第166話 蜥蜴人間
春都 ショウガ・シンドーク・ブルムンド・リンザル
夏都 リューガ・カゲユキ・ホリーネス・クレハ
秋都 リカ・ユウヤ・カミール・タンドン
冬都 トモキ・マユミ・ノノーム・モルドフ
保持能力
ショウガ『柔軟』・・・体の一部を柔らかくすることが可能。
シンドーク『呼吸』・・・呼吸と共に電気を流すことが可能。吐くときに電気が放出される。
ブルムンド・・・なし。
リンザル『式神操作』・・・自分の体液を式神にすることが可能。
ショウガ・シンドーク・ブルムンド・リンザルの4人は春都の4層にへとあがる。
「なんだなんだ?この春都は見た目ばかりで雑魚しかいないのか?このシンドークを満足させるような敵にまだ一度も出会っていないのだが?」
オーエスにドロンド、そしてシロウ。4人が苦戦するような強大な敵はまだ出てきていない。
「そんな、強い敵がいないなんて酷いアル」
4層の天井から声がした。そして───
”ビタンッ”
天井から、黄色い鱗を持った蜥蜴人間が落下してきた。
「ほう、蜥蜴人間か。低俗な種族だな」
「酷いアル。酷いアル。低俗だなんて酷いアル。植人族ごときがイキってんじゃねぇぞぉ?」
その蜥蜴人間の口調が一気に変わる。長い舌を口から出して、唾液を垂らしている。
「名乗れ!愚族が!貴様の名前を聞いてやる!感謝しろ!」
「んなの、人に名を聞く態度じゃねぇだろ?でも、教えてやるよ!」
「───ッ!」
シンドークの方に、何かネバネバした透明の液体が飛ぶ。少しだけ黄色く着色されたその液体は未だなにか不明だ。だが、この液体は能力で作り出したものだと言えるだろう。
「汚物を飛ばすな!貴様!」
「アイの名前はクックール。貴様らを殺す男の名前アル」
その蜥蜴人間はクックールと名乗る。そして、自分の右手を前に突き出し、黄色く着色されているネバネバした液体を大量に出す。
「この容姿端麗なるシンドークに汚物をかけやがって!余程低俗だな!」
シンドークはそう言うと、剣を抜き、クックールの方へ進む。体についたその謎の液体は取り除いていない。
”ザッ”
クックールの腹に剣が突き刺さる。
「スーハー」
シンドークの呼吸音がする。だが、電気が流れない。
「───ッ!」
「弱いアル。よくここまで来れたアル」
”ボゥ”
クックールは火を吹く。これも、蜥蜴人間の所有する能力だ。本来、火に晒されても髪が焦げるくらいなのだが───
「このシンドークの体が...燃えて!」
シンドークは体中燃えていた。その液体の正体は、油であった。引火性のある油であった。
「シンドーク、大丈夫か!」
「誰か、水を!水を!」
「わかったよ、ウォーター」
そう言うと、リンザルは澄まし顔で魔法を使う。だが───
「───ッ!何故!」
シンドークを囲う火はより一層大きく燃え上がる。この油は、ただの油じゃない。ガソリンだ。
「お嬢様!」
「この火を消す術はないアル。水をかけたことが間違いだったアル」
油は、絶縁体だ。だから、電気を通さなかった。気付くことはできたはずだ。だが、そのことに気付かなかった。ブルムンドも、シンドークも。
「何やってんだ、リンザル!」
「ええ?僕だってガソリンだとは思わなかったんだ!」
リンザルは、ショウガに責められる。
「まず...このまま...燃え尽き...」
***
植人族と人間はの違い。それは、外からはわからない。だが、明確な違いある。
それは、細胞に極微量だが、葉緑体が含まれることだ。葉緑体が含まれていれば植人族。含まれていなければ人間と扱われる。だが、その差は大きかった。葉緑体のあるなしで、能力のあるなしも必然的に決まってしまうのだ。
人間は生まれながら能力を手に入れることは無理なので、必ずないと分類される。
植人族の中でも能力持たぬ者はいるが、約98%の植人族が能力を持つと言われている。
残りの2%は、人間が判断ミスで植人族と分類された場合が多い。
***
「このシンドークが、火ごときに負ける情弱じゃない!」
シンドークの体は、まだメラメラと燃え盛っている。だが、倒れない。倒れそうにない。
本来なら、燃え死んでもおかしくないような火なのにだ。
「な...何故生きてるアル?」
「このシンドークが燃え尽きて灰にならない理由か?そんなの知らん!このシンドークはここで死ぬ運命じゃないからか?」
「恐ろしいお嬢様だ。これだけの火でも死なないとなると、笑うしかない」
ブルムンドは微笑している。どうやら、ブルムンドにも死なない理由がわからないようだ。最も、死なないに越したことはないのだが。
───否。ブルムンドのこの笑みは、真実を見据えていた。
───ブルムンドは、シンドークが燃えても死なぬ理由を知っているのだ。
「クックール。貴様も斬り刻んでやろう。それとも燃えて死ぬか?」
「創者は死んだら塵になるアル。灰になろうが塵になろうがどっちも同じアル。
クックールは、大量の油を床にまく。そして、火をつけた。
「死ぬなら全員道連れアル」
「ほう、それは面白い」
”ザッ”
「───ッ!」
ブルムンドが剣を一振り。すると、周りの火は全て消える。
「なっ...なんでアル?どうして...火を消せるアル?」
「風圧ですよ。どんな火も、風では消えるんです」
ブルムンドがそう言うと、各々が刀を振る。すると、各々の周りの火は消えた。
「熱ぃ!我の服はこのビキニ1枚だから燃えたらこまるんだよなぁ...」
「その時は僕がYシャツを貸してあげるよ」
リンザルは、Yシャツのボタンを閉めず、シックスパックが見えている。
「おぉ、そうか」
「このシンドークのことを、よくも燃やしてくれたな!クックール、高く付くぞ?」
シンドークの体を纏っていた火は消えていた。
シンドークの金髪は黒く焦げており、これまでのシンドークとは違う印象を受ける。シンドークのつけている鎧や、前掛けにも煤が付いており、それをはたき落とし、剣を構えた。




