第17話 「死ね」
俺たちはすぐに最初の村に着いた。そこには血なまぐさい匂いが広がっていた。
「お前らもすぐに逃げろ!殺人ピエロに殺されるぞ!」
村人の一人が俺たちに話しかける。その瞬間、その村人の体中にナイフが刺さる。
「私の客人を盗らないでくだいよぉ?すいませんねぇ?客人さん?」
もう二度と見たくなかった顔が空に浮いている。それは俺らを見つけてニンマリと笑った。憎悪がする。
「おい!村人を殺すな!」
ショウガがキュラスシタに文句を言う。そんなことを言ってもやめるはずがない。キュラスシタに憎悪がする。
「嫌ですねぇ?だって楽しいことはずっとしたいじゃないですかぁ?」
話すな。気持ち悪い声で。口調で。リズムで。殺したいほど憎い。あいつを殺すことでこの村では英雄として仕立て上げられるだろう。だが、そんなことはどうでもいい。英雄として祀ってほしいわけじゃない。俺はただただキュラスシタを殺したいのだ。非力な村人を。無実な村人を。ひ弱な村人を虐殺するようなあいつを殺したいだけなのだ。殺したい。殺したい。死んでほしい。死んでほしい。頼むから死んでくれ。
「死ね」
俺は呟いた。怒りに任せて。
「おい!リューガ!すげぇなお前!」
「すごいです!ひよこなのに!」
俺はそう言われて周りを見渡す。俺は飛んでいた。ひよこなのに飛んでいた。何故だ。まぁ、そんなことはどうでもいい。今はキュラスシタを殺す。それだけだ。左羽の怪我はショウガが応急処置をしてくれた。
俺は飛ぶ。だが、羽は全く動かしていない。浮く。と言ったほうが正しいのだろうか?
「おぉ!チキンが空を飛んでいます!世の中の皮肉にでも目覚めたのですかねぇ?」
キュラスシタはこちらを向いて笑う。見せるなその面を。一生土だけを見ていろ。お前のような人間は。
「死ね」
俺は呟く。
「死ね」
また呟く。
「死ね」
「死ね」
「死ね」
「死ね」
「死ね」
「死ね」
「死ね」
「死ね」
「死ね」
「死ね」
「死ね」
「死ね」
何度も何度も呟く。断続的に呟く。理性なんてものはいらない。この怒りさえあればキュラスシタを倒せる。
「俺は皮肉なんか言わねぇ!言いたいことははっきりと言う!死ね!」
「そうですかぁ?語彙力低下している人に私、随分嫌われたみたいですねぇ?」
「嫌われただぁ?そんな甘っちょろい言葉で足りると思ってるのかよ?自分を知らないな!メイクばっかりしてるのに、おかしいなぁ?メイクする人って鏡を見てするんじゃないのかい?」
「鏡なんか見なくても自分の顔くらい覚えてますよ?1000年はこの顔と仲良くしてるのですからね?」
「お前は...なんの種族だ?」
「私ですかぁ?教えてあげましょう!私はぁ、吸血鬼ですねぇ!」
だからか。だから太陽も灰色のこの世界にいるのか。今理解することができた。
「私は、月光徒のメンバーです!別に偉い訳ではないのですがねぇ?」
「なっ...月光徒だと?」
地上でショウガが反応している。そんなことより今はキュラスシタを殺す。憎い。
「私が300歳のころでしょうかねぇ?月光徒に入ったのはぁ?」
キュラスシタは楽しそうに自分の過去を語る。憎い。憎い。憎い。自分を語るな。誰も聞いていない。
「誰も聞いてねぇよ!死ね!」
「さっきから死ね、死ねばっかり言うなら殺してもみたらどうです?まぁ、できないと思いますがねぇ?」
「うるせぇ!生物変化!」
キュラスシタの体から木が生える。
「なっ...これは?」
キュラスシタは地面に落ちていく。
「さっきの鼠がお前に糞したみたいだな!糞の中に寄生虫でもいたんだろ!」
キュラスシタは木に押しつぶされる。
「こんな木が効くわけないでしょう!」
”ドォォン”
木は爆発される。木は倒れる。
「あぁ...危なかったですねぇ?」
キュラスシタは怪我をしている村人を捕まえて捕食する。
「これで回復ですよぉ?チキンから殺してあげましょう!名誉ですね!よかったですね!」
キュラスシタに殺されても名誉になんかならない。ただ憎いだけだ。
「名誉なわけないだろ!そんなん持ってたら親に泣かれちまうよ!生物変化!」
キュラスシタの口から木が生える。どんどん育っていく。キュラスシタの体は破裂した。
「さっき食った人間がまだ胃袋の中で生きてたみたいだな!」
キュラスシタの声は聞こえない。勝った。勝ったのだ。俺たちはついに勝ったのだ。
「キュラスシタを...倒したの?」
「あぁ!解除!」
キュラスシタの口から生えた木は人間に戻る。
「大丈夫か?村人さんよ!」
「ありがとうございます!」
村人の手にはアイキーが握られていた。
「あ、それくれる?」
「はい!どうぞ!」
俺たちはアイキーを手に入れた。その瞬間、俺の体に激痛が走る。
「うわぁ!痛い痛い痛い!」
体中が筋肉痛になっていたのだ。空を飛んだからだろうか。今度から気をつけなければ。
こうして、キュラスシタはこの世から消えた。一人の快楽殺人者が減ったのだ。だが、また歴史は繰り返す。
100年・200年後には、また凶悪快楽殺人者が出てくることだろう。
 




