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第1014話 神はいない

 

 ───もし、俺の生きる世界に神がいるのだとしたら、俺はきっとこんな悲痛な事実には直面しなかっただろう。だから、俺の生きる道に神はない。


 ───だなんて決めつけるのは早計だ。

 結論としてはこうだ。俺の生きる世界に神がいないわけではない。


 だがしかし、いるのは俺が追い求めるような善神でも、全知全能の強者でもない。

 俺の転生したこの世界にいるのは、鬼神(オニ)や魔神などの種族名に「神」の付く存在だ。

 そこから考えられるべき結論のは、この世界における「神」は人間以上の力を持つ生物のことを分類している単語であって、地球にあった神話に登場するような神ではない──ということだ。


 と、そんな結論を付けたことはおいておいて。

 言いたいこととしては、俺が求めているような神はいなかったという話だ。

 この能力や魔法が跋扈する争いの世界に、善を具現化したような強者の存在はなかったと言う話だ。


 だからこそ、俺の前にはこの2人がいる。

 だからこそ、俺の目の前には死んだ2人の姿がある。


「───どうしたんだ?リューガ。我と再会できたことに感激して言葉が出ないか?」

「リューガさんは寂しかったんですよね。この間は...ごめんなさい。負けちゃって」


 俺の目の前にいるのは、『チーム一鶴』の最古参であり、俺が1の世界で出会った2人───ショウガとリカであった。

 リカの言う「この間」は、26の世界のマフィンとの戦いでリカがマフィンに敗北してしまったことだろう。


 ───目の前の2人は、俺と最後に出会った時の姿をしていた。

 だけど、2人は死んでいる。ショウガは、バトラズの言っていたことを信じると病死してしまったらしいし、リカは先述の通り月光徒の幹部であるマフィンに殺された。


 ───だから、目の前にいるショウガとリカは偽物だ。

 カールが俺を足止めするために、目の前の2人を用意したのだ。


 カールの性格と意地の悪さが滲み出ていて、彼が静かに冷笑している姿が脳裏に浮かぶ。


「月光徒の中では珍しく友好的だと思っていたが、まさか最後の最後でこんな爆弾を用意してくるとは思わなかったぜ。あのクソ野郎」

 もしかしたら、目の前のショウガとリカは本物かもしれない───などと言うつまらない空想を頭の中に浮かぶ。


 月光徒の中には、死者をよみがえらせたり、過去から人を連れてくる──だなんてことをできる能力を持つ人材だっているかもしれない。

 そんな一縷の望みを持つ俺だってけど、理論的に考えてみればそんな希望などすぐに打ち壊される。

 理由としては、死者を復活させることができるのなら、ショウガやリカではなく月光徒の幹部であったヴィオラやマフィンを復活させた方が、俺達を倒しやすいのだ。


 だと言うのにそうしないということは、目の前の2人が偽物で、カールが俺のことを足止めするために嫌がらせとして生み出し作り出したとしか思えない。

 カールは、俺の仲間想いな所を見て嘲笑っているのである。


「───ショウガとリカの2人に聴きたい」

「なんだ?」

「なんですか?」

「俺のために死んでくれるか?」

「──嫌だ」

「嫌です」


「どうしてだ?」

「「そんなの決まってるじゃないですか。我ら(私達)が死んだら、リューガが悲しむから(です)」」

 2人の声が重なる。きっと、本物の2人も俺の問いかけにそう答えていただろう。


 ───目の前にいるのは、俺から見たショウガとリカの面影。幻想。三面鏡。


「───そうか。じゃあ、悲しませてくれ」

 そう口にすると同時、俺は動きだす。何の因果か知らないが、俺を妨害するためだけに生み出されてしまったショウガとリカの2人を弔うために、俺は動き出す。


「───容赦はしない。だからそっちも容赦はするな」

「───わかった」

「わかりました!」

 容赦はしない───だなんて言わずにただ奇襲して『破壊』を使用してしまえばいいのに、こういうことを言ってしまう分自分は目の前の2人を心の底から殺したくはないのだな───と自覚する。


 目をギュッと閉じ、俺は目の前の2人に接近し───


「『破壊』ッ!」

「『柔軟』!」

「『硬化』ッ!」

 俺の『破壊』を、ショウガは『柔軟』で受け流し、リカは『硬化』で受け止める。ショウガは回避したので当たっていないが、リカの方は防御なので、ガードしきれなかった分ダメージが入る。


「『冷凍』!」

 そのまま、2人を巻き込むようにして『冷凍』を行い動きを止める。


「───ッ!マズい!」

 俺は、剣を持つショウガから離れるように動きながら、リカの手が届かない後方の部分に移動する。

『冷凍』で動きを止めているから体を捻っても拳が飛んでくることはない。だから───


「『破壊』ッ!」


 "バキバキッ"


 リカの心臓を遠慮なく破壊し、そのままショウガの方へと向かう。ショウガは、『冷凍』で凍らされるものの、『柔軟』で氷から抜け出して俺の後方に迫ってきていた。


『飛閃軟突流  指──』


「何度だって見た技だ。俺が見極められないわけないだろ?『破壊』ッ!」

 ショウガの飛閃軟突流は、主に初見の相手に通用する奇襲の面が強い。だから、俺には通用しない。


 "バキバキッ"


 俺はリカに続いてショウガのことも『破壊』する。

 正直に言ってしまえば、覚悟を決めた俺にとってショウガもリカも俺の敵ではなかった。

 決して、2人が弱いと言いたいのではない。俺は2人のことを知り尽くしている。だから、2人の考えそうなことが手に取るようにわかるから、どこを狙えばいいのかも一目瞭然なのだ。


 霧消していく二人を背に、俺は何も言葉にできない。嬉しくない勝利は、胸に淀んで小さな波紋を生み出す。静かに、喪失感を咀嚼し反芻した俺は、更に下の階に進む決心をしたのだった。

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