急所がバレたんだ?」
J.J.はわかりやすいほどに焦っている。
「へそだとわかったなら簡単だな...」
「そぉうだぁねぇ?」
クレハとホリーネスはJ.J.に詰め寄る。
「最終手段だ!えぇい!」
J.J.の体は変化する。四肢や顔が伸びていき、体も段々赤くなっていく。
「なっ...これは!」
「この生物は...見たことがある!」
「宇宙人だ...」
クレハが真面目な顔でふざけた事を言う。
「「いやいや、これはタコだろ」」
俺とカゲユキは思わず異口同音にツッコんでしまった。
「我の最終形態だ!これで終わりにしようじゃないか!」
そこには、体長3mはゆうに超えるタコの姿があった。今度は、ショウガに似た顔じゃない。よかった。




