第1018話 多勢に無勢
多対一。
月光徒の幹部であるチューバとタイマンで戦っていた俺の援軍としてやってきたのは、サルガタナスとの戦闘を任せていたユウヤとマユミ・カゲユキの3人であった。
ユウヤは、俺がどのくらいまでチューバを追いこんだかわからない状況で──というのも、俺が『無能』で『透明』を奪えたか否かもわからない状況で、俺を助けるためだけに飛び込んできてくれたのだ。
「──リューガ!あれはどうだ?」
「『透明』を奪うことに成功した。だけど、流石は月光徒の幹部だな。体術にも優れてるみたいだ」
カゲユキが、作戦のことについて聞いてきたので俺は必要な情報だけをピックアップして話す。
「ええ、『透明』を奪ったら勝てると思ったのに……」
マユミは、ボソリと面倒くさそうな感想を残す。
俺だって『透明』さえなんとかすれば問題ないと思っていたが、チューバ自身一枚岩じゃなかったようだ。
「『透明』があるのに鍛えたことを評価するべきだろうね」
ユウヤは先程の一撃の後に距離を取ってそんなことを口にする。左腕が無くなっているのは心配だったけれど、声をかけるのは今じゃないだろう。
今は、目の前のチューバに集中しなければ──
「──っと、危ない。油断も隙も見せれないな」
俺は、視界の端から強い顔で迫ってくる者の存在に気が付き、咄嗟にその場から動き出す。
チューバは、俺のことを真っ先に狙って捕まえようとしてきたのだ。
「ッチ、失敗か。『チーム一鶴』の戦意を削ぐには効率的だったんだけどな」
チューバは、俺には『憑依』があることを知っている。だがしかし、リーダーであり『チーム一鶴』の象徴とも言える俺のことを集中的に狙おうとしたらしい。俺は殺しても『憑依』してしまえば復活できるのに、『憑依』できない程に燃やし尽くすことができないチューバからしてみれば、俺を最初に殺すのはただ非効率的なだけなのに、真っ先に俺を殺そうとした。
「色々と考えられてるのな……」
俺はそんなことを口にしながら回避を選択する。『破壊』で応戦してもよかったけれど、チューバの動きがそれで止まるとは思えなかったのだ。
「回避されたなら仕方ない。誰か1人に固執していても、それが敗因になる可能性はあるからな」
チューバはそう口にする。そして、決着を急ぐかのように一番近くにいたカゲユキの方へと迫る。
「──カゲユキッ!」
「わかっている……」
カゲユキは、持っている魔法杖を構えて──
「ファイヤー!」
チューバの巨体を炎が襲う。変幻自在の炎を前に、チューバは為す術もなく燃やされる──と、思ったが。
「おらッ!」
腕を振るい、左腕と体についた炎を風圧で消し飛ばす。宙に溶けるようにして消えていった炎の跡形は無く、残ったのは右腕の炎だけだ。
「──マズい!」
そう口にするカゲユキであったが、気付いた時にはもう遅い。炎を纏ったその拳はカゲユキの顔面に吸い込まれるように放たれ──
「──ウインドぉぉ!」
反応の遅れたカゲユキを助けるために、マユミが風魔法を放ちその拳の動きを止める。
カゲユキの放った炎を吹き飛ばし、腕は空気の渦を殴るだけで動きは止まらない。
「──よし!」
「ありがとう、マユミ!」
攻撃を止められたことで嬉しそうな声を出すマユミと、それに感謝するカゲユキ。
カゲユキは後方に飛び、チューバから距離を取る。その代わり、チューバの方へと接近していったのは──
「──原流1本刀 其の三!」
チューバの首──いや、右肩を的確に狙った剣閃。
剣の筋道には紅い色が吹き出て、確実にダメージが入ったことを理解する。
「クソ、やられたか」
そう口にしたチューバの、いちばん外側にある右腕は、ダラリと下がったまま動かない。ユウヤは、首を斬ろうとしても避けられるから6本ある内の一本でも筋肉を切り落としたのかもしれない。
「6本の腕で乱打なんてされたら困るからな。斬らせてもらった」
「そうか。じゃあ、6本じゃなくて5本で乱打してやる」
そう口にして、反撃するようにユウヤの方へと迫るチューバ。俺は、その様子を見て後ろから回り込むようにチューバの方に接近して──
「──『ミサイルシェル』!」
口から貝殻を吐き出し、それをチューバの背中にぶつける。防御よりもユウヤの攻撃を優先しているのか、背中に深く刺さった『ミサイルシェル』は無視されるけれど、ダメージがないわけではないだろう。
問題は、俺の攻撃でチューバの動きを止められなかったことだ。
「ユウヤ!」
俺は、ユウヤの名前を呼ぶ。が──
「──もう遅い!」
その言葉と同時、ユウヤの頭を一本の腕がガシッと掴む。そして、空中に持ち上げられたユウヤは、体をジタバタと動かすけれども──
「意味はねぇよ、諦めろ」
その言葉と同時、一発一発が体を穿つような強い乱打を浴びせられる。
「ユウヤから、離れろ!『破壊』!」
そう口にして、俺は乱打を優先しているチューバの、ユウヤの頭を掴んでいる腕の1本を破壊する。
すると、ユウヤは殴られた衝撃で吹き飛ばされて、壁の方へと転がっていく。
「ユウヤ、大丈夫か!?」
俺がそう声をかけるけれども、ユウヤの返事は帰ってこない。マユミがすぐにユウヤの方へと走っていき、回復魔法をかけていた。
「よくもやってくれたな、チューバ」
「ハ。腕が2本で痛み分けだ」
──まだ、俺達とチューバの戦いは続く。




