第134話 ランドウ
リカ・ユウヤ・カミール・タンドンは2階に上がる。
「こんにちは。あなた達がここに来たということはケンランさんは倒されたのですね」
2層には一人の女がいた。その女は、黄ばんだワンピースを着ている。声にはやる気が感じられない。
その女は右手にバッグを持っていた。
「あぁ!俺達が倒した!」
「そうですか。なら私があなた達の相手をしないとならない」
その女は棒読みで話している。漆黒の目でこちらを見ているが、その目に魂は感じられない。輝きが無いので、瞳とは言い難い。
「私の名前はランドウです。よろしくお願いします。私の能力はこのバッグ。その名前も『空白』と言います。このバッグに物を入れて閉めると中に入っていたものが無くなってしまいます。どこに行ったのかは私もわかりません。何かと等価交換できる訳でもないですので日常生活では役に立ちません」
ランドウと名乗った女は自分の能力について真顔で淡々と話す。ボサボサになった紺色のその髪の毛はランドウの不潔さを物語っている。髪と、肩には大量のフケが付いているのだ。着ているのものも黄ばんでいる。
空白・・・バッグの中に物を入れるとどこかに消えてしまう。取り出すことは不可能。
「興味本位で聞くんだが...いつ風呂入ったんだ?」
「風呂。そんな物は入ったことはありません。私には必要ありません。何故ならもう魂は洗われたのですから」
ランドウは淡々と返す。その表情に生命は感じられない。ランドウは死と生の間にいるような感じがするのだ。
「勝負...しようぜ?」
「それが私の仕事です。私は戦えないんですけどね。私がこれまで生き残っていたのはケンランさんがいたからです。でもケンランさんが死んでしまったのなら私も死んでしまいます。私に戦う能力は無いんですから」
ランドウの黒目はギョロリと動く。目の焦点が合っていない。
ユウヤは剣を構えた。
「カミール、行けるか?」
「あぁ!」
ユウヤとカミールはランドウに向かって走っていく。
”ジョギィィン”
ユウヤはランドウの首を撥ねて、カミールはランドウの右腕と横腹を斬る。
”ボトッ”
ランドウの首と右腕が同時に落ちる。
「ユウヤ!くっつくぞ!急げ!」
「急げって何を?」
「そんなの、バッグに首を入れるんだよ!」
ユウヤはバッグに首を入れる。そして、閉じた。もう一度開くと───
「首が無い...」
ランドウの言っていたことは本当だった。
”メキメキ”
ランドウの首の断面から根っこのような物が何本も何本も生えてくる。その根が交差し、首の断面を塞いだ。そして、その断面に、目と鼻・そして口が現れる。髪は首の断面の周囲から何本も生えていた。
「斬られてしまいました。これでは天井しか見えなくて行動しずらいですね」
ランドウは一人でそんな事を言っている。
「なっ...なんだこいつ!」
ランドウは少し猫背になる。すると、フケのついた黒髪は床に付いてしまった。そんなこともお構いなしにランドウは首の断面に付いた目で辺りを確認している。
「あなた達。私の首をバッグに入れたのですか」
「あ...あぁ!入れたよ!でも、知らなかったんだ!こんなキモいことになるなんて!」
「そうですか。私もこんなこと初めてなので」
ランドウは冷静にユウヤの言葉に返事する。よく見ると、首のうなじの部分に穴が一つ開いていた。きっと、ここが耳だろう。
「き...気味が悪い!なんだよ!これ!」
「気味が悪いなんて心外ですね。あなた達が行ったと言うのに。生憎私も客観的にこの姿を見たら{キモい}など言ってしまいそうですが」
「は...早く倒しちゃってください!」
リカが静かにしていると思ったら、タンドンの後ろに隠れてしまっている。
「わ、わかったよ...ランドウ...覚悟!」
ユウヤはランドウを斬り刻む。
”ジョギィィン”
”ジョギィ”
”ジョギィィン”
「はぁ...はぁ...これで...」
ランドウはバラバラになった。四肢を切り刻まれ、胴体は内臓が一つ一つ並べられるほどに解体した。
そして、感覚器は一つ一つ丁寧に切除した。
「私の急所は太モモですよ」
ランドウの体が歪にも接着する。その醜態は見ていて悍ましい物だった。
「ひっ!」
「私を早く殺してください。さぁ」
カミールは太モモを両方斬り落とし、ユウヤは心臓を一突きした。そのまま、ランドウは塵となって消えていく。それは何故かユウヤ達の心を擦り減らした。ユウヤの心には罪悪感が残った。殺さなくても、どうにかなったんじゃないか、と。好戦的では無かったから無理に戦うことは無かったのかもしれない。
”ボトッ”
床に何かが落ちる。そこにあったのは───
「なっ...」
バッグだけが残っていた。このバッグは能力じゃないのか。なぜ残っているのだ。
「ふふ...ははは!残念だったな!この俺を野に放っちまったなぁ!」
「え?」
バッグの中から声が聞こえる。カミールはバッグに近づいた。
「カミール!危険だ!離れろ!」
「遅いね!」
カミールはバッグの中に入ってしまった。
「カミール!!!」
バッグは静かに閉じられた。その後、一言も喋ることは無かった。




