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第1033話 Dead or chicken

 

「──はぁぁ、なんだか。久しぶりに外の空気を吸った気がする」

 俺は、大きく吐いてそんなことを口にする。


 ──戦闘を終えた俺達は、月光徒のアジトの地下にあった秘密基地の、その一番下にあった研究ラボから抜け出し、地上にまで戻っていた。


 地上に戻ると、その世界は印象派に分類される絵画のような、美しいとも淀んでいるとも表現できそうな空が一面に広がっていた。

 出入り口の近くには、巨大な摩天楼がひっくり返って倒壊しており、『ゴエティア』の強さを実感させられる。


「クロエ。皆を助けてくれたんだってな。ありがとう」

「──いえ。別に私達は『チーム一鶴』を特別助けたかったわけではありませんので」


 クロエこと『ゴエティア』序列第5位の幹部魔人であるマルバスは、俺の感謝を受け取らない。

 その発言は、なんだかとっても彼らしい気がした。俺も、伝えたい感謝は伝えたのでそれで満足だ。


「──それにしても、本当に誰もいないな。もう他の『ゴエティア』のメンバーは撤退したのか?」

「はい。そのようみたいです。しかも見事に、幹部である私達7名を除いた全員が、死亡したようです」


 どこか、嬉しそうな笑顔を浮かべながらそんなことを平然と口にするクロエは、やはり魔神だ。

 俺は、クロエの笑顔には特に言及せずに次の話題に変えることにした。

 あ、俺は謀殺された『ゴエティア』の幹部でないメンバーだった者たちに、敬意を払っているし感謝もしている。ありがとう。貴方達の活躍がなければ、何か1ピースでも足りなくてステートに敗北し、魔女復活を止められなかったかもしれない。


 ──沈黙が続く。

 話題を変えると言ったけど、何を喋ればいいのかわからなかった。


 その沈黙は、まるで黙祷。

 俺は手を合わせられないけれど、月光徒に関わって死んだ人達へ対する黙祷。

 誰かの策謀に巻き込まれ、掌の上で踊らされていた者達へ対する黙祷。


 俺の頭の中に浮かび上がってくるのは、死んだ仲間の顔だった。

 皆、『チーム一鶴』として戦って命を散らしていった。その勇姿を後世に語り継げるのは、俺達だけだ。

 彼らのことを永遠に覚えていられるのは俺だけだ。


「──皆を、元の世界に戻しますね」

 ふと、クロエがそんなことを口にした。どうやら、俺達を元にいた29の世界に戻してくれるらしい。


「いいのか?」

「えぇ。帰るまでが戦いですし、私も片道切符で終わらせるつもりはありませんでした」

「そうか、じゃあお願いしようかな」


 てっきり、戻れないと思ったから宿はチェックアウトしてしまった。まぁ、また部屋を取ればいい。

 今度は1人分少なくていい。アイラがいなくなって、女子部屋が少し広くなった。


「それじゃ、帰る準備をしてください。29の世界への転移は一瞬ですので」

 クロエがそう口にする。俺は、フラフラと浮遊しながら倒れた塔の手元に移動していた。


 ──ここが、月光徒の最後のアジトだ。

 俺達が攻めたのは地下にあった秘密基地であり、摩天楼は『ゴエティア』に任せきりだったけれど、激しい戦いが行われていたのだろう。


「──さよなら。月光徒」

 俺は、小さくそう口にした。


 もう、俺と月光徒の因縁は完全に終わった。ステートのことを信用するのならば、月光徒と『チーム一鶴』の関係は、最終的に魔女復活することで完結していたはずだ。

 だから、もうこれ以上月光徒に関連する人物が俺達『チーム一鶴』の人生に関わってくることはないだろう。


「──これで、最後だ」

 俺はそう口にする。思えば、俺達と月光徒との関係は今いるどのメンバーよりも長いことになる。

 前までは、ショウガとリカが生きていたからそっちの方が付き合いは長かったけれども、今はもう死んでしまった。


 きっと、俺の異世界での人生はここで一区切りだろう。

 月光徒を壊滅させて、『ゴエティア』の幹部を隠居させることに成功した──と言っても、後者は自主的なものだが、とりあえず『ゴエティア』のメンバーが危険だと感じる人間がほとんど排除されたらしいから、それほどの強敵はいない。

 それを考えると、もう俺達『チーム一鶴』が大きな組織と敵対する──だなんてことは考にくい。

 2の世界から俺の人生にしつこく関わって来た月光徒との因縁もこれで終わりだ。これで、最後だ。


 ──と、俺があれほどまでに忌々しかった月光徒に、どこか寂しさを覚えていると俺の名を呼ぶ声が聴こえる。


「リューガ?準備できたー?」

 俺を呼ぶ皆の声。振り返ると、クロエの周囲に皆集まっていた。どうやら皆、帰る準備ができていたようだった。

 一体、どれほど感慨に耽っていたかはわからない。


「ごめんごめん、今行くよー!」

 俺はそう口にして皆の方へ浮遊して移動する。その最中に、俺は「魔女なら君を地球に戻せる」などといういつかの言葉を思い出した。


 きっと、魔女の持つ強大な力を考えれば、それも嘘ではないのだろう。実際、俺はステートの運命の魔法でこの世界に連れてこられたみたいだし。


 ──でも、実を言うともう既に地球にはそこまで執着はない。

 だって、もう俺はリューガとしてこの世界でも十分生きられているのだ。


 地球には戻れなくとも、後悔はない。

 だって俺は、『チーム一鶴』の皆と多くの世界を楽しんでいけるはずだから。

Dead or chicken ~ヒヨコに転生したので、地球に戻るためにヒヨコライフを謳歌する~  完


3年間、ありがとうございました。

リューガ達に会いたくなった時はまた、戻ってこようと思います。

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