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第1031話 『チーム一鶴』

 

「魂が入っていません。ステートも死んでいますし、リューガも死んでいます」


 クロエのそんな一言の意味を理解するのに、『チーム一鶴』の団員達は時間はかからなかった。

 だがしかし、理解をしてから納得するまではかなりの時間を要した。


 もちろん、リューガはこれまでに何度も死んで、それで何度も『憑依』して復活している。

 だから、リューガが死亡したと言う報告には、従来の死亡報告よりも軽い気持ちで聴くことができた。


 ──が、今回は別だ。

 リューガが『憑依』をするためにステートの口に突っ込んだのにも拘わらず、ステートに『憑依』することなく動かない。

 その状況は、『憑依』の失敗を意味していた。どうして失敗したかはわからないけれども、理由はたくさん思いついてしまうのが怖かった。


「そんな……」

 ステラが、絶望したような声を出す。そんな彼女を支えるように、イブはステラのことを抱きしめた。


 ──月光徒を壊滅させて、魔女復活の阻止も成功したのに、最後の最後でリーダーであるリューガの死亡が発覚する。

 どんなバッドエンドだろうか。寝覚めが悪いにも程がある。


「──まだだ」

 そう口にして、ステートの死体に近寄ったユウヤは、その太い腕を細いステートの口の中に突っ込む。


「ユウヤ!?」

「リューガの体を取り出す。それなら、まだなんとかならないか?」

「──」


 ユウヤは、リューガのことを助けようとしていた。クロエから「魂が入ってない」と聞いても、リューガを助けようとする気持ちがまだあった。

 ステートの口の奥へ奥へと必死に手を伸ばすユウヤだけれど、手の届く範疇にリューガの体は存在しない。どのくらい奥まで入り込んだのだろうか。頼む、届いてくれ──などと願っていると、ユウヤの隣に座り、小刀を取り出したのはユウヤの昔からの親友であるカゲユキだった。

 カゲユキの奥には、マユミの姿もある。ユウヤが2人の方を見ると、2人は「協力する」などと口にした。


「2人共、ありがとう」

 ユウヤがそう口にすると、何も言わずにステートの口から手を引き抜いた。そして、その場をカゲユキに渡すと、カゲユキは手に持った小刀を喉に突き刺す。


「何をするんだ?」

 後ろから覗き込むようにオルバが疑問を出す。きっと、他の皆も同じことを疑問に持っていただろう。


「消化される前にリューガの肉体をステートから取り出す。リューガの『憑依』の条件は誰かに食べられることだ。今回、ステートの体に『憑依』できていないのは、その条件が何らかの理由で達成できなかったと考えられる」


 カゲユキの推察は、外れている。

 だって実際は、リューガが《Dead or chicken?》という問いかけに「chiken」ではなく「dead」を選んだために魂が無くなっているのだ。肉体と繋がりを持つ魂だが、「dead」を選べばその繋がりだって切り離されてしまう。


 だけど、リューガが毎回《Dead or chicken?》と問われていることなどカゲユキは知る由もないから、彼の考察が先述の通りに行きつくのは半ば必然と言うべきだろう。


 彼は、自分の考察を頭に巡らせながら、ステートの喉を切り取る。消化器官の入り口が明らかになり、おぞましさというものが確かに存在している。

 だが、カゲユキはそんなこと関係なしに口の名からリューガを引っ張り出した。


「よし、出た」

「一回、水魔法で綺麗にして回復魔法をかけるわ」

 マユミはそう口にして、ステートの口の中にいたリューガを水魔法で洗浄して回復魔法をかける。

 けれど、ピクリとも反応はなく動くような素振りは見せない。

 皆がクロエの方を向くと、彼は首を小さく横に振り「弔ってあげてください」などと口にした。


 奇跡のリューガ復活大作戦は、失敗で幕を閉じた──と言いたいところだったが、まだ『チーム一鶴』の皆は諦めない。


「じゃあ、次は!」

 そう口にして、ユウヤは残された右手でリューガの死体に触れる。


「『鳳凰の縫合』」

 そう口にして、アザムから受け継いだ──というよりかは奪い取ったが正しいその能力を使用する。

『鳳凰の縫合』は、繋がっていたものは切り離し、切り離されたものは繋げることができる能力だ。


「頼む、頼む!」

 そう口にして祈るユウヤ。リューガの肉体から切り離された魂を繋げるのは、彼の仕事だ。

『チーム一鶴』最強であるバトラズとモンガにだって、固有魔法を持つイブとセイジにだって、『羽休め』や魔法など、回復魔法を持つセイジとリミアにだってできない、『チーム一鶴』の副リーダーである彼の仕事。


「リューガ、蘇れ!」

 ユウヤが、全身全霊で能力を使用する。肉体と切り離された魂を繋ぐ、彼にしかできない仕事。

 きっと、ユウヤが生き返らせることができるのは、リューガだけだろう。これまで何度だって、リューガの死を間近で見てきたのだ。リューガの魂に、何度も触れあっていたのだ。


 ──と、そんな願いを口にしていると、リューガの死体がピクリと動く。


 まるでご都合主義だが、ユウヤの前ではそうはならない。だって、彼が持つ豪運は病気として診断されている。病的なまでの豪運は、今日のためにあったのかもしれない。


 ──いや、豪運と思っていたものは、今日こうしてリューガを復活させるための布石だったのかもしれない。


「──あれ、皆」


『チーム一鶴』のリーダーが死の淵から復活したその時初めて、月光徒壊滅作戦が成功したと胸を張って言えるのだった。


 ──月光徒壊滅作戦、成功。

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