第152話 5層へ
「へぇ、凄いじゃん。よくヘリコプターを壊したね」
ジャムは至って冷静に返答する。ジャムはセグウェイを動かし4層から俺達のいる3層に飛び降りた。
「そんな高さから飛び降りてセグウェイ、壊れないの?」
「あぁ!大丈夫、大丈夫!セグウェイ、頑丈だから!」
ジャムは目を細める。
「でも、いい作戦を考えついちゃった。君たちを殺す作戦をね」
「まずっ!」
4層の床が落下してくる。
「逃げれる場所はないよ!さて、破壊してみなよ!」
ジャムは、ホリーネスが爆発で開けた穴の場所にいるので潰されない。ジャムを無理に動かしても無駄だろう。
「みんな!こっちに!」
カゲユキが指さした方は壁際だ。こっちに逃げれば潰されてしま───
わない。こっちに逃げよう。
”ドォォン”
4人は潰されるギリギリに入り込んだ。3層から4層へと向かう階段に。ここなら、被害はないはずだ。
「4人共、生き残っただと?嘘だろ?」
「これが俺たちの実力?修行の成果?って言うのかな?」
「っち!余裕そうでムカつく!」
ジャムは眉をひそめる。
「やっぱ、僕の能力は名前通り『交通渋滞』を起こす車を利用するのが強いんだよなぁ。でも、車も効果はないみたいだし...どうしようかなぁ...」
ジャムはため息をつく。そして、セグウェイを動かしこちらに近づいてくる。
「よし、埋めよう!」
「───ッ!」
俺たちは急いで、3層から4層へ向かう階段から出る。
「まずっ!」
クレハが、階段の中に残されてしまった。先程、4層から3層に下がる階段も塞がれてしまった。クレハに逃げ道はない。
「さぁ!交通事故を起こそうじゃないか!玉突き?追突?それとも轢き逃げ?さぁ、どうなるかな?」
埋められた壁の奥で、車が壁にぶつかるような音が聞こえる。
「ジャム!お前!」
「いいのかな?僕を攻撃させて怒らせたら?クレハがいる空間を無くしちゃうよ?」
「なっ...」
俺らは何もすることができない。ただ、クレハが無事だと祈ることしか。
”ドォォン”
ホリーネスが埋められた壁に自分の血液の入った爆弾を投げた。壁に穴が開く。そこには、ピンピンしたクレハと、大破した大量の車の残骸があった。
「ホリーネス、感謝する。刀を浪費する愚行を行わずに済んだ」
「いぃやぁ?たぁすぅかぁってぇなぁによぉりぃだぁねぇ?」
クレハはホリーネスに一礼する。そして、ジャムに向かって剣を構えた。
「お前も車みたいになりたいか?玉突き、追突、轢き逃げ。どれがいい?」
「───ッ!」
ジャムは、自分の命の危機を感じると、自分の周りを砦で覆った。
「ホリーネス!」
「わぁかぁってーるぅよぉ?」
ホリーネスは、自分の血が入った小瓶を投げる。
”ドォォン”
煙があがる。中には、誰もいなかった。
「ジャムが...消えた?」
「いや、どこかを移動しているはずだ」
カゲユキは冷静に推察する。
「どこを、狙ってくるかな?」
「俺らがいる足場か...上階...かな?」
「そうか...」
***
ジャムは砦の外側を、ボルダリングのように出っ張りを作って登る。そして、カゲユキの予想通り5層に移動した。
「ジャム?音が凄いが何かあったのか?」
5層の守人は、痩せ細った男。その名もアター。
「もうすぐ、ここに侵入者の4人が来る!どうにかしないと!」
「俺たちの職務は時間稼ぎだろ?侵入者を殺すのが無理なら、この命を棄ててでも時間を稼がないと!」
「どうして、お前はそんなに仕事に一生懸命なんだ...」
「別に、俺は仕事しか取り柄がないからさ...」
アターはそう静かに呟く。どこか遠くを見るような目をして。
「あ、そうだ!いい事考えた!」
ジャムは何かを閃く。
「どうしたんだい?」
「君の兄貴のアゴーは6層にいるだろう?」
「そうだけど...」
「なら、共闘すればいいんだよ!4vs1は無理でも、僕と君、そしてアゴーの3人なら勝てるかもしれない!」
「そうだな」
***
「ジャムは...来ないみたいだな」
「あぁ、そうだな...」
「どうやって登るか?」
「私は壁を蹴って登れるが...」
クレハは淡々と答える。そんな、マ○オの壁キックみたいな芸当は一般人にはできません。
「わぁたぁしぃもぉ、リューガぁさぁんもぉ、飛ぉべーるぅかぁらぁねぇ?」
「俺だけってことか...」
カゲユキは自虐的に笑う。
「それじゃ、行くぞ」
「───ッ!」
169cmのカゲユキは、151cmのクレハにお姫様抱っこをされる。クレハの巨乳が、カゲユキの腕に当たる。ビキニアーマーであるクレハのお姫様抱っこはカゲユキには刺激が強すぎる。
「これは...」
「文句あるか?」
「いや、文句って訳じゃ...」
「じゃあ、行くぞ。ホリーネス。5層への通路を爆破させてくれないか?」
「りょーかぁい?」
ホリーネスは自分の翼で飛んで、自分の小瓶の中の血を5層へあがる通路に垂らす。
「はぁい、どっかぁぁん」
”ドォォン”
壁が爆発する。ホリーネスは先に中に入る。
「じゃあ、行くぞ」
「は、はい」
俺たち3人もホリーネスに続いて、5層へとあがる。そこには───
「随分と早い再会だね。でも、こっちはもう一人じゃない」
ジャムの隣には痩せ細った男がいる。その男はこちらを見透かすような目で見ている。そして、その手には槍を持っている。
「俺たちは3人いるんだ!」
ジャムがそう言うと同時に、6層から大男が落下してくる。
「俺たちアゴー・アター兄弟とジャムの3人が相手してやる!」
その大男は、そう叫んだ。




