第113話 ワインダー
俺たちは逃げる。も───
「きゃぁぁ!」
リカがその刃物に触れてしまう。
「うぅ...」
「大丈夫か?リカ!」
「お腹が...」
「リカ、大丈夫だ...落ち着け!」
カゲユキとトモキがその場からリカを連れて行く。
「2人は逃げててくれ!2人の護衛をノノームに任せる!」
「この俺が俺が俺が俺が俺が!任されたならばならばならばならばならばならば職務を全うする!全うする!全うする!全うする!全うする!」
3人とリカは走っていった。
「俺たちはアイツをここで食い止めるぞ!」
「「あぁ!」」
俺はワインダーの右側に飛ぶ。
「ワインダー!こっちだぞぉ!」
だが、ワインダーはこちらに飛んでこない。人数の多い地上を優先している。
「なっ...マジかよ!破壊!」
俺はワインダーの背中を破壊する。
「クッ!重心がズレる!」
ワインダーは少し横にずれた。
「なぁ!こっちになんで来るのぉ!」
そっちの方向にはマユミがいた。このままではマユミは2本の刃物に巻き込まれて───
「ウィンド!」
マユミの魔法杖から、強い風が出る。
ワインダーと俺は吹き飛ぶ。
「とりあえず...この武器を落とさないと...」
「ぶぅきぃを、おとぉせばぁいいんでぇすぅかぁ?」
「ホリーネス?なんでここに?」
「わぁたぁしは、吸血鬼のハァーフでぇすよぉ?はぁねぇくらぁい持ってーいぃまぁすぅ?」
ホリーネスは短剣を舐める。
”ザシュッ”
「おい、口の中切ってるぞ!」
「わぁざぁとでぇすよぉ?」
ホリーネスは口の中から血を吐き出す。その血は瓦礫の上に落ちていった。
「こぉれぇで...よぉしぃ!」
”バシュッ”
「うおお!危ない!」
血の方に気を取られていた。危ない危ない。今、ワインダーの両羽の刃物で切られるところだった。
「いやぁ、リューガさぁん、気をつぅけぇて、くぅださぁい?」
「あ、あぁ!すまない!」
俺は刃物を狙う。そして───
「破壊!」
”バキバキッ”
「なっ...何?」
ワインダーの右羽に付いてあった刃物は右羽ごと落下する。
「うおぉぉぉ!」
ワインダーは瓦礫の中に落下する。そして───
「je gagne.」
”パチンッ”
”ドォォォン”
「なっ...」
ホリーネスが何か言い、指パッチンをした瞬間、瓦礫が爆発する。あそこは確か、先程血を吐いた場所だ。
「なっ...何があったんだ?」
「ぐ...ぐああ!」
ワインダーは人の姿に戻っている。上裸で無精髭を生やしたオジサンだ。大きなツリ目でこちらを見ている。
「クソッ!右腕が再生しねぇ!」
武器と共に破壊し落とされた右腕だけ再生していない。その後に受けた爆発の傷はほぼ完治なのにもかかわらずだ。
「リューガ!大丈夫か?」
ショウガとユウヤが近づいてくる。爆発が心配でユウヤと共に隠れていたところから出てきたらしい。
「あぁ、大丈夫だ!」
「だけど、まだ左腕は残っている!隻腕の剣士として戦ってやるよ!」
「ヤバい!輝彩滑刀にしか見えない!」
ワインダーはこちらを睨んでくる。
「そこの女、少しはいいじゃねぇか...」
「ショウガは...渡さないぞ?」
「おい、お前もとことん無礼だな!ヒヨコ!この腕を切り落としたから強いことは認める!どんな刃物を使ったんだ?見せてみろよ!ヒヨコ!俺が相手してやる!」
「あぁ...見せてやるよ!破壊!」
だが、すんなりと避けられる。
「なっ...」
「残念だな!ヒヨコ!お前もヒヨコに変身する能力で可哀想だな?まぁ、鶏は鷲に勝てないんだよ!当たり前だがなぁ?」
ワインダーはユウヤの剣を腕についている2本の刃物で軽々と受け止めて、ショウガに肩をかける。
「リューガ...」
ショウガはこちらを見ている。そして、ウインクをした。
「ショウガ!大丈夫だ!やれ!」
「あぁ!鷹狩り!」
”ジョギィィン”
『柔軟』によってショウガの体の中に仕込まれていた剣がワインダーのもう片方の腕を斬り落とす。
「あ...あ...あぁぁぁぁぁぁ!腕がァァァ!」
「残念だったなぁ!鷲さんよぉ!!」
鷹狩り。ショウガが編み出した技で、筋肉を使って、体から刃物を飛ばす技だ。技名は「鷹を狩る」というところから付けた。ワインダーは鷲だが、鷹と鷲の違いというものは大きさなので、「鷹狩り」でも正解だ。
鷹「が」狩るのではなく、鷹「を」狩る技だ。
「腕が...腕がァァァ!」
ワインダーの腕は再生しない。ワインダーは走って逃げ出す。まるで、最初からプライドなどというものはないかのように。
「クソッ!ワインダーを逃がすな!」
「うん、逃がすつもりはないよ!」
”キィィン”
ユウヤが勢いよくワインダーの首を刎ねる。すると───
”サー”
まるでタンポポの綿毛が風で飛んでいくかのように。ワインダーの体は塵となって風に飛ばされていった。
これが『創意』の死に際だ。
「勝った...のか?」
「あぁ...勝った...」
「リカのところに!」
俺はまっ先にリカの方へ移動する。
「リカ!大丈夫か?リカ!」
リカがカゲユキの膝枕で看病を受けている。
「リカ!リカ!」
「安心しろ...リカの腹の傷は死ぬほどでもない...それに『硬化』で守っていたようだ...」
「そうか...よかった...」
俺は安堵のため息をつく。その瞬間───
「───ッ!」
筋肉痛が俺の全身を襲った。




