第145話 トウド
「───ッ!」
弾が入っていないはずの銃から、銃弾が飛び出てくる。それを、クレハはギリギリで避けた。
「え...」
「お前、どこに銃弾を隠し持っていた?」
トウドも困惑しているようだ。銃を見つめている。
「クレハ!下がれ!」
「ふふ...ははは!」
トウドはゆっくりと立ち上がる。
「やっと、やっと理解したよ!このトウドは、このトウドは知らなかったんだ!我が能力を!でも、君たちと戦ったことで、危機に扮したことで、やっと理解できた!我が能力名は『射撃』さ!そして、その能力は{銃に弾を入れなくても撃つことができる}というものさ!」
射撃・・・銃の弾数を関係なく撃つことが可能。
「能力を知らない?どういうことだ?」
「このトウドは能力の権能を聞かせてもらっていなかった!聞いていたのは能力名のみだったんだ!そして、それでこの愛用する銃を与えられていただけだった!だから、気付かなかった!銃弾がなくなったら、このトウドは真面目にも新たなる銃弾をいれていたのだ!愚か者共め!貴様らの死に場所はここだ!我が能力の権能の前に屈しろ!そして、このトウドを拝め!讃えよ!そのまま死ぬがよい!」
”バンッ”
”バンッ”
”バンッ”
”バンッ”
それぞれ4人の方向に銃弾は発射される。
「───ッ!」
クレハは、その弾を素手で掴む。
「うぅん、わぁたーしぃをぉ、ばぁかぁにーしぃてぇまーすぅかぁ?」
ホリーネスは短剣で銃弾を2つに切る。
「『破壊』!」
俺は銃弾を破壊した。
「ぐっ!」
カゲユキは銃弾に当たっていた。脳天を貫かれていた。
「なっ、カゲユキ!」
返事が返ってこない。
「ふふ...まずは一人!」
「元に戻る!」
その直後、俺たちは10秒前にいた位置に戻っていた。もちろん、カゲユキは生きている。
「なっ...」
カゲユキは膝をその場についてしまう。
***
これは、トウドが創られた時の話だ。
「14世、次の創者を創ってください!」
「でも...」
「創りなさい!それとも、創れないとでも言うんですか?」
14世と呼ばれた男は、『創意』を使って兵を創る。
14世───正確にはピーゼンデル14世である。ピーゼンデル13世の子供であり、現在の9の世界『インヴェンション』の国王である。
「名前はトウドです。これを...」
「それじゃ、トウド!行くぞ、夏都に!付いてこい!」
「このトウド、了解した!」
トウドはおじさんに付いていく。このおじさんは14世でも13世でもない。
「お前の能力は『射撃』だ。14世から聞いている。お前には銃を授けよう。これで、しっかり王の期待に応えるように!」
「あぁ!わかっている!貴様なんかに言われなくてもな!」
「あ?この俺に反抗する態度をとるのか?俺が誰だかわかっていないようだから教えてやろうか?」
「いや、大丈夫だ。貴様の名前なんか興味はない。俺は強さを求めているからな!」
「なんかお前、頭悪そうだな...」
トウドはおじさんからそんなことを言われる。それが、約2年前のことだった。
***
「カゲユキ!大丈夫か?」
「あぁ...ただ、怖いんだ。銃で撃たれるのが...怖いんだ...」
カゲユキがいつもの冷静さを失っている。
「銃に当たっても...意識は少し残ってたんだ...頭の中に異物が入ってくるような気持ちの悪さがあるんだ...まだ、撃たれたところに違和感があるんだ...」
「な、なんで傷がなくなっているんだ?おかしい...おかしいじゃないか!」
トウドはカゲユキに銃を向ける。
”ザッ”
”ボトッ”
「なっ...」
「銃は撃たせないわ。せめて残りの9秒は」
クレハの『元に戻る!』は、10秒巻き戻すと、15秒は使えなくなる。10秒巻き戻っているので巻き戻す時間から5秒は進まないと使用することができないのだ。
「俺の腕が...」
クレハはトウドの右腕を斬り落とした。トウドは残りの左腕で銃を拾おうとする。
「拾わせないわよ!」
”ザッ”
クレハはトウドの左手首を斬り落とす。すると───
「あ、あ、ああぁぁぁぁ!」
トウドが途端に叫びだした。
「俺の...俺の急所が!俺の弱点が!斬り落とされた!両腕とも戻ってこない!あっ、あっ、あぁぁぁ!」
トウドが喘ぎながら叫びだす。その目には涙が浮かんでいる。
「お前の急所は、そこだったのか...」
クレハは優しいため息をつく。そして───
「今、楽にしてやる。ずっと苦しいままじゃ辛いだろうしな」
”ジョキィィン”
”ボトッ”
トウドの首は斬り落とされる。そして、はらはらと塵になってどこかに飛んでいった。
「遺し物は...これか...」
クレハは銃を拾う。中には弾の1つも入っていない銃。きっと、役には立たないだろう。
だが、何か心に残る。遺された銃を見て、何かが心につっかかる。
振出式の回転式拳銃が死んだトウドを物語っている。
「なぁ、クレハ」
カゲユキがクレハの後ろに近づく。
「どうした?カゲユキ?」
「俺が...この銃を貰っていいか?」
「銃弾はないぞ?」
「それでいいんだ...そっちの方がいい...」
「どうしてだ?」
「持っておきたいんだ。トウドのためにも」
「そうか...はい、どうぞ」
「ありがとう...」
カゲユキはクレハからその拳銃を受け取る。
「これは、マニューリンMR73か...」
カゲユキはそう呟いた。




