第165話 赤龍
"クオォォォ"
赤龍の咆哮がする。そして、トモキの方へ炎を吐く。
「おいおい、俺狙いか!動物との親和性が高いんじゃなかったのか?」
トモキはそんな軽口を叩きながら、軽々と炎を避ける。
「ノノーム、『振動』で赤龍を揺らせ!」
「了解した!了解した!了解した!了解した!了解した!」
トモキはもう一度、赤龍の鱗に自分の踵を打ち付ける。そのまま、踵を返しノノームとその場を交代する。
「『振動』!『振動』!『振動』!『振動』!『振動』!『振動』!」
赤龍は藻掻く。トモキにつけられた擦り傷の上を振動させる。傷口からは血が噴出する。
「───ッ!」
ノノームは、赤龍の血をギリギリで避ける。
「ノノーム?」
「赤龍の血には『苦』が溶けているとされている!されている!されている!されている!されている!」
「『苦』ねぇ...ピンとこないわ...」
「俺もだ...」
マユミとモルドフはノノームの訴えに頭をかしげる。
「血管にも、血液にも気をつければいいのか!なら、簡単だぜ!」
トモキは、赤龍の傷口を殴る。そして、そこの肉を抉り大量の血がダラダラと流れ始めている。
トモキの握力は、リカのせいで薄れているのだが、60オーバーだ。ちなみにリカの現在の握力は350kgだ。
”クオォォォ”
もう一度、赤龍は炎を溜める。咆哮は、炎を吐く合図だ。
「サンダー!」
”ピシャリ”
「ナイスだ、マユミ!」
マユミがサンダーを赤龍に食らわせた後、トモキは赤龍にアッパーをする。炎の溜めがキャンセルされる。
「ノノーム、どうすれば血管を破壊できるか?」
「血管の細胞は炎にも強い!炎にも強い!炎にも強い!炎にも強い!炎にも強い!どうしたらいいか検討もつかない!つかない!つかない!つかない!つかない!」
「そうか...なら、こうするってのはどうだ?」
モルドフは自分の尻尾を千切る。そして、血管の中に尻尾を入れた。モルドフの尻尾はその血液の濁流に流されていった。
「なぁ...尻尾乗せた血液はどこに運ばれると思うか?」
「それは...心臓?」
「ザッツライト!外側から無理なら...内側からだぜ!」
「そうか...内側からか!内側からか!内側からか!内側からか!内側からか!」
ノノームは何か閃く。
”クオォォォ”
赤龍が火を吐こうとする。
「サン───」
「火を止めさせるな!止めさせるな!止めさせるな!止めさせるな!止めさせるな!」
「は、はい!」
マユミは魔法の詠唱を途中でやめる。
赤龍は炎を吐き出した。そこに、ノノームは突っ込む。
「ノノーム?」
「俺は龍族だ!龍族だ!龍族だ!龍族だ!龍族だ!炎なら耐えられる!耐えられる!耐えられる!耐えられる!耐えられる!」
ノノームは、そのまま赤龍に飲み込まれた。そして───
”ガガガガガガガ”
赤龍は震えだす。内側から、震えだす。
「ノノームが...中から『振動』を使ってる?」
「そのようね...」
赤龍はそのまま『振動』され続ける。赤龍はその場で藻掻く。口腔からノノームを吐き出そうとするが、ノノームは出てこない。
「これで...これで...これで...これで...これで...とどめだ!とどめだ!とどめだ!とどめだ!とどめだ!とどめだ!」
”ボンッ”
何かが小さく破裂するような音が聞こえる。そのまま、赤龍は塵のように散っていった。
「できただろ?ノノーム!」
「あぁ!あぁ!あぁ!あぁ!あぁ!俺らにも赤龍を倒すことができたな!できたな!できたな!できたな!できたな!」
黒く焦げた髪をノノームは叩く。そして、息を吐く。
「それじゃ、6層もクリアだな」
***
トモキ───俺は、生まれつき動物に懐かれやすい人間だった。
その個性を、良いと捉えるか、悪いと捉えるか。
「おい、トモキ!また、糞犬連れてきやがって!」
父さんは、酒癖が悪いのに、昼間から酒を飲むことが多かった。父さんは、酒が入ると暴力を振るうようになる。だから、俺は父さんが嫌いだった。母親は、こんな父親から逃げてどこかに行ってしまった。出ていったのは、俺が6歳の時だった。
”ワンワン”
”ガーガー”
”チューチュー”
”ゲコゲコ”
俺は動物を呼び寄せたくなくても、勝手に家に来てしまう。そして、鳴いて騒ぐ。父さんは、それにキレていつも箒で、動物達を叩いていた。
「おい、トモキ!この糞共をどっかに連れてけよ!」
「俺だって好きで呼んでるわけじゃ───」
「口答えすんじゃねぇ!」
俺は父さんに打たれる。酒が入ってる父さんとまともな会話ができる訳ないのだ。
「ごめんなさい...」
「糞共連れて、とっとと家を出ていけ!」
俺は、家を出ていく。そこで、一人の少女と出会った。
自分以外の家族を「魔女」と名乗る女の人に殺されてしまったと言うマユミ。
俺は、その少女と仲良くなった。その後、ユウヤと言う両親が生まれつきいない青年や、家庭教師からの性的虐待に逃げてきたカゲユキとも仲良くなった。
そして、俺らは探訪者を目指すようになった。
「探訪者なら、チーム名が必要だろ?」
「まぁ、そうだな...」
「何かいい案はあるの?」
「あ、{チーム最強}とかどう?」
「却下」
「流石にそれは...」
「きも」
俺は3人から否定される。マユミには、きもがられた。
と、名前は決まらずにじゃんけんでユウヤが負けてリーダーになった。ユウヤが「じゃんけんで負けたのは初めてだ」と言う。これも、運命なんじゃないか。そんなことを思いつつ、仮チーム名は「ユウヤチーム」となった。父さんは舌打ちをして、俺が探訪者になることを否定しなかった。
きっと、動物が家に寄り付かなくなるのを喜んだのだろう。
***




