第1026話 最後のピース
「心配かけたな、リューガ……」
ステートによって簡単に吹き飛ばされたが、最前線に復帰したのは俺以外の『チーム一鶴』のメンバーだった。
「無事だったのか、よかった!」
派手に吹き飛ばされたから心配だったけれど、誰一人欠けずに戻ってこれたようだ。皆が無事だったことに、俺は一先ず安堵する。
「なんとかな」
「リミアさんの『羽休め』が無ければ全員駄目だったかもしれません!」
どうやら、リミアの『羽休め』で回復して、何とか前線に復帰したらしい。もしかしたら、リミアがいなかったら俺はいつまでも孤軍奮闘していたかもしれないのだ。
「リミア、よくやった!」
「当たり前ですよ!」
俺が声をかけると、リミアがどこか嬉しそうにした。そこに──
「──危ないッ!」
リミアに向けて放たれた凶刃。それから庇うようにして、バトラズとモンガの2人が入り込み、ステートの変形した爪を受け止める。
「──ッグ!」
刀と爪が拮抗し、2人の刀が震える音が聞こえる。先程まで攻撃の意思を見せなかったステートが、急にリミアに攻撃を試みたので俺は驚いて反応できなかったけれど、戦うつもりでいた2人はそれに対処できたようだった。
拮抗している3人を見て、俺はステートの方へと移動して攻撃を試みる。
──が、それは俺だけではなくユウヤやオルバも攻撃に動いていた。
「──『破壊』!」
「原流1本刀 其のニ!」
「『羅針盤・マシンガン』!」
3方向からの一斉攻撃。前方には侵攻を食い止めるバトラズとモンガの2人がいるため、実質的に逃げ場はない。
「──数の暴力か」
ステートは、そうやってどこか呆れたような声を出して空中に跳ねるようにして移動する。
それにより、バトラズとモンガの2人と拮抗した状態から抜け出て、俺達の攻撃も全て回避する。
──が、空中に逃げたら逃げたで面倒なことは変わりない。
「行け」
イブがそう口にすると同時、天井に穴が開きそこから大地が侵入してくる。どれだけ天井を展開して大地の対処をしようとも、イブはそれの攻略を諦めはしない。大地と言う莫大な質量を前にしては、どんな壁も無力なのだ。
「小癪な」
そう口にしたステートは、イブの魔法を破る。まるで紙のように大地を破るステートは神のようだった。
──が、神をも超えるそう決めた俺達にとって、そんなのはどうってことない。
「「「ファイヤー!」」」
マユミ・カゲユキ・セイジの声が重なって、炎魔法を披露する。ごうごうと唸り声を挙げながら、熱気を纏ったその紅蓮はステートめがけて衝突する。
容赦のない炎はステートを貪り、そのまま天井にぶつかりそれらを融かす。音を立てて溶けていく天井は、先程までステートが立っていたところに落下し、そのまま床までをも侵食した。
「──熱い」
俺は思わずそんなことを口にしてしまう。その炎にやられないように、俺やユウヤは少し距離を取り、ステートの焼死体が落ちてくるのを見守ったが──
「こんな攻撃、無駄と気付かないのか?」
「──ッ!」
その炎が無力化され、光り輝く熱気の中から再臨したのは傷一つないステートの姿であった。
彼は、この世に降臨した天使かのようにふわりと地面まで降りてくる。誰もその姿を見て「落ちている」とは言わないだろう。
「──効いてないのか?」
「私の運命に、傷つく自分の姿が見えないものでな」
「運命の魔女……厄介でちゅね」
セイジがそんなことを口にする。ステートの持っているのが運命の魔法ではなく、運命を見る能力だとしたらば、俺は『無能』を使用して無力化することもできた。
だけど、不都合なことに今回は「運命の魔法」であり魔女なのだ。能力を持っていたとしても、その能力を積極的に運用したりはしないだろう。
それこそ、ステートが使っている能力としては『有食人種』と言う、アイキーを使わなくても、好きな場所に移動できる狐の面の人物を生み出すものくらいしか思いつかない。
「──と、待てよ」
俺は、ひとつの作戦を思いつく。
もし、運命が見えてその運命通りになってしまうがために俺達の攻撃が通らないのだとすれば、運命を見れない状態にすれば攻撃が当たるようになるということだ。
──そうだとすれば。
「ステラ!狂乱の魔法を!」
俺は、ステラにそう指示を出す。彼女の魔法で狂乱状態に陥らせれば、ステートは手も足も出なくなる。
「くらえぇ!」
ステラがそう口にして、その前足をステートの方へと振りかざす。その動きに何か明確な意味があるのかはわからない。だけど、確実に攻撃を当てる──という意志が存在しているのはわかった。
「──ッ!」
ステートが喉を鳴らし、目を開く姿が見える。きっと、不良がステートの身を襲っているのだろう。
「──今だ、皆!」
そう口にして、俺達が動き出そうとしたその時──
「「「──眩しッ!」」」
これまで背景に徹していた、液体漬けにされたカール達12人──要するに、人工精霊の器たちが、揃いも揃って青白く輝き始める。
そのせいで俺達は全員、まるで運命付けられたように歩みを止めてしまう。
「一体、何が!」
不安と焦燥に駆られる中で、青白い光の中から聴こえてきたのは、ステートの高笑いだった。
──まさか、ステラに「狂乱の魔法」をかけられるまでが運命だったとでも言うのだろうか。




