第147話 残り85秒
85...
84...
「まだ...俺はやってやる...死にたく...ねぇからな...」
ヨロヨロになりつつユウヤは立ち上がる。
「切り取ってやる...お前の鼻を...」
ユウヤは地面に剣をついている。
「さて、そのボロボロの体でどうやって私を斬るんですか?予想しましょう。そのまま斬りかかる。空中に飛んで斬りかかる。脚を切って動きを止めてから斬りかかる。首を切りとってそこから鼻を切り取る。どうです?この中に答えはありましたか?」
「いいや...無かったよ...」
ツーの後ろに現れた一つの人影。
「だって、お前は!俺一人でしか物を考えていないからな!」
「───ッ!」
”ガンッ”
ツーの頭はリカに殴られる。だが、ダメージは無いみたいだ。
「神経の裁断。無駄なんですよ。無駄。無意味。無意義。残念ですね。あなたの筋肉は弛みきったのですよ。そんなので殴っても痛くも痒くも辛くもない!ふふ、苦しみなさい。私は苦しむ顔が好きなんですよ!」
70...
「鼻だけでも...斬らないと...」
「ユウヤさん...頼めますか?」
「あぁ...任せろ!」
ユウヤは感覚神経が裁断される中で走り出す。本来、足の筋肉を動かす神経が裁断されるなら走れないはずだ。だが、ユウヤはそれさえも乗り超えて走っている。それを根性と呼ぶのだ。
───だが、何の裁断もされていないツーに追いつけるわけもない。
「避けられる...避けられちまう...」
「あなた達の動きなんてノロいんですよ!トロいトロい!時でも止まってるのかと思ってしまいましたよ!時が止まっているのか。動きが止まっているのか。それとも両方止まっているのか。どっちでしょうね?」
60...
「さて、残り1分です。どうしますか?どうされますか?どうしちゃいますか?」
ツーは時計を見ながら、そう煽っている。
「私、15秒程なら寸分狂いもなく数えることが出来るんですよ。だから、15秒過ぎたら、あなた達に時計をあげようと思うんですよね。誰か一人だけ死ぬタイミングを教えてあげるんですよ!そうした方が、その人だけ苦しめるから、みんな辛いんですよ!だって、1人は死ぬタイミングがわかるのに、残り2人はわからないんですよ?そう思うと、悲劇だと思いませんか?思いますよね?まぁ、結局私は嬉しさのあまりカウントダウンをしてしまうと思うのですがね?」
45...
「お前の鼻を...斬り落とす!」
ユウヤは走る。変な走り方が、誰もそんなことは気にしていない。
「遅いですね!そんなの、簡単に避けられますよ!それとも、刀を投げますか?投げても。投げる。投げてさえ私には届かない!届きはしない!届こうともしない!まぁ、頑張ってください!」
「あぁ...俺、一人じゃ届かないだろうな!俺、一人じゃよぉ!」
30...
「残り2人に何が出来るって言うんですか?何もできないじゃないですか!第一、残りの2人はほとんど私に手を出さな───」
”ゴンッ”
24...
ツーはダイラタンシーで出来た空気の壁に体をぶつけた。避けるスピードが出ていたのだ。
「鼻を!」
”ザッ”
21...
ユウヤは、ツーの鼻を削ぐ。
「後は、首を!」
その時だった。
”バタッ”
20...
19...
「ぁ...」
「いやぁ、残念でしたね!第三のウイルスによる変化。神経の停止。あなた達は、もう呼吸をするために喘ぐことしかできない!でも、思考だけはできる!苦しめばいい!残りの20秒、苦しめばいい!」
16...
「おっと、時計を渡す約束でしたね」
ツーは倒れて動けないユウヤに、秒針が見えるように懐中時計を置いた。
「これで、見えるでしょう?残り14秒!」
「13!」
「ぁ...」
「12!」
「11!」
「10!」
「9!」
「8!」
「7!」
「6!」
「5!」
「4!」
ユウヤが、再度少し喘いだ。その目には、何故か活力が見える。
「3!!!!!」
「ぁ...」
「2!!!!!!」
ツーの顔が笑顔に変わる。
「1!!!!!!!」
「0!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ユウヤ・リカ・タンドンは動かない。目は開いたままだ。
「ふふ...死んだ!これで、死んだ!残念でしたね!これで、死んだんですよ!」
8...
「ぁ...」
「って、呼吸音?なっ...なんで!私は正確なはず!私はズレていないはずだ!なのに、なぜ!」
4...
3...
2...
「空間削除!」
ツーの後ろに人影が現れる。その人影は、ツーの首を斬り落とす。
「んぁ...」
”ボトッ”
ツーの首は斬り落とされる。そして、そのまま塵となって消えていった。
「みんな、大丈夫か?みんな!」
人影の正体は、カミールであった。
「あぁ...なんとか大丈夫そうだ!」
ユウヤは立ち上がる。ウイルスは、死んだのだ。残り1秒で死ぬところだったのだ。
「よかった...生きてます...でも、なんで?」
「時間が10秒、巻き戻った」
ユウヤは、淡々と答える。
「なっ、どうしてですか?」
「きっと、クレハが夏都で『元に戻る!』を使ったんだろう。だから、俺たちは生きている」
「あぁ、そうだろうね」
「お互い無事でよかったです!」
リカは笑顔になる。
「あぁ、そうだな。クレハに感謝しないとね」
***
元に戻る!・・・この世界の全ての時間を10秒巻き戻すことが可能。使用した場合記憶は引き継がれる。一度使うと15秒使えなくなる。
クレハの元に戻るは、9の世界全てを10秒巻き戻す能力だ。
残り3秒の時に、クレハがトウドとの戦いで元に戻るを使用した。だから、残り13秒にまで戻ったのだ。
時計を渡してしまったツーはその事に気付かなかった。それで、カウントダウンがズレた。
そして、カミールが追いついて、ツーの首を斬ったのだ。カミールはツーの能力の把握をしていなかったのだが、3人が倒れていたので急いで首を斬った。隙を突くために。
まぁ、全ては結果オーライと言えるだろう。




