第168話 砂糖
「このタイミングなら...でも!」
ブルムンドは攻撃するタイミングを見つける。だが、それは捨て身だ。少なくとも人間のこの体は爆発に巻き込まれれば確実に死ぬだろう。
「リンザルさん。少し、手を借りても?」
「あぁ、ブルムンドさん。いいよ。何をすればいいかな?」
「えっとですね...」
ブルムンドとリンザルは少し話し合う。
一方、シンドークは仁王立ちでまたも爆風を凌ぐ。
「このシンドークにそんな爆発など効かぬ!お前らは無能だな!」
「なんだと?」
「そんな訳ないだろう!」
「「何故なら、俺らはNaClC12H22O11ブラザーズなのだから!」」
「相変わらず長い名前だな...」
ショウガがシンドークの隣にまで移動する。
「ショウガか、お前はこのシンドークと違って爆風に耐えられないチンケな体なんだから、前方に来てはいけないだろう?」
「爆発には耐えられないが...『柔軟』はある!」
「それで爆発に耐えられないなら、結局は無能に同義よ!下がってな!このシンドーク、今は虫の居所が悪い!仲間討ちなんてこともあるかもしれん!」
「その心配ができてるなら、大丈夫だと思うけどな」
「2人共、ブルムンドさんから伝言さ」
リンザルが2人の隣にやってきて、ブルムンドからの伝言を話す。
「ほう、そいつは面白い」
「まずは、レイシオの攻撃は砂糖が無ければ行われないから、砂糖を生み出すイッサトから狙うんだな?」
「あぁ、そのようだよ」
イッサトは左目に眼帯をしている。そして、レイシオは右目に眼帯をしている。
イッサトは砂糖を生み出し、レイシオは砂糖に触れると爆発が起こる泡を出す。
なら、イッサトを殺してしまえばレイシオは脅威ではなくなる。
「その作戦、ブルムンドが考えたのか...流石は元王族騎士団団長ということだな?」
ブルムンドは皆から離れて、ただ一人棒立ちしている。だが、その目はレイシオとイッサトを捉えていた。
「このシンドークも協力しようじゃないか!」
そう言いながら、シンドークは剣を抜き、イッサトの方へ斬りにかかる。
「シュガー!」
また、砂糖の壁が出来る。シンドークは、その壁を蹴って後ろに下がった。
「ソルト!」
”ドォォォォン”
3度目の爆発。ブルムンドは、その瞬間にイッサトの方へ走り出した。
壁が作られてからブルムンド達はイッサト達を視認できていない。なら、反対にイッサト達もブルムンド達のことを視認できていないということだ。
それに、爆発する時に特攻してくるだなんてイッサト達も思わないだろう。
「不覚だったな。イッサト」
”ザッ”
「───ッ!」
ブルムンドは、イッサトの体を斬り刻む。
「な...何故、あの爆発の中を...」
そう発言した後に、気付く。ブルムンドの体には、ボロボロになった巨大な鷲の式神がひっついていた。
「式神で、自分の体を守った...だと?爆発の中に突っ込むなんて強靭な精神力がないとできない...それどころか、イッサトのことを斬ってしまうなんて...」
イッサトは塵となって消えていく。
「ブルムンド!おい、これは!」
「どういうことだ...死んだはずじゃないのか?」
爆発で起こった煙が次第に消えていく。それで、ブルムンドとレイシオが見たのは───
部屋を埋め尽くすほどにある大量の砂糖だった。
「こ...これほどの量の砂糖を...遺しただと?」
***
能力には、特殊な形質を持つものも存在する。
本来なら、能力はその能力主が死ねば消える。
だが、特殊な形質では、能力主の死後も、能力は残り続けましては、死後その能力を強化してしまうことがある。
レイシオのシュガーも死ぬ時に、大量の砂糖を遺して死んでいったし、シルバードのグラフィティだって、ベトベトンを遺して死んだ。
「はは...残念だったな!遺してくれた!託してくれた!イッサトは俺に勝利を遺してくれた!」
イッサトは一人で笑っている。イッサトが遺してくれた大量の砂糖を前にして笑っている。
「さぁ、どうする?お前らはどうする?死にたいか?死にたくないよな?なら、命乞いをしろよ!さぁ、女の2人は全裸になって、股を広げて命乞いをしろよ!」
レイシオは、砂糖を持ちながらショウガに近づく。
「ほら、体にかけてやるよ?」
レイシオはショウガの体に砂糖をかける。そして、ショウガの体を舐めるように見回す。
「へぇ、いいね...」
「やめ───」
「抵抗したらドカンだよ?」
レイシオはショウガの首筋を舐める。
「ほら、早く脱げよ!早くしろよ!爆発させるぞ!」
「ショウガ!」
「大丈夫だ、我がみんなを助けてやる」
「駄目だ、ショウガ!そんなこと───」
「うるさいなぁ、君?ショウガを爆発させるよ?」
「う...」
リンザルは黙る。
「ほら、まずは上から脱いでもらおうかな?」
「わ...わかった...」
ショウガはホックに手をかける。背中をいじっている。レイシオは、ショウガの目の前で鼻を伸ばして立っている。
「ほら、早く早く!」
「あぁ、今、外れたから」
『飛閃軟突流 背反〜対〜』
ショウガが、黒ビキニのブラのようなものを外した瞬間に、胸の間から、刀が飛び出て、レイシオの目に直撃する。
「ご苦労だった!」
”ザッ”
ブルムンドが、レイシオを斬り刻む。体中をバラバラにされて、レイシオは塵となって消えていった。
「あの、変態野郎が」
「大丈夫だったかい?ショウガ?」
リンザルはショウガを後ろから抱く。
「ちょ、リンザル...って、我の服を盗るな!返せ!」
そんなこんなで、春都も6層までは攻略完了だ。
レイシオは、イッサトがいたからこそ暴走してなかった。弟であるイッサトを大事にしていたから。
ワンとは正反対。色んな意味でね。
 




