第124話 大きな欠伸
”バサバサ”
巨大な鷲の式神がカゲユキの方に飛んでいく。
「ウィンド!」
鷲の式神は風に押される。
「そんな風で、僕の式神は倒せないよ?」
「知ってるさ...」
”キィィ”
式神の嘴とカゲユキの短剣がぶつかる。
「───ッ!重ッ!」
「あぁ!強いよ!だって、僕の式神だもの!」
”キィィ”
”カッ”
式神に短剣を弾かれてしまう。
「チェックメイト...さ!」
「クッソ!負けたか!」
「危ないね、修行じゃなくて、本番だったら死んでいたよ!」
「あぁ...そうだな...」
こうして、カゲユキとリンザルは残りの1か月を共に修行を行った。
***
「ホリーネスは修行して大丈夫なのか?」
俺はホリーネスに話しかける。
「あぁ、リューガさぁんでぇすかぁ?わぁたぁしーのぉ、修行のしぃんぱぁいーはぁ、だいじょーぶぅでぇすよぉ?」
「本当か?実戦で貧血になってもらったら困るんだが...」
「だぁいじょぶーでぇすよぉ、貧血にぃならぁ、なぁんどーもぉ、なってぇいぃまーすかぁらぁ?」
「そういう問題なのか?」
「そぉれぇにぃ、こぉれまでぇのぉ、血液のぉ予備をぉ残ぉしぃてぇ、いぃるのぉでぇ、」
ホリーネスは大量の小瓶を見せてくれる。その中には赤黒い色をした液体が入っていた。
「これは...全部お前の?」
「はぁい!そぉうでぇすよぉ?全部、わぁたぁしーのぉ、血でぇす!」
俺の背中に鳥肌が立つ。ホリーネスが敵になっていたら、どれほどの脅威だっただろうか。
ワッケラカエンの能力は、初見殺し的な要素を持っていたので、ホリーネスやキュラスシタよりも確かに強いのだが、キュラスシタとホリーネスを比べると、ほぼ互角にみえる。
「いやぁ、よかった...」
「なぁにーがぁ、でぇすかぁ?」
「お前が味方で、だよ!」
「そぉーでぇすかー...」
ホリーネスは大きな欠伸をする。
───王への反乱まではもう1カ月もない。
***
「それでは、お手合わせを願います」
「あぁ、クレハ!かかってこい!」
ユウヤとクレハは剣を交わらせる。
”キィィン”
”キィィン”
「なぁ、剣を破壊?まぁ、使えなくてしてもいいか?」
「それは困るな。愛用している剣は数本所持しているが、これが一番手に馴染むのだ」
”キィィン”
「そうか...なら、『酸化』は使えないなぁ...」
「そういえば、そんなことも言っていたな」
”キィィン”
「ここだぁ!」
ユウヤとクレハの間にカミールが突如現れた。
「なっ!」
”ザッ”
”キィィン”
「うおっ!」
「危ないぞ!カミール!」
「えへへ...ごめんごめん!」
「全く、斬ってしまうところだった...」
「でも、『元に戻る!』で、何とかなったんじゃない?」
「まぁ、そうなのだが...斬らないことに越したことはないだろう?」
「あぁ...そうだな!」
***
タンドンは水辺で、『ダイラタンシー』の修行を行っている。
「うぅん...水が無ければ俺、無力なんだよなぁ...」
タンドンは一人嘆いていた。
「しょうがない...水でも持っていって備えるかぁ...」
タンドンはゆっくりと立ち上がる。
「や...やめて!やめてください!」
どこかで、女性の声がした。
「いいじゃーん!俺と遊ぼうよぉ!」
「嫌です!やめて...やめてください!」
タンドンは声のする方に移動する。
そこには、一人の男が一人の女に執拗に追いかけ回していた。
「君、名前はなんていうの?」
「い...言いません!言いませんから!」
「いいじゃん...教えてよぉ!」
「お...教えません!」
「言わないなら...殴るよ?」
銀髪の男はスプレーを取り出した。
そして、スプレーで地面に絵を描く。すると───
「なぁ...」
絵に描いた巨大な謎の生物が具現化した。それにしても酷い絵だ。猫だとも犬だとも兎だとも言い難い。
「行け!俺が描いた象よ!」
「象なのかよ!」
タンドンは思わずツッコんでしまう。
「おい、お前...そこで何見てるんだ?」
「え...あ...」
タンドンは自分から行動するのが得意ではない。どちらかと言うと、苦手だ。
「おい、兄ちゃん?悪いことはしないからよぉ?背中を向けてどっかに行けよ?兄ちゃんだって痛いのは嫌だろ?」
「そ...そうだけど...でも...」
「俺はさぁ、今、この女の子と楽しくお喋りしてる訳よ?邪魔してくれちゃってさぁ?どうしてくれる訳よ?」
「す...すいません...」
「そう思うならさぁ、早くどっか行って───」
「お願いします!助けてください!」
女性の声がタンドンの耳の中に入る。タンドンはその言葉によって動いた。
「お姉さん!逃げよう!危ない!」
「わ、わかったわ!」
タンドンは女性の手を掴む。そして、走り出した。
「象よ行け!」
”ヒヒーン”
こちらに象が走ってくる。絵が下手過ぎて色々混ざっているような気がする。
「お姉さん!水!水はありますか?」
「え、えぇ、あるわよ!」
タンドンは女性から鉄の水筒を貰う。
「ありがとうございます!」
タンドンはその中の水を撒いた。
「ダイラタンシー、発動!」
”ブシュー”
象の体のあちこちから、液体がこぼれ出る。そして、霧消した。
「な、俺の象を倒すとは!やるなぁ!」
「僕の名前はタンドン...お前は?」
「俺の名前はシルバード!誇り高き、『金銀銅』のメンバーだ!」




